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もう遅い系の主人公みたいな奴がクラスメイトにいるのだが、一向に不幸なままなので俺が幸せにしてやんよ  作者: 路地裏の茶屋


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おそろいは正義なのです。

 電車から降りて、駅からでると日差しが突き刺さる。空は晴天、カンカン照りだ。

 ソラは帽子を被り、銀次に手を伸ばした。


「手、繋ごうよ」


「あぁ」


 細く白い指にごつごつした手が重ねられる。ソラは上機嫌で白いワンピースを翻して歩く。

 少し大股で歩き方は女子らしいとはお世辞にも言えないが、銀次にはその方が安心できる。


「ショッピングモールで買うか? 飯もそこで食べられるし」


「それもいいけど、おもしろいお店を知ってるんだ。寄ってみない?」


 帽子のツバを摘まんで銀次を見上げるソラには勝算がありそうだった。


「へぇ、買い物は通販ですませてるんじゃないのか?」


「普段はそうなんだけど……職人さんの品物扱っているものは好きでたまーに見てたんだよ。お父さんからのお使いで、美術品とか送ったりするし」


 ソラは銀次の手を引いて、ショッピングモールに面したメインストリートから外れた細い道に入る。


「海外でイベントの設営とかしてるっていう親父さんか」


「うん……お母さんが家から出て行って、ほとんど帰ってこないけどね」


 ソラが両親のことを話すことは珍しい、その横顔から割り切ったような渇いた孤独を感じた銀次はその手を優しく握る。


「銀次?」


 見上げた銀次は真剣な顔でソラを見ていた。


「寂しかったな。よく頑張った」

 

 反射的に喉元に上がって来るのは「もう慣れた」「別に気にならない」「どうでもいい」そんな言葉達だけど、銀次の言葉あんまりにもまっすぐだから……。


「……うん、寂しかった。そんな女の子に手を差し伸べた銀次は悪い男だよ」


 どうしてもこの人の前では素直になってしまう。照れ隠しに一言添えて精一杯の抵抗を試みても。


「ハッ、そんなつもりはなかったんだけどな。責任はとるさ」


 こんな言葉が帰って来るのだから、銀次は悪い奴だ。聞こえないように呟く。


「覚悟してね」


 この手を離すつもりなんてないのだから。


「なんか言ったか?」


「別にー、ほらもうちょっとだよ」


 ショッピングモールから離れるように歩くこと数分。個人商店や小さなレストランがポツポツ並ぶ通りに出る。その中の、平仮名で『いろり』と書かれた引き戸の入り口の店に入る。店内はしっかりと冷房が効いているが、少し埃っぽい匂いがする。棚が無造作に置かれているせいで並んで歩くのがきついほどの通路と少し暗めの灯りをソラは気に入っていた。


「ここだよ。この狭さが落ち着くんだよね~、秘密基地っぽくない? もしくは魔女の隠れ家」


「狭すぎだろ。というかなんの店だここ?」


 銀次が疑問に思うのも無理はない。並んでいるのは食器ではなく海外の民芸品が並べられており、正直怪しい店と言う感じだ。しかし、ソラの言う通り非日常感を感じる内装はちょっとワクワクする。


「普通に雑貨のお店だよ。ネットショップとかもしてるし。内装や店に並べている品物は店員さんの趣味だとボクは思ってる」


「そこは、全然隠れ家っぽくないな……」


 ソラに連れられて見せの奥に行くと棚に挟まれた場所にいくとカウンターがあり、髪の毛を結った老婆が安楽椅子に座っていた。


「……いらっしゃい」


 ジロリと二人を睨む。


「こんちわっす」


 銀次は頭を下げて挨拶する。


「……銀次」


 ここまではドヤ顔で店を案内していたのに、店員を前にするとしれっと銀次の後ろに隠れるソラ。


「いや、俺はどうすりゃいいんだよ」


「進むのだ」


 ソラに押されて前に進むと、銀次の後ろからソラをだす。


「……食器が欲しいんです。ディナープレートと陶器の四角皿が二枚ほど、後はマグカップも欲しいです。も、目録から選ぶことも知ってます」


 やや上ずった声でソラが告げる。


「お客さん。うちの注文の仕方を知ってんのかい?」


 カウンターから眼鏡を取りだして店員がソラをマジマジと見つめる。


「何度か来たことがあるので」


「へぇ、覚えてないね。ほら目録だよ。そこにないやつもあるから、細かい注文は言ってちょうだい」


 分厚い目録をもらったソラがカウンター横のスペースに移動する。


「これでえらんで、奥から持ってきてもらうの。前に来たときは男子の格好だったけど、緊張したなぁ」


「まぁ、わかるわきゃないだろうけどさ。それにしても店に並んでいるのは本当に内装なんだな」


「買えるらしいけど、ちょっと高いよ」


「なるほど。ちなみに今日の俺の軍資金は清水から飛び降りた気分で8千円ほどだぞ。これ以上はお袋から追加でバイトを紹介してもらわないといけないからな」


「……ダイジョブダイジョブ」


 目線をそらすソラ。


「目を逸らすな……いっとくが彼女に奢らせるなんてまっぴらだぞ」

 

