が、頑張るしかない!
銀次が作った鶏肉の照り焼きを食べたソラは、ちょっと頬を膨らませて一緒に洗い物をしていた。
「なんだよ、昼飯が気に入らなかったのか?」
「……美味しかった。ボクが銀次のご飯を作るつもりだったのに」
足先でちょんちょんと突きながら、むくれるソラ。爆睡しているところを起こされたら、机には照り焼きとサラダが置かれていたのだ。味付けは薄目で量も少なめに調整しており、小食のソラに配慮がされていた。思わず「美味しい……」と呟いたソラを見て銀次はカラカラと笑っていた。
「彼女が旨い旨いって飯を食ってくれるのは彼氏冥利に尽きるってもんだ」
そう言う銀次はソラから見てどこか大人っぽくてドキっとしてしまう。
頼りがいがあって、料理が上手で洗い物をしてくれる……あれ? 銀次ってば最強物件では?
なんて脳内で真剣に惚気ているうちに洗い物が終了する。ソラが棚からハンドクリームを取り出す。
「銀次も塗る? 手荒れしなくなるよ」
「あん? いや俺はいいよ。別にそんなの気にしないしな」
「ダメ、ほら手を出して」
「……くすぐったいんだが」
「がまん、がまん」
ニギニギと手を握って、クリームを銀次の手に塗る。
「おっきい」
「ソラが小さいんだよ。こんな細い指であんな絵がかけるもんなんだな」
そう言う銀次はちょっと視線を逸らしている。
「照れてる……銀次は可愛いなぁ」
「からかうなっての」
二人はリビングへ戻ってゲームの続きをしようとするが、ご飯を食べたことでソラの眠気は強くなったようだ。
「寝ててもいいぞ、明日は一緒に買い物行くんだろ?」
「……いつもはちょっと寝ればいいんだけど、安心しちゃって……ふわぁ、でも、もったいない」
銀次の腕を掴んで眠気に抗うソラに銀次は苦笑する。一体どれだけ緊張していたというのだろうか?
「ったく、ここで寝たら肩凝るぞ」
「ん、眠気覚ましにコーヒー淹れる。銀次はいる?」
「もらうぜ」
結局、コーヒーを飲んで眠気を退けたソラと銀次は夕方までゲームをした。明日の約束をしてその日は別れる。銀次を見送り部屋に戻ったソラはシャワーを浴び、ダボダボの部屋着を着て最低限の肌のケアをした後自室のベッドに倒れ込んだ。胸が一杯で晩御飯を食べる気にならない。
「夢みたいだ」
仰向けになって今日一日のことを思い出す。きっと、この後の人生でどれだけ辛いことがあっても全然チャラにできるほどに今が幸せだ。
『俺達は幸せになれる』
「うん、一緒に幸せになろうね」
頭の中の銀次に応える。明日は本人に言ってやろう。
「そうだ、スズちゃんにも報告しなくちゃ」
ゴロリとうつ伏せになって携帯を取り出す。
『銀次とお付き合いすることになりました』
ロケットが発射するスタンプを付けると、秒で既読が付く。
『マジ!? おめでとう!! やったね。まぁ、二人なら時間の問題だと思ってたよ』
「エヘヘ」
嬉しくて、銀次がどれだけカッコよかったかを書き連ねるソラ。するとスズから毛色の違った返信が来る。
『これからが大変じゃぞソラ』
『老師!?』
『銀次みたいな強面マジメタイプって……彼女ができるとモテるぞよ』
「……え、なにそれ?」
スズが言うには、世の中には彼女ができるとモテるという話があるらしい。
なんとか否定の材料を出そうとするが、思い出せば思い出すほど銀次はかっこいい。
なんなら先程、最強物件認定をしたばかりである。銀次が浮気をするような人でないことは百も承知だが、それを踏まえても不安がソラの胸中にズモモと湧き出てきた。
一方、携帯を持っているスズはというと。
「まぁ、買い物をしている感じからしてバカップルな二人だから大丈夫だけどね~。あ~ウチも彼氏欲し~、今度ソラちに彼氏ができる秘訣を教えてもらおうかな~……いや、一応恋愛上級者(自称)のプライドが……」
といったように、ちょっとしたからかいのつもりだったのが……。
「ど、どうしよっ。どうしよ、そんな状況なのにボクってば普通に寝ちゃうし、ご飯作らせちゃうし……」
自分にいまいち自信のないソラはプチパニックに陥っていた。その様子をスズがみればすぐにフォローしたであろうがメッセージのやり取りのせいでソラに与える影響を知ることができていない。
「が、頑張るしかない!」
例え誰がやってこようと銀次は絶対に渡せない。ベッドから飛び降りたソラはクローゼットから白のワンピースを取り出す。前に銀次と一緒に買った服だ。
明日のデートで自分が彼女だとビシっと銀次にわかってもらう。そう決意したソラは化粧道具の準備にとりかかったのだった。
次回更新は一週間ほど先になりそうです。
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