ここで寝ればいいんだよ
結局、愛華はその日は教室に現れなかった。澪が一限目の終わりにどこかへ行ったので、愛華に呼ばれたのかもしれない。ソラが出て行った生徒会が問題を起こしたという話は聞かないし、何かが起きる気配もない。安心した銀次は寝ぼけ眼を擦る。授業中に寝ればいいのだが、性格上それをするのは気が引けるようだ。うつらうつら、船を漕ぎながらなんとか授業を耐える。
「銀次、眠そうだね」
「ちょっと、落ち着いて来たけどな……早く寝るか」
二限目の数学が終わったタイミングで、ソラが銀次に近寄る。ソラを一目見ようと他のクラスや学年の生徒がクラスのドアに固まっているが、中に入って来ることもない。
「早く寝るか……銀次、今日は時間ある?」
「放課後か? あるぜ」
「じゃあさ――」
「あの髙城さん」
ソラの言葉を遮って、クラスの女子が話しかけてきた。
「……何かな?」
「いや、SNS凄いなぁって、今見たら色んな所に拡散されてるし」
「ありがと、お店の割引の為に撮ってもらっただけだから……もういいかな?」
「あ、うん。またね」
そそくさと女子は戻っていく。自分たちのグループに戻ってキャアキャアと姦しくしていた。
「……なんだったんだ?」
「さぁ? あの子、ボクが男子の格好して愛華ちゃんと一緒にいた時は色々言ってたのにな」
「忘れたんだろ。そんなもんだ」
「なんだか、釈然としない……ボクは忘れられないのに……」
「許さないならそれでいいけどよ、それで色んなことを拒絶するのも良くないぞ」
「愛華ちゃん関係なしに、人と喋るの苦手だし」
「そこは頑張れよ」
見かけは変わってもボッチ気質は変わらないようだ。
「銀次が一緒なら頑張る」
「……なら頑張るしかねぇぞ」
「エヘヘ、そうだよね」
この先も一緒ならということを暗に言われ、ソラはふにゃりと表情を崩す。そのまま眠たげな銀次のホッペをつんつんと突いていた。
昼休み、いつもの部室等ではなく生徒会の資料室にソラが銀次を引っ張っていく。二人が去ってから初めて入るが、資料が床に散乱しかなり散らかっていた。資料のファイルも机に積まれていた為、ソラがどかす。
「散らかってんな。どうしてここなんだ?」
「ソファーがあるからだよ。あと、この時間は基本的に誰もこないし。まだボクがカギ借りられてよかったね。愛華ちゃんがいないから大丈夫だとは思ったけど」
ガチャリとソラが内側からカギをかける。銀次は多少疑問に思ったが、ソラは目立つし、ここへ移動するのも人の目を避けたこともありカギをかえたことをとがめることは無い。
「今日はさっぱりとアジの南蛮漬けです」
「魚か、好物だぜ」
「知ってる」
野菜たっぷりの南蛮漬けとおにぎりを元気よく平らげた後、ソラはソファーに座りポンポンと隣を叩く。座れということらしいので銀次が座る。
「ここならお昼寝できるでしょ?」
「だからソファーか、だけどソラが暇だろ?」
「別にいいよ。ほら、頭乗っけてよ」
スカートから覗く白い太ももをに手を乗せてソラが催促し、銀次はフリーズした。
「いや、え?」
「膝枕でお昼寝、あと耳かきもセットです」
やや頬を赤くしているが、譲らないとソラが銀次の袖にクイッと引っ張る。
「流石に恥ずかしいんだが……」
「誰も見てないし、午前中にボクにガンバレっていったんだから、銀次も頑張ってよ」
「どんな方向の頑張りだよ……ほんとに良いのか?」
「や、やらいでか」
銀次がソラの太ももに頭を乗せると、僅かに沈む。柔らかさに驚いていると優しく髪を撫でられる。
「横向いてもらえる? 人の耳かきなんて初めてだから」
「自分で取っているから別にないと思うぞ」
膝枕のまま前を向くととソラが耳を覗き込む。なんだか、見られてはいけない場所を見られているような気がしてドキドキする銀次。
「確かに綺麗……でもちょっとあるかも、綿棒でとったげる。……でけた、次は反対だね。こっちむいて」
器用なソラの絶妙な力加減の耳かきは膝枕の感触もあってかなり心地よく、銀次の中の羞恥心が溶けるように消えていく。
「……好きにしてくれ」
諦めてされるがままになる銀次の耳かきが終了し、仰向けになった銀次は始めは気はずしさから目がさえていたが、無言で髪を撫でられているうちに眠気がぶり返し、寝息を立てて寝始める。
「寝てる……銀次、寝てるの?」
「……」
「フフ……子守歌とか勉強しようかな?」
返答は無い。予鈴が鳴る直前までソラは銀次の寝顔を見続けていた。
次回の更新は明後日の予定です。
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