「だって、いい食器は料理のクオリティを確実に上げてくれるんだよ。妥協したくない」


「いいから、安いの買うぞ」


「ええー、プレゼント、プレゼントだから、せめて切立皿は信楽焼きで揃えたいんだよ。サラダボウルとかプレートは食洗器使える簡単なものでいいからさぁ」


 銀次の腕に抱き着いてせがむソラの目はガチだった。その迫力に冷や汗を掻く銀次。

 これは『尽くしたがり』スイッチが入っている……。


「その信楽焼きのやつは何円だ?」


「……2万程度」


「却下」


「大丈夫! お父さんから使い切れないほどお金貰ってるから。ちょっと引くほど送られるから」


 引っ付き虫のように銀次にだきついて駄々をこねるソラを銀次はにべもなく引き剥がす。


「親父さんが一人娘を心配して送ってくれているお金をそんな風に使えるか。それはソラの為に使うんだ。今日の予算で食器を揃えるぞ」 


 もし、ここで高級食器を買わせてしまったら将来どんな顔をしてソラの父親に相対すればいいのかと銀次は頭を抱える。とにかくここは、しっかりと適正金額で食器を揃える。店には悪いがこのまま出てホームセンターで食器をそろえようとかとも思う銀次だった。


「……じゃあ、僕が稼げば銀次の為に使っていいの? 銀次の身の回りのものを全部ボクが買ってあげる……いいかも」


 今日一番真剣な顔で思案をするソラをどうにかして止めたい銀次。


「落ち着けソラ、俺達は支え合えるはずだ」


「わかった。うん、よくわかった。今日は安いので我慢する。でもデザインにはこだわりたいよね」


 うむうむと頷くソラを見て銀次は予感がする。あれ? 付き合ってから尽くしたがりが悪化してないか? 何はともあれ、高級食器を買われる事態は回避できそうなので、今しがたの悪寒は棚にでも上げておく。


「予算を店員さんに伝えて選んでもらうか」


「それがいいかもね。お皿は安いのでまとめて買うとして、コップやお箸みたいな個人のものを買おうよ」


「最初からそういうふうに話をするべきだったぜ」


 というわけで店員に相談すると、カタログをペラペラとめくりながら箸とマグカップをおそろいで買うことにした。


「ソラも買うのか?」


「うん、おそろいなのでっ」


 紙袋で商品を受け取ったソラは嬉しそうに銀次の腕を抱く。店を出た二人は今度は安い皿を買うためにショッピングモールを目指すことにした。歩きながら、銀次はソラに話しかける。


「不思議なもんだな」


「何が?」


「食器なんて気にしていなかったけどよ、彼女とおそろいってのは確かに……こう、なんていうか、嬉しいもんだな」


 紙袋を笑顔で掲げる銀次を見るとソラはポケっとした顔で銀次を見つめた後、飛び込むように銀次を抱きしめてグリグリと銀次の胸に頭をなすりつける。一瞬周囲の目が気になった銀次だがソラの様子を見て、やや照れながら頭を撫でた。


「……今日ね、銀次用の食器を置く場所を準備したんだ。いままで、自分で使う分以外は高い所に置いていたから」


「そうか、ありがとうな」


「こっちがありがとうなんだよ。好きだよ銀次」


 ソラの家の食器棚には使われない食器が何枚かある。それらは高い位置に置かれていて手に取られることすらない。普段使いの場所にはソラが使う食器しかないということの意味を銀次は察していた。

 

「俺も好きだぜ、ソラ」


 両親の代わりには自分はなれないが、この寂しがりやな少女の傍にいることはできる。

 そのことを伝える為に、銀次は涙を浮かべるソラの頭を撫で続けた。

二話分を一気に投稿したので少し長いかもしれません。

次回更新は一週間ほど先になりそうです。


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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
[一言] き、気がついたら「次へ」が無くなっていた! ほんまブラックがいくらあっても足りません… 朝から甘いのご馳走様でした☺︎ おかわりいつでも待ってます(゜∀゜)
[良い点]  なんか段々猫っぽくなってきたかソラ‥‥‥いや最初の警戒具合とか、はじめから猫属性有りましたねw    ややドライな接客の店員さんがツボでした。  ソラの「秘密基地」発言、良く解るなあ。 …
[良い点] ソラさん、銀次をヒモにしたくなってきてるな?w 高額商品ではなく、夫婦茶碗でここは何卒…。
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