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そっちの方が美味しいよ

 メンチカツを食べた後、ケーキ屋に向かう二人だったが。


「売り切れか……」


 店のドアにアイスクレープ売れ切れの張り紙が張っていた。


「アハハ、残念。人気なんだね」


「無駄に拘ってるからな、また来ようぜ」


 二人で笑い合い、歩き出す。


「じゃあ、折角だし商店街で食材買おうよ。今日は何食べたい?」


「そうだな……クレープ繋がりで粉物が食べたくなったな」


「クレープから粉物を連想するの飛躍してない? でもいいね。何を隠そう、ボクは一人タコ焼きパーティーの達人だから」


 ムンと胸を張るソラだが、食の細いソラが一人でタコ焼きパーティーする様子を想像した銀次は、何とも言えない気持ちになる。


「……そ、そうか」


「どうせボッチだよっ!」


 しゃー、と猫化して威嚇するソラ。


「そっちが振った話題だろうがっ!」


「いいもん、これからは銀次がいるもん。今日はタコパにするっ」


 銀次の腕を掴みながらちょっと膨れて訴えるソラを銀次は苦笑して受け止める。


「いいじゃねぇか、パーティーって言うくらいならテツもいた方がいいな。今日は予定を変えて俺ん家でタコ焼きといくか。言っとくが、俺もタコ焼きには一家言ある男だぜ」


「へぇ、タコ焼き器あるんだ」


「一式揃ってるぜ、知っていると思うが俺の家のソースは瓶ソースだ」


「ボクは自分でブレンドしてるけど?」


「……」


「……」


 二人で顔を見合わせてニヤリと笑う。


「「勝負だ(ね)」」


 というわけで商店街で食材を揃え、わざわざソラの家に自家製ソースを回収した後に銀次の家でタコ焼きパーティーが始まった。


「公平を期すために審判はテツにやってもらう。身内の贔屓なんてしない男だ」


 唐突に審判を命じられ『私が審判です』という100円ショップのタスキをつけられた哲也が無表情で居間に正座させられていた。


「……まぁ、やるけど」


 色々ツッコミたいが、兄とその想い人が楽しそうなので無表情で了承する哲也、できた弟である。

 

「小麦粉に昆布茶の元……ベーキングパウダー、フードプロセッサーも持って来ればよかったなぁ」

 

 銀次の家に準備してあるエプロンをつけて、計りでタコ焼き粉から作るソラ。そして、そして部屋着に着替えた銀次が横で狭い台所でタネを作り始める。


「そこからすんのかよっ! 俺は市販のタコ焼き粉で行くぜ。なんだかんだこれが旨いからな」


「フフフ、甘いよ銀次。粉の段階で違いがでるのさ」


 勝ち誇こるソラに銀次は手に持つものを見せる。


「勝った気でいるのも今の内だぜ」


「長芋……だと」


 悪人顔で煽る銀次を見てソラが一歩退く。二人でノリノリである。


「安定した市販の粉だからこそできるカスタムってわけよ」


「やるじゃん。だけど、真の違いは焼きででるんだよ」


「言うじゃねぇか、違いを見せてやるぜ」


 具材は二人で協力してカットし、居間で哲也が準備したタコ焼き器の周りに種と具材をずらりと並べられる。


「勝負の具材はタコで決める。その後は自由だけどな。追加のトッピングも自由だ」


「タコパだからね、色んな味があった方が楽しいもんね」


 電気式のタコ焼き器を前に楽しそうな二人を見て、哲也は無表情でうんうんと頷いていた。

 じゃんけんの結果、先攻はソラに決定する。たっぷりの油をプレートに塗り、慣れた様子でタネを流し込み、タコを入れ、ネギと刻んだショウガも少しかける。最後に天かすを入れた後、竹串を使いひっくり返す。その後に刷毛でもう一度油を塗って表面をカリカリにする手法だ。温度にムラがある焼き器の特製を見抜き、均一になるようにたこ焼きの移動も欠かさない心配りである。


「最後に調整した自家製ソースをかけてっと、どうぞ召し上がれ」


 出来立てこそが至高であるたこ焼きが、丁寧にも船皿に盛られて銀次と哲也の前に置かれる。

 ソースたっぷり、マヨ少な目、気持ち青のり、かつお節たっぷりといったトッピングだった。


「クっ……旨い! 濃い目の味が好みだぜっ!」


「美味しい。ピリ辛なんすね」


 二人の反応は上々であり、鼻高々と言った様子のソラである。

 

 次は銀次の番だ。ソラと同じように油をたっぷりと塗った後に先にタコを入れて、タコの入れ忘れを防止しながらタネを入れる。ネギを多めにちらし、隠し味程度にショウガを入れる。天かすを入れた後は気持ち早めに竹串を入れてネタをひっくり返し、焼き加減を調整していく。小まめに串を入れて形を整え、桃井家愛用の瓶ソースをかけて、マヨも気持ち多めで青のり、かつお節をトッピングして、ソラと哲也の前に船皿で置いた。


「お待ちどう」


「いただきます。はふっ……熱っ、ソースまろやか……中トロで美味しい」


「……兄貴にしては柔らかな味わい。出汁の下味が出てるね」


 こうして二人のたこ焼きが出揃い、結果発表となるわけだが、哲也が口を開く前に銀次が手を前に出した。


「待てテツ、結果はわかっている。……俺の負けだ。ソラのたこ焼き、すっげぇ旨かった。男らしく負けを認めるぜ」


 銀次の言葉を聞いて、ソラは首を振る。


「情けはいらないよ。食べ比べてわかるけど、明確に銀次の方が美味しいから」


 銀次はソラが勝ちといい、ソラは銀次が勝ちと主張する。


「いや、ソラの方が――」


「絶対、銀次の方が――」


 収集のつかない二人を見て哲也はパンと手を打って場を鎮める。


「一応審判は俺、結果だけど……引き分け」


 哲也の発表に納得できないと二人が唇を尖らせるが、哲也は無表情のまま評価を口にした。


「言っとくけどちゃんと理由あるから。このたこ焼き、ソラ先輩は兄貴の好みに作っているし、兄貴もソラ先輩が好きな感じで作ってるでしょ。そりゃお互いの方が旨いって言うよ。だから引き分け」


「あん?」


「へっ?」


 ポカンとする銀次とソラを見て、哲也は無意識だったのかとなんともいえない気持ちになる。

 もはや意識しなくとも相手が中心になっている二人がどうしてまだ付き合っていないのか、自分の恋愛観がずれているのかと疑問に思うほどった。目の前の二人は、しばし見つめ合い照れて笑い合っている。


「まぁ……テツが言うならしょうがねぇな。引き分けだソラ」


「エヘヘ、そうだね。次は具材を変えてみよっか、ほらあーん」


 ついには弟の前で食べさせ合いが始まる始末。しかし、二人が楽しそうならばそれでいいと、自分の分のたこ焼きをおかわりするできた弟なのだった。

次回の更新は明後日の予定です。


yuki様にレビューをいただきました!!!!

わかりやすいあらすじに、この作品の魅力を詰め込んでいただいたレビューです。

是非、お読みください!! 本当にありがとうございます。


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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
 砂糖の次は、口からタコがはみ出そう……
[一言] テツ・・・お前、なんでそんなに達観できてんだよ・・・
[良い点] 無自覚にお互いの好みにしてると気づくテツの分析力よ...本人らも気づいてないし。 お前らもう実は付き合ってるだろ [一言] >>長芋……だと(……?) ソラちゃん...きさま見ているな
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