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尽くしたがりと甘えたがり

 ソラが三階に上がった後、ソファーに座っていた銀次は時計を確認する。


「まだ、朝の10時前か……」


 なんだか一日が終わったような疲労感だが、まだ休日は始まったばかりである。

 一応、付き合って初めての休日ということになるのだろうか?


「……なんにも考えてなかったぜ。どっか遊びにでも行くかな?」


 告白で精いっぱいでこの後のことを考えていなかった。どうしたものか、考えているとドタバタとソラが降りてくる。


「お、お待たせっ!」


「待ってないぞ。コケるなよ」


 転がるように部屋にはいってきたソラは、シャツにショートパンツといったボーイッシュな恰好だった。持っている服が少ないので、精一杯の女子っぽい服装である。とっておきのワンピースを着ようかとも悩んだが、家で着るという感覚でないので次点でショーパンを選択していた。


「……」


 ソラをジーッと見る銀次。


「な、なにさ?」


「いいや、可愛いと思ってな」


「ふぇ……」


 ボンっと赤くなったソラは、感情を抑えきれないようにパタパタと足踏みをした後に、ゆっくり銀次に近づいて、ソファーに座りむぎゅーと抱き着いた。


「……こんなに好きにさせてどうするつもりなのさ」


「どうなるんだ?」


 優しく頭を撫でる銀次の掌を感じて目を細めるソラ。なんか子犬みたいだなと銀次は思う。

 銀次の問いかけを受けて、ソラはフニャリと笑みを浮かべながら銀次を見上げる。


「コーヒー淹れたげる。朝ごはんは食べた?」


「家を出る前に簡単に食べてるな。ソラは食べてなさそうだけど、大丈夫か?」


「お腹減ってないんだよね。でもせっかくだしサンドイッチでも作ろうかな」


「手伝うぜ」


「だーめ、今日の分の『尽くしたがり』だよ」


 そう言って上機嫌にキッチンに引っ込んだこと思うと、十分も経たずにアイスコーヒーとサンドイッチが出てくる。レタスとトマトにチーズを挟んだかなり手の込んだサンドイッチだった。

 

「早いな……」


「具材を挟むだけだしね。はい、あーん」


 お盆が机に置かれてあたりまえのように、ソラから銀次へサンドイッチを差し出される。


「いや、ソラが食べるべきだろ」


「そのつもりだったけど、銀次の分も作ったから、あーん」


「まぁ、食べるけどよ……あーん」


 かぶりつく、厚切りのトマトが塩っけのあるチーズと交わって美味しい。食べさせてもらうことになれている自分にどこか敗北感を感じつつ、ソラが嬉しそうなのでこれでよいかと思う。

 しかし、このままやられっぱなしも悔しい。


「じゃあ、次は俺だな。ほれ、あーん」


 仕返しのつもりで差し出したサンドイッチにソラが勢いよくかぶりつく、口が小さく全部を頬張ることができず、潰れたトマトが零れる。


「こぼれた……えへへ」


「おっと、ティッシュあるか?」


「そこにあるよ」


 指さした先にある猫のぬいぐるみのティッシュ入れから銀次がティッシュを取り出す。

 差し出すとソラは顔をつきだした。


「んっ」


 それはイタズラをした時の子供のようなニヤニヤした表情だった。


「……」


 露骨に甘えてくるソラから少し視線を逸らして銀次は口元を拭った。

 柔らかな感触が指に伝わる。


「尽くしたがりというより、甘えたがりだな」


「だって……彼女だし……」


 すぐに不安そうになるソラに銀次は追加でサンドイッチを突き出した。


「そうだな、存分に甘えてくれよ」


「ムグっ……銀次はいい彼氏だなぁ」


 満足そうにサンドイッチを食べさせ合う。片付けは銀次の強い意思で二人ですることになった。

 流しで二人並んでコーヒーカップを洗っていると、まじまじとソラがグラスを見つめる。


「うーん。お客様用の食器はあるけど、銀次用の食器が欲しいなぁ」


「別に客用でもいいぞ」


「銀次はお客様じゃなくて、彼氏なので却下です。実際、客用の食器もあんまりないし、銀次の食器はあったほうが便利なんだよね」


 銀次が食器棚を向くと、確かにそこにある食器はかなり少ない。一応棚の上にはビールジョッキなどもあるがもう何年も使われていないようだ。


「じゃあ、買いに行くか。今月のこづかいならまだ少し残ってるしな」


「やらいでかっ……と言いたいけど、今日はのんびりしたい気分かも。せっかくだし、明日、一緒に買いに行くのはどう?」


 洗い物を終えて、ソラが手を吹いて伸びをする。


「それでもいいけどよ、今日はどうする?」


 銀次としてはここで解散というのは少し寂しい。ソラは銀次の手を取ってリビングに連れて行く。

 テレビ台から、ゲームソフトを取り出した。


「銀次の家にあるゲームを買ったんだよね。せっかくだし一緒にやろうよ。コントローラーも二つ用意したからさ」


「おっ、いいじゃねぇか。今日は家でのんびりとするか」


「賛成っ!」


 そして、二人でゲームをして数時間後、銀次の横でコントローラを握ったままスヤスヤと眠るソラ。

 銀次は優しくほほ笑んで、立ち上がると腕まくりをする。時間は13時を回った頃、寝不足な彼女の為に昼ご飯を用意してやらねばならないと、ヘル〇オの前に立つのだった。

次回更新は一週間先ほどになりそうです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 愛を囁くのがうまいのはてめーの方だな銀次! これからてめーは 泣きながら幸せの絶頂期を迎えるわけだが ひとつだけ神父様にゃ まかせられんことがある………それは! 「披露宴の挨拶」だッ!…
[良い点] 冒頭朝チュンかと思ったのはここだけの話w 交際初日にしてこの糖度…今年の夏は暑かったしたわわに実っておるようじゃ…。
[良い点] 待ってましたよ。そして期待を裏切らない所か 越えてきました。最高です。 こんな時代にこんなラブコメが読めるなんて 感謝感激です。しばらくはイチャコラシーンを お願いします。 [気になる点]…
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