ちょっと、燃えてきたかも
放課後、掃除を終えた銀次のもとにソラが駆け寄って来た。
「行くか」
「……うん」
少し緊張気味に頷き、二人で歩き出す。一階の奥にある生徒会室の前に立ち、銀次が雑にノックをする。すぐに、ドアが開けられ二年の女生徒が顔を出した。前髪で片目が隠れており、銀次を見て少し驚いたように身をすくませた。
「あっ、えーと……」
「一年の桃井 銀次っす。今日はソラの付き添いで来ました」
銀次の背中からソラも顔を出す。
「庶務の及川先輩だよ。こんにちわ及川先輩」
「あっ、髙城君……じゃなくて髙城さんだね。庶務というか、手伝いの及川です、どうぞ入って。書記の男子がすぐに来るから。四季さんも中にいるわ」
銀次は生徒会室に入るのは初めてだったが、思ったより大きいというのが感想だった。
準備室からして立派なので、予想はできていたがそれでもこの部屋は広い。役員には個別にデスクがあるらしくパソコンやプリンターもあった。ポットやお菓子類も置いてあり扉付きの棚にはファイルが所せましと置かれている。一年の吉田やここに来るように言った男子も作業をしているようだ。愛華の後ろには澪が何も言わず暗い表情で立っている。
役員の机の他に来賓用に向かい合った二つのソファーがあり、そこには愛華が座っていた。
「愛華ちゃん……」
「遅かったわね。ソラ、座ったらどう?」
「二人はこっちへどうぞ。お茶を出すね……あっ、今切れてたんだった」
及川が二人を愛華の向かいのソファーに案内し、銀次とソラは座る。
二人の目の前の愛華は気怠そうに目を細めているが、姿勢はよく座り部屋の雰囲気も相まって絵になっていた。
「紅茶は定期で送られるようになっていたはずですけど」
ソラが言うと及川さんは申し訳なさそうに、愛華を見る。
「私が止めさせたのよ。他の銘柄を試したかったの」
「……そうなんだ」
「どうでもいいが、話の内容はなんだ?」
「書記が来る予定だけど……来たようね」
愛華が言い終わってすぐにドタバタと音ががして扉が開かれ、以前ソラに雑務を頼んで断れていた庶務の男子が入って来た。
「スマン遅れた。あぁ、四季さんお疲れ様。それに髙城さんも……なんで男子がいるんだ?」
「この前、教室に来た書記の先輩っすね。一年の桃井です。ソラの付き添いで来ました」
大井は横目でチラチラと愛華を見ながらソファーに座る。愛華と大井、銀次とソラが向かい合うように座っている状況だ。及川は立っていて話は聞いているようだ、吉田と他の手伝いも聞き耳を立てているのがわかる。
「いや、付き添いって……まぁいいか。会長は今日は用事らしいから、俺が説明するよ。前にも話したけど、髙城さんに生徒会に戻ってきて欲しい……というより次年度の役員になって欲しいんだ」
「……」
愛華は喋らずに手を組んで目を閉じた。明らかに不機嫌だが大井はそんな様子に気づかないようにペラペラと喋り始める。
「実は、生徒会の仕事が停滞してて、かなり不味い状況なんだ。来る時に一年から説明あったか? 前にも頼んだけど、生徒会の業務が停滞しているんだ。一年の生徒にも協力してもらっているけど、中々上手く行かなくて……他の奴が言うにはほとんど髙城さんが手伝ってくれていたんだろ? 前はほら、髙城さんが変な恰好だったから、今のイメチェンした姿なら生徒会役員としてもやっていけると思うんだ。四季さんと髙城さんで美人揃いの生徒会として絶対評価を貰えるって」
銀次が目線でソラに問いかけると、ソラは自分で聞くと目線で銀次に応える。
「話が見えません。ボクは雑務をもうしないと言いましたし。そもそも、ここには引継ぎをして欲しいと言われてきたんです。それに……なんで生徒会が困っているのかも理解できないです」
「それに関しては……まぁ、こちらの不手際というか……なんというか……例年よりも仕事が倍ほどに多いんだ。それに増えた仕事は新しいこともしているからノウハウが無くて……」
大井がチラチラと愛華を見る。先輩であるのに、大分気を使っているようだ。愛華が目を開いた。
「来期は私が生徒会長になるから、副会長である今の内から色々取り組みを増やしたの、他校や市と連携して学校のアピールを生徒会からしているのよ」
「つまり、四季が勝手に仕事を増やして生徒会がパンクしてんのか。お嬢様の無茶苦茶なわがままを通していたのはソラだってやっと気づいたか」
ピシリと銀次の言葉に生徒会の空気が凍る。
「桃井君。酷いことを言うのね……私って君に嫌われているのかしら。忠告も無視しているようだし」
「あぁ、それに関しては感謝してるぜ。おかげでソラに向きあう覚悟ができたからな。……脱線したな。好き嫌いの話じゃないから、わざわざソラをここに呼んだんだろ? 相当困ってんじゃねぇのか?」
「おい、一年。四季さんになんてことを言うんだ。彼女の働きで生徒会の評価が上がっていることは確かだ。そもそも、四季さんだってよく働いているんだ。髙城さんがどれだけ仕事できるか知らないけど、どうして及川も一年も髙城さんを戻すように言うのか……まぁ、可愛いから生徒会の評判は上がるだろうけど」
大井が首を傾げて愛華とソラを見る。どうやら愛華が仕事を自分の手柄にしているせいで大井はソラがどんな作業をしていたのか知らないようだ。
「……ボクは生徒会には入りません。だけど、困っていることについては興味があります。何に困っているのですか?」
「えっ、まぁ、今困っているのは去年と比べて増額された予算の計算と夏休みに向けた部活動の予算が合わないってことだけど……あと、来賓用のお茶菓子全般についていままでの方が良かったと先生方から言われてて……四季さんが仕上げてくれたんだけど……」
「……」
四季は唇を噛んだ。これから起きることを想像したのだろう。
「……銀次、手伝ってくれる?」
「いいぜ」
「資料室の鍵をください。間違いを今日中に探して指摘します。他にも問題があれば全部持ってきてください」
ソラが立ち上がり、言われるがままに他の一年が対応している資料をソラに渡した。
それを見た、愛華は立ち上がりソラよりも先に部屋を出て行こうとする。二人にすれ違う際に。
「化け物」
と言って、澪を連れて出て行った。
「ソラ……」
「心配しなくていいよ銀次。それに、前なら怖がってたけどさ」
資料を抱えて向き直ったソラはニヤリと銀次のようにあくどい笑みを浮かべる。
「ちょっと、燃えてきたかも」
「ハッ、じゃあ見せてやろうぜ。今までお前が何をしてきたかを」
ソラの抱えた資料を掴んで銀次は進み、ソラもそれに続いていて生徒会室横の準備室に入っていった。
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