予言的中
朝からの大攻勢に疲れ果てたソラは銀次の机につっぷしてほぼ溶けていた。早めに登校したのでまだ授業まではそれなりに時間があるために、ギリギリまで銀次と一緒にいるようだ。
「人が……多すぎる……」
校門で人に詰めかけられ、クラスに逃げてもクラスメイト(ほぼ男性)に心配の言葉を掛けられて疲れてしまったのだ。幸い、クラスの男子達は一声かけるとすぐに離れて田中などは他クラスの斎藤をはじめ銀次の知らない生徒と協力して廊下の人払いまでしていた。ギャラリーは四季とソラという話題の的となる二人を見に来ているらしい。
生徒会での失態を上手く誤魔化したのか、愛華はまだ学園のアイドルの座に座っているらしい。ただ、そこにソラが並んでいると言うのが今までと違う場所だった。
「俺も驚いたけどよ。生徒会のことや今までの雑務をソラがしていたことが広まったようだぜ。すっかり人気者になっちまったみたいだな。後、俺の机だからなそこ」
「銀次の匂いがするような気がする……銀次が何かしたの?」
「まぁ、呼び水程度にな、後は勝手に広まったぜ。こんだけ話題になりゃ、上靴を隠されることもないだろ」
銀次が肩を掴んでソラを起こす。銀次の視線の先には銀髪を掻き上げる愛華の姿とその取り巻きの姿があった。数人は二人を見てヒソヒソと噂話をしているようだ。
「あいつらも懲りないよな」
「そうかな? んと? 今まで何か違うような……」
「ソラの人気が出てきたからな。俺も、嫉妬とか小さいことは言ってられないな。彼氏としてドンと構えるぜ」
「嫉妬していいのに。その分、銀次にだけたっぷり尽くしたげるからね」
「それはほどほどでいいぞ。それにしても、ここまで大事になるのは想定外だったな」
生徒会での活躍を妬んだ愛華や、その取り巻きがソラに対して嫌がらせをすることを案じた銀次は、ソラのこれまでの功績を広めることで愛華達に牽制を入れていた。病み上がりのソラを守るためにできることをしようと校内の友人達を始め、動いていたのだが……効果は何故か予想以上であり、他学年にも広まっている始末。それが今朝の運動部の一件にもつながっているのだが、内心、どうしてこうなったと銀次も疑問に思っていた。
「ん~?」
外のギャラリーの反応をやクラスの女子の視線を見ていたソラは、徐々に表情を険しくする。
「どうした?」
「いや、視線がなんか銀次に向いているような……」
『桃井君いますか?』
廊下から女子が二人教室のドアに顔を突っ込んで、顔をだす。やや興奮している様子だった。
リボンの色から一年生だとわかる為、他クラスの女生徒だろう。
「あん? なるほど俺に来たか、待ってろソラ。すぐに話をつけてくる。授業前から来るとはいい度胸じゃねえか」
「……え、うん、いや……まさかっ!」
ソラ、何かを察する。銀次は嫌がらせがくると気合を入れて他クラスの女子の前に立つ。
浮き上がった考えに気を取られていたソラが立ち上がるが一瞬遅かった。
「おう、何か用か?」
悪人顔の有効活用と言わんばかりにガンをつける銀次だったが女子達はモジモジしながら上目遣いで距離を詰めて口を開いた。
「あの、好きです!」
「へっ?」
「……アッ˝」
ソラ、フリーズ。真っ白になってその場に立ちつくす。
「……冷やかしなら話にならんが、マジなら彼女がいて心底惚れているから無理だスマン。というか、人前で告白なんかして大丈夫なのかよ。あれか? 無理やり告白させられる罰ゲームか? イジメでもされてんなら相談に乗るぞ?」
後ろで黄色い声があがり、数人の女子がずいっと前に出てきた。
「あの、その一途なとこ素敵だと思います。彼女の為に頑張ってる姿、推せます!」
「私も、二人を応援してますっ」
「いつも、掃除を一生懸命したり、それとなく誰かの手伝いをしていて凄いと思ってました。髙城ちゃんが男子の姿をしている時から守っていて……同じ年なのに……あの、尊敬しています」
「髙城ちゃんを見る時の優しい視線がいいです」
「うにゃああああああああああ」
再起動したソラが後ろから銀次の腕に抱き着いて引き寄せる。
「銀次の彼女はボクなのでっ!」
「「「きゃああああ」」」
歓声を上げパチパチと拍手する者もいる始末。そのまま女子達は礼をして去っていった。
「なんだったんだ?」
「銀次……ボクが休んでいた三日間、何していたのか詳しく教えてほしいなぁ」
ソラから黒いオーラが立ち昇り銀次の涙目で銀次のシャツをガシッと掴んでいる。
「いや、別に……さっき言ったみたいにソラが如何に頑張っていたのかを話して回ってな。ついでに、運動部の手伝いとかくらいか? 後は、別にいつも通りだな。そういや、なんか誘われたけどソラの看病があるから早く帰ったし……本当になんもないぞ」
銀次は知る由もなかったが、ソラが男装をしていた時から一人矢面に立っていた銀次の人気は愛華の派閥に馴染めない一年女子達の間でそこそこ上がっていた。
ソラが女子だと判明し、学年テスト一位という結果やSNSの画像などで注目が集まり始めるとと必然的に一緒にいる銀次にも注意が集まる。元々、悪人面で嫌厭されていた銀次だったが、ソラといるときの銀次は優し気な表情をしており、そのギャップにやられてしまった女子が少数ながら確実に存在していた。
そして、ソラが休んでいる時も彼女の為に行動している姿に、水面下で進行していた銀次人気がついに表面化したのである。
銀次、モテ期到来!!
といっても、銀次本人は持ち前の鈍感さで気づいていないという状況である。
一方こっちも持ち前の聡明さで、銀次の置かれている客観的状況を理解したソラは冷や汗が止まらない。半狂乱で銀次を前後に揺さぶりながら涙目で訴える。以前スズが言っていた、彼女ができた男子はモテるという予言が斜め上方向で的中してしまったのだ。
「銀次、早退しよう。こんな獣の巣窟に銀次を置いておくわけにはいかないよっ! 三日も休んだ自分の迂闊さが憎いよっ!」
「まだ、ホームルームもしてないんだがっ! さっきのは何かの間違いだと思うぞ。俺はモテないからな……ん?」
そんな銀次の肩にマメだらけのゴツイ手が乗せられる。筋肉をはちきれんばかりに隆起させた斎藤であった。
「よぉ、銀次くぅううううん。随分とおモテになるようで……許せねぇよなぁ」
「一度、ゆっくり話をする必要がありそうだ。あっ、髙城ちゃん大丈夫だよ。ちょっと銀次に男の話があるだけだから。何、一撃で終わらせる」
「おい、さっきの子。うちのマネージャーなんだが? あんな表情初めて見たんだが?」
「お前が良い奴なのは知っている。髙城ちゃんともお似合いだ。だが、これは話が別なんだよ」
修羅もかくやという鬼気迫る表情で寄って来る男子に銀次の表情が引きつる。
「お、落ち着けお前等。俺にはソラっつう彼女がいるんだから、他の女子にモテてもしょうがねぇだろ。つーか、モテてない……」
「「「問答無用っ!」」」
結局一限が始まるギリギリまで修羅たちから逃げ切った銀次は、休み時間中は警戒モードとなったソラに引っ付かれ、隙あらば殺気を向けてくる男子達の対応を迫られるのだった。
次回の更新は多分月曜日です。
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