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鉄鍋チャーハン

「この辺にすっか」


 銀次が大きく伸びをして、首を回す。目覚まし時計が差すのは午後6時半。結構いい時間である。


「なんか、愛華ちゃんに任されている作業の引継ぎをした気分なんだけど」


 二人の前に置かれたノートには学校内での愛華に任されている仕事の内訳や今後のスケジュールが描かれていた。


「二人でやりゃあ、楽なもんさ。晩飯食べてけよ」


「えと、流石に悪いよ。ここまでお世話になっているし」


 肩をすくませるソラの背中を叩いて銀次が笑う。


「そう思ってんなら、最後まで甘えとけ。ただでさえお前はこれまで頑張って、今日は嫌なことあったんだ」


「……じゃあ、ご馳走になろうかな? ご両親は?」


「母さんは出張。親父もついて行ってる」


「そうなんだ……ふつう逆じゃない?」


「我が家の大黒柱は母さんなんだよ。ほら、居間に行くぞ。テレビでも見てろ」


「ちょ、背中押さないで」


 二人が居間に行くと、銀次の弟の哲也が机に将棋盤を置いて詰将棋を解いていた。


「お疲れ、話は終わったの?」


「おう、悪かったな。すぐに飯にする」


「ゆっくりでいいよ。まだ解けないから」


 銀次が台所に行き、エプロンを付ける。その後ろをヒヨコのようにソラがついていた。


「……座ってろよ」


「手伝うよ。こう見えて料理は得意だから」


 体を乗り出すソラに露骨に嫌そうな顔をする銀次。


「俺も得意だ。お前は客、俺は今は家主代理。もてなされてろ」


「客じゃないし……友達でしょ?」


 上目遣いで確認。珍しく銀次が押される。


「言うじゃねぇか。だが、足手まといと断じたら台所から追い出すからな」


「やらいでか」


「じゃあ、学ラン脱げよ。油散るぞ」


「……そだね。エプロン貸してくれる?」


 なぜか背中を向いてエプロンを装備するソラ。そして向き直ってシャツの袖をめくる。


「メニューは?」


「チャーハンと卵スープ」


 銀次が持ち手のある中華鍋を取り出す。


「む、鉄パンなんだ。お手入れ大変なやつ」


「それがいいんだよ。手入れさえすりゃ何年でも使えっからな」


 鉄パンを置いた後、具材の下準備を始める銀次にソラが並ぶ。

 

「ネギはわかるけど、白菜いれるの? 水っぽくなるよ?」


「痛みそうな野菜はとりあえず全部入れる。強火で焼きゃ大丈夫だ。手慣れてるな?」


 ソラは慣れた様子でネギをみじん切りにしている。


「作るのは好きなんだ。あんまり食べられないから、量だけが悩みなんだよね」


「なら俺が食べてやんよ」


「ほんと、じゃあ大きな食材を使う料理とか挑戦しようかな」


 とか話している間にも二人で下準備が完了していた。立ち位置を整えてから、銀次が慣れた様子で鍋に油を入れてなじませる。卵を入れて、冷やしたご飯をすぐに投入。一気にかき混ぜ具材を入れる。


「はい、鳥ガラ、〇の素、醤油ちょびっと」


 鍋を振る銀次の横から、調味料を投入するソラ。


「よっと、完成」


「スープはもうちょっとかな」


 鍋を見ながら、不意に訪れる静かな間。ソラが口を開いた。


「あのさ、銀次はなんでボクを助けようと思ったの?」


「……助けるねぇ。俺は……頑張っている奴には幸せになって欲しいだけだ」


「……ふぅん。変わってるね」


「よく言われる」


 狭い台所の二口コンロで肩が触れる距離で料理する二人だが、不思議と窮屈ではなかった。

 卵が固まり、ラー油を一垂らししてスープが完成する。

 

「テツ、晩飯できたから取りに来い」


「来てるよ」


 その二人を見ている哲也。もちろん無表情である。


「なんだいたのか、声でもかけりゃいいのに」


「……まぁ、声かけるのは無理かな」


「あん?」「うん?」


 首を傾げる二人を他所に料理を運ぶ弟なのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] てつくん、お疲れさま。
[一言] 「やらいでか」なんて言うオナゴがこの世にいるのだろうか。。
[良い点]  傍から見りゃ夫婦の呼吸w  哲也はソラの隠し事見抜いているみたいだし、そりゃあ声掛けづらいよねこんな空気。
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