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また、明日

 フードコートで休憩した後、二人で家路につく。荷物は銀次が持ち、電車に乗り込んだ所でソラはウトウトと首を揺らす。


「寝てていいぞ。起こしてやるから」


「せっかくのデートなのに……にゃむ……」


 と言いながら、ソラはコテンと銀次の肩に頭を乗せて静かな寝息を立てる。銀次はソラが起きないようにできるだけ動かず窓から外を見る。まだ、目的の駅までは20分ほどかかるだろう。

 

「……銀次ぃ」


「なんだ起きたか?」


 銀次が顔を向けるが、ソラは寝息を立てていた。両手で銀次の服を掴んながら口の端から涎を垂らしている。銀次は苦笑しながら、袖でソラの口元をぬぐう。


「夢でも一緒か?」


「スピー……」


 返答は無いが、服を掴む力は少し強まった。


「楽しかったな……」


 ソラの髪から香る柑橘系の匂いと電車の揺れが眠気を誘う。眉間を揉んで銀次は眠気を脇にどかす。

 駅について起こされたソラは、自分が涎を出して寝ていた事実に顔を真っ赤にし、銀次はそれを見てカラカラと笑った。


 自転車での帰り道は二人共他愛ないことを喋り、ソラの家の前で自転車が止まる。

 銀次がソラの買った服を渡し、ソラがそれを玄関の前に置く。


「ありがと、最後寝ちゃったけど、楽しかった」


「俺も楽しかったぞ。次は映画でも見に行くか」


 気軽に返答した銀次に対し、ソラは少し照れながら上目遣いでもごもごと言葉を口の中で転がした後、意を決したように顔を上げる。


「……ねぇ銀次。今日は……デートだったよね?」


「少なくとも、俺はそう思ってるぞ」


「エヘヘ、ボクも。じゃあ……よっと」


「おっと……」


 銀次の服を引っ張るが、背が少し届かずソラは首筋に唇をあてた。


「アハハ、失敗した。じゃあ、明日ねっ! 帰ったらIINEしてよね!」


「……疲れてんだから、寝た方がいいぞ。じゃあ、明日な」


 銀次が見えなくなるまで見送り、ソラは荷物を持って家の中に入る。

 靴を乱雑に脱いで、荷物をソファーの脇に置いてそのまま倒れ込んだ。手を伸ばし、机からリモコンを引き寄せて冷房を付ける。今日は色々あって、本当に疲れた。……でも、心地よい疲れだ。


「……寝ちゃダメ」


 のそりと起き上がり、浴室へ向かいシャワーを浴びる。お湯を浴びて少し眠気が飛んだのか少し頭がはっきりしてきた。まるで、デートの方が夢だったみたいだ。下着姿のまま冷蔵庫から牛乳を取り出しマグカップへ注ぐと、スマフォが点滅している。部屋着を着ながらアプリを起動させるとメッセージが来ていた。ちなみに、これまでは愛華からの業務命令しか届かなかったため、ちょっと嬉しいソラなのだった。


「銀次と……スズからもメッセが来てる」


 銀次からのメッセージは。


『帰った。早く寝ろよ』


 と簡潔なものだった。銀次らしくて少し笑ってしまう。


『はーい』


 と返して、ロボのスタンプを付けた。スズからのメッセージはデートの結果を聞きたいというもの、今度ゆっくり話すとメッセージを送りスマフォを机に置く。伸びをして、買ってきた服を丁寧に床に広げた。

 後でクローゼットにしまわなきゃ、デートを思い出しながら整理して残りの片付けは明日に回す。

 

「なんだか……寝るのがもったいないや」


 ノートを取り出し、約束したスマフォケースのデザインにディテールを描き足していく。銀次のことを想いながら、そのままソファーで丸まってソラは眠りに落ちた。


 一方、銀次はベッドに仰向けになりメッセージを送った後のスマフォを横に置いた。

 先に風呂から上がった哲也が部屋に入って来る。


「どうだったデート?」


「……珍しいな、テツがそんなことを聞くなんて」


 普段から口数が少なく、無表情であることの多い弟の様子をからかうように銀次は笑みを浮かべる。


「ソラ先輩が可哀そうだからね。あれだけ、気持ちを伝えているのにさ」


「あぁ、わかってるさ。……なぁ、テツ。ソラは凄い奴なんだよ」


「知ってるよ」


「だよな」


 目を閉じて、静かに同意する銀次に影が落ちる。目を開けると哲也が立っていた。


「ソラ先輩はいい人だし、兄貴が言うなら凄い人なんだろうけどさ……兄貴は、俺の自慢の兄貴だよ」


 無表情な弟の、微かな笑み。銀次はベッドから立ち上がり、乱暴に哲也の頭を撫でる。


「馬鹿野郎、俺の台詞だ。お前は俺の自慢の弟だよ。……俺としたことがらしくなかったな、変なこと悩むのは全力でやることをやってからだ。気合入ったぜ、ありがとよ」


「不安になるくらい気持ちが大きいってことでしょ。風呂、温かいうちに浸かりなよ」


「おう、火傷するくらい熱めにしとくぜ」


「ガス代もったいない」


 弟のツッコミを笑い声で返し、銀次は風呂に入って熱めの湯を被ったのだった。

 不安になるほど今が大切だからこそ、全力でぶつかるしかない。


「俺が……ソラを幸せにしたいんだ」


 浴室にて、銀次は気合を入れ直した。

次回は明後日更新です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] は?てつくん可愛すぎか?
[良い点] 銀次がやっぱエエ男なんよなぁ
[良い点] 今回は甘さ控えめでちょうど良いはずなのに、脳は甘さを渇望している。もちろんグッド!なんだけど次回は甘くなるか苦くなるか…… [気になる点] ソラの夢の中はものっっっ(中略)凄く甘かったのだ…
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