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予鈴が鳴るまで

 登校すると、本日も生徒会で挨拶運動が行われていた。


「ご苦労なこった。あれ? 四季が見えないな」


「そうだね……寝坊じゃないかな。あっ、村上君、おはよう」


「あっ、髙城ちゃん。お、おはよう」


 すれ違いにクラスの男子に挨拶しながら、ソラが頷く。銀次は怪訝な顔をする。品行方正なイメージで通っている愛華が寝坊することに違和感があるのだ。


「大分挨拶に慣れたな。……四季が寝坊するっていう感じは意外だな」


「そうだね……いつもはボクが起こしてたし、朝の準備とかもしていたからね。起こしてもらうことはできても、朝の身だしなみや予定の調整が上手く行っていないのかもね」


「予定の調整ってのは何だ?」


「愛華ちゃんは色々習い事もしているし、人と会う事も多いからブッキングしないように、予定の調整が必要なんだよね。といっても、三週間ほどの予定を暗記しとけば調整に困ることはないよ」


 それができるのはお前だけだ。と銀次は心の中でツッコミを入れる。生徒会の雑務の他に絵の代役、その他にも様々なことをしてきたソラが異常なのだ。ソラが離れて二週間、徐々に学園のアイドルの歯車が嚙み合わなくなったのかと銀次が考えていると、挨拶運動をしていた男子がこちらに歩み寄って来た。


「……えっと、多分二年の書記の人だよ」


 慣れない相手なのか、ソラが人見知りを発揮して銀次の後ろに隠れる。


「すまない。ええと、ちょっと後ろの子と話がしたいんだけど」


「一年、桃井っす。髙城に何の用っすか?」


 銀次が前に出る。銀次の反応が予想外だったのか書記の男子はたじろぐ。


「い、いや。最近、生徒会の冊子の作成の追加を頼みたくてな。四季さんがそこの子に頼んでいたと言っていたから」


 そう言えば、一昨日に手伝いをして昨日はそのまま帰ったと二人は顔を見合わせる。

 元々、一昨日の作業を最後に愛華に雑務の断りを入れる予定だったのだ。

 背中から無言でスマフォが差し出されて銀次が受け取る。


「あー、なるほど」


 そこには、追加の雑務が内容だけ送られていた。

 銀次が体をどかし、ソラを前に出す。


「わっ、銀次」


「ケジメはお前がつけるのが筋だ。本来なら先に四季に言っておきたかったがな」


 急に前に出されて、少し緊張するソラだったが銀次を見て、ギュっと唇を結んだ。


「あの、すみません。ボク、もう雑務はやらないって決めたんです。元々、生徒会のお仕事関係なかったし。愛華ちゃんにもそう伝えます」


 一息にそう言って、顔を真っ赤にして銀次の手を引く。


「……そういうわけなんで」


 ソラに引かれながら銀次がそう言って、頭を下げる。


「ちょっと待ってくれ。困るよっ! 来賓へのお茶菓子の準備も……なんだお前等!」


 言い終わる前に、一年の男子達が間に入る。なぜか全員が缶コーヒーのブラックを持っている謎の集団の出現に、書記の男子は圧倒されてしまい追いかけることができない。

 そして二人は下駄箱で靴を履き替え、ズンズンと進み一階の棟の一番奥の階段横のスペースで止まる。


「こ、怖かったぁ」


「そうか? しっかりしてたじゃねえか。感心したぜ」


 ニカッと歯を見せる銀次を見て、ソラは頭を胸に寄せる。

 銀次がいたから言えたのだと、そう言いたいのに、この恋心は少し欲張ってしまう。


「じゃあ、褒めて」


 今度は銀次が焦る番だった。周囲を見るが、幸い人はいない。二階へ行く人は入り口から近い方の階段を使うので、この階段は教師か朝練終わりの生徒しか使わないだろう。しかし、それでも通る人間はいる。流石に人前でこの体勢は不味い。


「おい、ソラっ。人が来るぞ」


「通路はボクが見張るからさ……撫でれ」


 体を密着させたまま、正面に向き直り見上げてくるソラ。腹に柔らかな感触が当たり、銀次は思わず引き離そうとするが、引っ付き虫のように服を掴まれている。ため息をついて、手を頭に置いた。


「少しだけな。足音が聞こえたら離れるからな」


「うん……」


 気持ち良さそうに目を細めるソラ。


「いや、目を閉じたら見張れねぇだろ!」


「止めちゃダメ」


「ったく。まっ、頑張ったのは事実だしな……」


 結局、ホームルームギリギリまで銀次はソラの頭を撫で続けたのだった。 

次回は明後日更新です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 見守る会がカフェイン中毒にならんことを祈る。
[一言] コーヒーが黒砂糖と化してることに気づいてるのは俺ぐらいやね(砂糖だばー
[一言] >なぜか全員が缶コーヒーのブラックを持っている謎の集団 こちらにも一本くれんかね…。
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