彼氏と彼女
強く抱きしめた。ソラの背中は震えていた。
「怖いんだ……銀次がいなくなっちゃうのが」
ポロポロと大粒の涙が止まらない。自分を包んでくれる温かさが体に染み込んでいく。
「大丈夫だずっと一緒だ。なぁ、ソラ。聞いてくれるか? カッコ悪い俺のことを」
「銀次はカッコいいよ」
銀次の背に手が回される。
「そうでもねぇさ。一緒にいれば喧嘩もするかもしれないし、俺はバカだからソラを傷つけてしまうかも知れねぇ。その傷がずっと残るんじゃないかって怖かった。カッコ悪いだろ?」
「今も怖いの?」
口を結ぶソラの問いかけに、銀次が体を離してその目を見る。銀次は笑っていた。そして夕焼けの絵を見る。
「あぁ怖い。だけどさ、この絵を見てるとそれでいいって思えたんだ。大事だから怖いんだ。それがわかった」
キャンパスにかけられた二人で初めて見た夕焼け、重なっていく思い出の全ては大事な宝物だ。
楽しいことも、辛いことも、二人にとって必要な事だって胸を張って言える。
「銀次……」
「ソラほど記憶力はよくねぇけどさ、俺にだって変わらない気持ちがある」
銀次が手を差し出し、ソラが掴み立ち上がる。銀次は息を深く吸った。
「ソラ、好きだ。ずっと一緒にいてくれ」
銀次を見るソラの瞳から、また涙が流れる。顔に両手を空け背中を丸め、銀次に飛びついた。
「う゛ん゛、いる。一緒にいる! 好きだよ銀次、大好きだよっ!」
そこから先は言葉にならなかった。光の当たる部屋の中心でキャンパスの中の夕焼けが優しく、二人を見守っていた。
落ち着いたソラだったが、溢れた感情が制御できないようで銀次に引っ付いたまま動き出し、銀次を引っ張って階段を昇り、靴を乱暴に脱いでソファーに銀次を座らせてそのまま抱きつく。ぐりぐりと頭を押し付けて、離そうとしない。
「ソラ、顔を上げてくれよ」
「やだ、目とか腫れてるし、酷い顔だもん」
「……ほれ」
銀次が体の向きを変えて、俯くソラの顔を上にあげると、ソラはニヤニヤと溶けた表情だった。
銀次がホッペをムニムニと摘まむ。
「うにゃ、銀次、何すんのさ」
「可愛いから大丈夫だ」
今まで踏み込めなかった、お互いへの気持ちを打ち明けて安心して、二人は弛緩した雰囲気になる。
いつものような雰囲気だけど、どこか甘酸っぱい。
銀次がソファーに身体を投げ出す。
「あー、緊張した」
実際心臓バクバクだった。お互いの想いに確信はあったがそれでも告白の時は思い出すだけで変な汗がでるほどだ。
「いや、ボクの台詞だから。こっちは、どの角度からきてもバッチこい状態だったから。というかボクから告白するつもりだったし」
愛華がいなくなったこと、母親のこと、それを銀次に伝えてそれでも一緒にいて欲しいと銀次に告げるつもりだったのだが、言う前に銀次は応えてくれた。嬉しすぎて、どう表現してよいかわからず少しふてたような表情で銀次の脇腹をつっつく。銀次は指を掴んで絡ませた。指相撲をしながら、笑い合う。
「そりゃあ良かった。俺としては自分からきっちりしたかったからな。……一応聞くが、俺達は付き合っているということでいいんだよな?」
「だ、だと思うけど」
「……」
「……」
絡んだ指先を持ち上げて、二人で見つめ合った後、目を逸らす。
指を離して、ソラがソファーから立ち上がる。
「ツナギのまんまだし、着替えてくるね。『彼氏』の前だし」
彼氏を強調するソラ。
「そうだな、じゃあ俺は可愛い『彼女』を待ってる……」
それを受けて彼女を強調する銀次。照れくさくて、最後まで言い切れずソファーにうつ伏せになる。ムフンと勝ち誇ったソラが三階の自分の部屋に入り、後ろ手でドアを閉めた後。
ベッドにダイブした。
「やったぁ、やった、やった、やった」
ソラは枕に顔を押し付けて、足をバタバタと振ったのだった。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。ブックマーク、評価、感想、レビュー、いいね。全てに励まされて楽しく書いています。皆様のおかげです。
今後のことについてお知らせがあります。二人の関係が進展しましたが、物語は終わりません。まだ続きます。
むしろ、ここからの加速していくイチャラブをしっかりと描いていきたいと強く思っています。
作中ではこれから夏休みに入るのでイベント盛りだくさんですしね。
なのですが、実は同時に連載していた拙作【奴隷に鍛えられる異世界生活】がこの度、書籍化することになり、書籍化作業が始まっています。その為、更新頻度が下がってしまいます。まことに申し訳ありません。
週一更新は確保していくつもりですが、何分初めての作業で手探りの状態の為、どうなるかわかりません。しかし、私自身この物語がとても好きで最後まで書ききりたいと思っています。作業が落ち着けば更新頻度もあげられますので何卒、これからも二人の物語をよろしくお願いします!!
路地裏の茶屋でした。