ボッチに服屋は難しい。
窓口でメアドを変えて二人はショップを出る。ソラが嬉しそうにスマフォを取り出して眺めていた。
「何をニヤニヤしているんだ?」
「だって、銀次がメアドを変えて一番最初に教えてもらったのがボクだもんね」
「……嬉しいならなによりだ」
もっとこう、気の利いた言い回しはできないものかと銀次は考えたが思い浮かばない。
まぁ、ソラの機嫌が良いならそれでいいか。
「次はどうする?」
「服を買いに行くんだろ? このままショッピングモールに入いればいいんじゃないのか? ……正直、服なんて買うところを気にしたことないんだよな」
「銀次はその恰好でいいと思うよ。うん、かっこいい」
割と真剣な表情で頭から足先まで見て、ソラは頷く。
「それなら、ソラだって十分可愛いけどな」
「ありがと、でも、やっぱり女子っぽい服が欲しいんだよね。スカートとかワンピースとか。ボクって私服もズボンばっかりだし、シャツも最近は大き目のしか買ってないし」
「ズボンはまぁ、男装していたからしかたないけどよ。シャツはなんで大き目のやつなんだ」
特に考えていない銀次の質問に、ソラは少し沈黙する。そして、銀次のパーカーを引っ張って耳に顔を寄せた。
「高校に入ってから、急に胸が大きくなってきて調整するのが面倒になったんだ」
静かに姿勢を直す銀次。身長のわりに少し大きいその胸元へと視線が向きそうになるのを気合で止める。
「……俺が悪かった。服を見に行くか」
「別にいいってことよ」
ややギクシャクした銀次を見て、してやったりと満足げなソラだった。
歩き出し、ソラから手を伸ばし腕を絡める。銀次は照れて顔を逸らすが決して振り解こうとはしない。銀次の反応を見て、
これって、ボク、意識されてる!!
と、嬉しくてしょうがないソラはスキップでもしたい気持ちだった。
歩けば何かあろうだろうと、適当に二人でぶらぶらしていると、同年代位の女子達が入る店を見つける。男女共に服を扱っているそこそこ安めのブランドだった。
「ここにすっか、俺の服もありそうだしな」
「うん……そうだね」
先程までの上機嫌が少し落ち着き、緊張感をただよわせるソラに銀次が怪訝な顔をする。
「どうした、なんか気になるのか?」
「気になるって言うか、ボクってこういうモールで服屋さんに入ったことが無いから……緊張する」
「普段どうしてんだよ?」
「基本的に通販かな? 愛華ちゃんの服とかも選んでたし、うぅ、ボッチにはハードルが高いかも」
少し強めに銀次の腕にしがみつくソラに銀次は苦笑した。
「気にすんな、二人なら恥ずかしいこともないだろ」
「そ、そうだね」
そして、二人で店に入り……銀次は後悔することになる。
「おぉ、意外と色が一杯。ネットで買うより色々見れて楽しいかも。これってどうやってつけるのかな?」
「おい、ソラ」
「うーん、こっちもいいけど、動きにくそう……服に合わせる感じなのかな?」
「ソラ、聞け」
銀次の声にソラが向きなおる。
「どうしたの銀次? 暇だった?」
「暇って言うか……場所を考えてくれ。俺がここにいたらおかしいだろ!」
二人がいる場所は、ショップの奥にある女性用の下着コーナーだった。ワンピースが置いてあるコーナーの近くだった為、ソラが発見し無理やり銀次をつれて来たのだ。男子高校生にとっては、かなり恥ずかしい状況である。
「ボクだって恥ずかしいよ。一人でこんな明るい所来れないもん」
「俺は向こうで自分の服を見るから、選んでおいてくれ」
「ムリムリ、ここで置いて行かれたら泣くからね。店員さんに話しかけられたら逃げる自信があるからっ」
ガシッと強めに銀次の腕を掴んで離さないソラと、先程と違いわりと力付くで振り解こうとする銀次。
「むしろ、俺がいてもいいのかよ。普通恥ずかしいんじゃねぇか」
「銀次なら別にいい。っていうか、一人でボクが下着選んでたらおかしいよ」
男装していた時の影響で、女子の服を人前で買うことに違和感を持ってしまっていたソラなのだった。
銀次への信頼感が上限突破している為、羞恥心が変な方向に反応してしまっているらしい。
「おかしくないって、今のお前は誰がどう見ても女子だから」
「だとしても、まだ色々と慣れてないんだってばっ!」
結局涙目で銀次を引きとどめるソラを払いのけれず、銀次はそのままソラの下着選びに付き合うことになる。
「フリフリだ。これって、ストラップを見せる為にこんな形なのかな?」
「……頼むから俺に聞くな」
そこから10分近く、銀次は周囲の視線に耐えたのだった
次回は明後日更新です。
この作品が気に入ってくださったら、ブックマークと評価をしていただけたら励みになります。
感想も嬉しいです。皆さんの反応がモチベーションなのでよろしくお願いします。