デート……する?
昼休みが終わりに近づき、ソラが銀次の膝から元気よく飛び降りる。
「ほいっ」
「危ないぞ、なんか眠たくなったな」
「ボクを抱き枕にしたかった?」
イタズラっ子のように挑発的にニヤリと銀次を見るソラ。銀次はのんびり伸びをした。
「それもいいかもな、ソラは柔らかいし」
「……エチエチだ」
「お前が言ったんだろうが!」
完全に距離感がバグった二人が弁当を片付けていると、銀次のスマフォが振動する。
メッセージを確認すると、どうやら迷惑メールだったようだ。
ソラが、銀次のお重を鞄に入れて、片付けを終わる。
「哲也君から?」
「いんや、迷惑メールだ。最近多いんだ、メアド変えるかな」
「それなら帰りにお店による?」
「正直面倒ってのもある。IINEがあったら困らないし……」
「……閃いた」
キュピーンとソラが目を輝かせる。
「なんだよ?」
「さっき銀次が何かできないか、って言ったよね?」
ジリジリとソラが銀次に近づく。
「言ったぞ。何かあるのか?」
「デートとか……どう?」
銀次のシャツの裾をチンマリと摘まみながら、上目遣いでソラが言う。
そしてフリーズする二人、繰り返すが休み時間はあとわずかだった。先にフリーズから解けたのは銀次である。
「デートってあれか? あの、男子と女子がするという伝説の……」
「である」
「「……」」
迂闊に動けない。あまりにギリギリの攻防であった。ソラは己を銀次に意識させるを通り越して、想いが止まらない状態であるし、銀次は銀次で意識しないほうが無理と割り切っているものの、週末まで二人の仲を進展すると考えていなかった。が、一昨日の澪の一件がきっかけで露骨に甘えてくるようになったソラに対し、自分だけ防御の姿勢でいいのかという思いもある。
「……いや、一緒に駅のケータイ屋さんに行って、帰りになんか甘いもの食べるとか……そんな感じで……ダメ?」
「いいけどよ。それってデートなのか?」
「く、工夫すればいけると思う。ま、待ち合わせするとか」
恥ずかしくて目線を合わせられず、横を見ながらクイクイと服を引っ張り、催促するソラ。ここで断るという選択肢が銀次にあるはずがない。
「いいぜ。だけど、俺はデート用の服なんてないぞ」
「自分で言ってアレだけど、ボクもない。……せっかく駅前行くなら服買うのもありかな?」
「デート用の服を、デートで買うのか……」
「だって、まさかボクがデートに人を誘うとか考えてなかったし」
「俺だって誘われるとは思ってなかったよ」
「エヘヘ、一緒だね」
「ッッッッ!」
そこで、嬉しくなって銀次に向き直るソラは凶悪に可愛く、銀次は思わず抱きしめなかった自分を褒めてやりたくなった。膝に来てしまい、椅子に座る。
「で、どうなのさ。デートする?」
そんな銀次の様子に疑問を持たず、ソラがしゃがんで下から銀次を覗き込む。ショートの髪が窓からの風を受けて微かに揺れていた。不思議な虹彩を持つソラの瞳に自分が映っているのが見える。
「する。一回してみたかったしな、デートってやつ」
「ボクはしたいと自分が思ったことにびっくりだよ。じゃあさ、どうするか……」
そこでチャイムが鳴り響く。二人で顔を見合わせる。
「帰り道で話そうか?」
「そうだな。流石に授業に遅れるのは不味い。鞄持つぜ」
銀次が鞄を持って、二人で教室へ向かう。そして、ニッコニコで戻って来たソラの表情とどこか照れている銀次。手に持った大きな弁当箱入りの鞄を見たクラスの男子数名は何かを感じ取り、無言で鞄から缶コーヒーを取り出し一気飲みしていたのだった。
次回は明後日更新です。
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