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小さいことから

 銀次とソラ、そして開幕からダメージを受けている美鈴が、隠れながら駅前の通りを進んでいく。

 最初の行き先は銀次のメアドを変える為に、ケータイショップへ行くようだ。商業施設の道に面しているショップで、利用者も多い場所だ。遠回りして商業施設の中から入ればばれないとスズは別の入り口から入り、銀次達はそのままショップに入った。


「予約してたけど、少し早かったな」


 銀次が予約番号を確認し、ため息をつく。折角のデートなのに時間がもったいないと思ったようだ。しかし、ソラはニコニコで上機嫌のままである。


「じゃあさ、機種とかケースとか見ようよ。銀次のケースってボロボロじゃん」


 銀次がスマフォを取り出す、確かにそのケースはかなり痛んでいるようだった。


「ん、まぁ、中学からずっと使ってるからな。100円ショップのだし」


 店に入る時にほどいていた腕を再び組みなおし、アクセサリーコーナーへ銀次を引っ張っていく。自分の古い機種に合うカバーがあるのか、銀次が確認しているとソラがよこから自分のスマフォを取り出す。

 

「銀次は手帳型だよね。ボクはハードカバーです」


 ムフンと胸を張って出されたスマフォケースは男子でも少ない、ゴツイつくりのハードカバーだった。

 一瞬、歯車が透明なカバーに挟まっているように見えたが、よく見てみると立体的に見える絵のようだ。女子らしくはないが、スチームパンクのようなデザインは男心をくすぐる。

 

「へぇ、改めてちゃんと見るとかっこいいじゃんか」


「……そう? 実は自作モデルなんだ。デザインを送って作ってもらったんだよ。割と安く作れるし材質の指定とかもできるんだよ」


 手に取ってマジマジとケースを観察する銀次を見て、ソラは得意げに説明する。


「マジか、そんなのあるのか。すげぇな、本物が入っているみたいだ。錯覚かこれ?」


「銀次にも作ってあげようか? 同じデザインだと面白味が無いから、ちょっと、渋くして……でも同じモチーフがいいよね。エヘヘ……同じケースか」


 手帳を取り出して、ペンで描き始めるソラに銀次は苦笑する。返事はしていないが、ソラが楽しそうならそれでいい。実際、かっこいいケースが手に入りそうだ。


「金は払うから教えてくれよ。危ないから座って描こうぜ」


「……歯車に複数のメッセージを入れるか。角度で見え方が変わるようにして……いっそ、ボックスにするのもありかも」


「ったく。ほら、こっちだ」


 スイッチが入ったソラを、今度は銀次が引っ張って椅子に連れて行く。移動中に無料のコーヒーを紙コップに注いで、ソラを座らせる。そして、その様子を見ていた美鈴はため息をついていた。


「ソラち、雰囲気はいいけど、デートなんだから銀次を放っておくのは大丈夫なのかなぁ?」


 買いもしないコードレスイヤホンのコーナーから二人の様子を見ている。幸い、追跡がバレることについて一番の懸念だったソラは銀次とのデートに浮かれているようで、こちらには全く気付いていない。唐突に集中し始めたソラを心配するが、ソラの横でコーヒーを飲む銀次は柔らかな表情でソラを見つめていて、とても良い雰囲気だった。


「ま、二人はまだ付き合っているってわけじゃないらしいし、今はあのくらいでいいのかな? これくらいにして、後はソラちに直接IINEで聞くか」


 これ以上は悪いと、美鈴が帰ろうとすると。

 ポテンとソラが銀次の肩に頭を乗せる光景が目に入る。


「んん゛っ!!」


 思わず咳き込む美鈴。ソラはまだデザインに集中しているようだ。だからといって見ず知らずの相手にあんなことはしないだろうから、無意識で銀次に頭を預けているということだ。

 そして、驚いたことに銀次は落ち着いた様子でソラが体重を預けやすいように座り直してコーヒーを飲んでいた。とても自然な流れであり、二人にとっては慣れたやり取りのように見えて、美鈴は震えた。


 え? なんで慣れてるの、結構なドキドキイベントじゃない? ま、まさか、普段からか、普段からそんなことしとんのかっ!


 驚愕する美鈴を他所に、メモにデザインを書き終えたソラが自分の状況を確認する。そして、そのまま目を細めてグリグリと銀次の腕に頭を擦りつけた。


 ガハッ。


 どこかでダメージ音が聞こえたが二人は気にしない。


「でけた」


「どれどれ、へぇ、こんなん数分で描けんのか……カッコいいじゃん」


 歯車がギアボックスの中身のように奥行きを使って噛み合っている様子だった。

 シンプルだが、その武骨さが自分に合っているように感じる。


「いいよね歯車。最初は小さくかみ合って、徐々に深く結びついて、大きなものを動かすんだ」


「そうだな。小さな車のオモチャのモーターのギアを一日中いじったもんだ。計算すればいいことを、片っ端からわけもわからずに色んなギアを組み合わせてさ」


「その分、上手く走った時楽しいよね」


「おう、手探りな分格別だな。……いいデザインだ」


 銀次がソラの頭を撫でて、そこで二人はようやく座り直す。丁度予約の順番が来たようだ。二人で窓口に向かっていく。

 一方、ゆらりと幽鬼のようにショップから脱出した美鈴は、その足でテナントの中の喫茶店チェーンに入る。


「いらっしゃいませ。ただいま期間限定でハニーミルクティーを――」


「ブラック、大きさはグランデで」


「え、えと」


 何かを背負った美鈴のオーラに店員は笑みを引きつらせる。


「ただいま、ハニーキャンペーンでこちらの甘いクッキーもありますが――」


「ブラックを、グランデで」


「……かしこまりました」


 コーヒーを受けとった美鈴が席に座り、コーヒーを風呂上がりの牛乳のように飲んで、力なく項垂れる。


「あたしも彼氏ほし~……」


 恋愛老師、彼氏いない歴=年齢 


 謎のダメージを喰らった美鈴は、後でソラにデートの続きを聞きまくってやろうと心に決めたのだった。

次回は明後日更新です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 老師ww自分から尾行してダメージを受けていらっしゃるww [一言] 雰囲気甘すぎて周囲の喫茶店のコーヒー売りきれるんじゃねぇかなコレw
[良い点] 老師様よ、信じられるか…?これで付き合ってないんだぜ?(デジャブ [一言] そして老師は考えるのをやめた…
[一言] やはり老師も耐えられなかったか まあ、あれが日常だとは思わないよねwith
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