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我がままでごめんね

 二着ほど下着を買ったソラが上機嫌でレジの後ろで待っていた銀次の元に戻って来る。どんなデザインか知ってしまっている銀次は複雑そうな表情でソラを迎える。


「おまたせ。次はワンピースを見てもいい?」


「いいぞ、他に買うなら、先に買わなくてもまとめて買えばよかったんじゃないか?」


「色々選んでいると、結局買わなくなっちゃうんだよね。買うって決めたら買うようにしてるんだ」


「なるほど、じゃあいくか」


「うん」


 袋を持っていない方の腕を絡めて、ワンピース売り場へ向かう。

 下着よりはまだましだと銀次も比較的落ち着いて、服を選ぶソラを見ている。


「白がいいよね。絵を描くからグレーばかり選んでいるし。白ワンピ……夏なら、ステッチがあるのが汎用性高そう。これはいわば量産機……ザ〇の系譜」


 女性との買い物は退屈だとクラスの男子は言っていたが、気になる女子が服を選ぶ姿ってのはそれほど悪くないと考えていると、ソラがクルリと振り向く。


「銀次、試着するから見てよ。この二着で悩んでるんだ」


「どっちもよさげだけどな」


 両方白のワンピースで、片方はフリルがついているもの、残りはストレートなラインでストライプが入っていた。どちらも夏らしく、ソラによく似あいそうだ。


「だから見るんだよ。いつも一人で選んでたからね」


「俺でいいのか? ソラの方がセンスいいんだから、自分で決めた方がいいぞ」


「……銀次と一緒に行くんだから銀次が選ぶの」


 やや強引に銀次の背中を押して、試着コーナーへ向かう。店の一角にある場所で7室ほどの個室が並んでおり、椅子まで用意されていた。


「待っててね」


 銀次が椅子に座り待っていると、髪をアップにまとめた店員が寄ってきた。


「お待ちですか~」


「あっはい。ツレが中で着替えてて」


「あら~、そうですか。こちら、いまキャンペーンをしていまして~アンケートに答えていただけると~」


 店員の圧にやや押された銀次がどうしたもんかと思っていると試着室のカーテンが開く。


「おまた……せ」


 ソラが元気よく出てくるが、店員を見て固まる。知らない人がいたので驚いたようだ。

 しかし、驚いたのは店員も同じのようだ。口をぽかんと開けている。


「えっ、かわっ! ハッ、すみません~とってもお似合いですね」


 フリルが一段ついたワンピースは、小柄なソラに似合っており艶のあるショートの黒髪がより映えていた。

 あどけなさと可愛らしさが際立ち、小物を合わせたわけではないのにそのまま成立しそうな説得力がある。


「……ふぇ」


 フリーズしているソラを見て銀次が立ち上がる。


「すみません。こいつ、人見知りで」


 ソラは銀次の背中に隠れて店員を見る。その小動物的な仕草を見て店員は何かを察して銀次を見る。


「……かしこまりました~。あの~、もしよかったらなんですけど、店のSNSで試着されたお客様を紹介させていだくコーナーをしていまして……割引するのでいかがでしょう?」


 そう言えば店のウィンドウには試着していた客の写真が飾ってあった。SNSでも宣伝をしているのだろう。ブンブンブンとソラが首を横に振る。銀次としても無理だと判断する。


「無理っすね」


「そうですか、とても可愛い彼女さんでしたので、是非と思ったのですが」


 ピタリ。ソラの首が止まる。


「……彼女?」


 銀次の背中から顔を出すソラの反応に店員の目がキュピーンと光る。


「はい~、『彼女』さんがあまりに可愛らしかったので、上司に相談してかなり割引頑張りますから、『彼氏』さんが買う服も割引しますよ~」


 彼氏と彼女を強調してソラにジリジリと近づく。


「いや、別に彼氏ってわけじゃ――」


「一枚だけならっ……いいです」


 銀次の言葉を遮って、ソラが消え入りそうな声を出す。


「いいのか? SNSだと……結構な人に見られるぞ?」


「別に、ボクだってわかって気にする人なんていないよ。割引してもらえるならスカートも買えるかもだし、それに……」


 銀次の『彼氏ではない』という言葉を遮りたかった。そんな自分の我がままが恥ずかしくて、ソラは言葉に詰まる。銀次はソラの頭に手を置いた。


「今日はデートだし、ソラがいいならいいぞ」


 銀次は不器用な自分を不器用に受けて入れてくれる。


「うん、ありがと」


「すぐにカメラを持って来ますのでお待ちください~」


「……スマフォじゃないんだ」


 その後、ガチガチの一眼を持ってきた店員にビビったソラは、緊張で固まってしまい。

 カメラを正面から見ることができず、少し横を向きながら睨みつけるような表情しかできなかった。


 店員から借りた大きなツバの帽子を人差し指と親指で摘まみ、白いワンピース姿で恥ずかしそうにカメラを睨みつけるソラの写真は、ハイテンションな店員によりその日の店アカウントでSNSにあげられることになる。

次回は明日更新です。


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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
[一言] やべ!ソラちゃんの余りの可愛さにモデルスカウトから声かかったりストーカー現れたり、物凄く面倒なことになりそう…。 頑張れ銀ちゃん!
[良い点]  マスプロダクツの重要性は現実の戦争見れば解るよね。  正直ワンオフの高性能試作機って信頼性のカケラも無いと思うんだ。  普通の服を上手に組み合わせるのがセンス良いらしいよ。  まあソラか…
[一言] この店員…出来るっ!
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