翌日の朝(銀次の場合)
朝、銀次はめちゃくちゃ早起きをしていた。眠れるわけがない。ソラが触れた唇の感触がのこっており、さらにキスした後のソラが表情を隠して逃げてしまったのだから。
「……どんな顔して会えばいいんだよ」
と、家の外に取り付けられている鉄棒を使って懸垂をして気を紛らわせていた。筋トレが終わり、風呂に入って汗を洗い流す。洗面台で顔を洗って……指先で頬に触れた。
今もまだ、柔らかな感覚が残っている。
着替えて台所に入る。弟の分も朝ごはんを作りつつ、昨日のことを思い出しながら、手はよどみなく動いている。
眉間に皺を寄せながら、愛用の鉄鍋を振っていた。目玉焼きを少し焦がしてしまった。
朝ごはんを平らげ、引き戸を開けて気合を入れる。鞄を雑にカゴに入れて自転車に乗り込む。
普段よりもかなり早く家を出ているが、これは早めに集合場所についてソラを待つためだった。折角早起きしたのだし、今日くらいはソラを待っていようという心持ちである。
「よぉ、ソラ。いつもこんなに早いのか」
そして予想よりも遥かに早く訪れたソラを見て銀次は内心驚いていた。
「……何でこんなに早くにいるのさ!」
フラッシュバックする昨日の記憶、唇の感触だけではない、顔をうずめて照れていたことや、多分俺のことを思って不機嫌になったことも、銀次は心は強く揺れる。
「あー、なんつうか。落ち着かなくてな」
いつもより可愛くみえるソラを見て銀次は照れてしまう。ソラがよろよろと近づくと、丁寧に鞄を置いて、等々に銀次に縋りつく。
「可愛すぎかっ!」
そりゃお前だろと銀次は心で叫んだ。幸い周囲に人はいない。
いつもこんなに早くに来て待ってくれたのか、表情をコロコロと変わる様子がおもしろいとか、どんどん露わなになって来るソラからの好意に鼓動を加速させる銀次。
「どうした?」
「いや、だって銀次が……可愛い、ぷぎゃ」
グルグル目で叫ぶソラが可愛くてつい手で挟んでしまった。
「お前、男子に向かって朝から何言ってんだよ……」
「ムガ、銀次が悪い……顔、クリーム塗ってるから……」
「おっと悪い。その荷物、昨日は画材かと思っていたけど、やっぱ弁当か……ほい、これ金」
ポンと封筒を差し出す。
「いらないけど、僕もご飯を銀次の家で食べてるし」
「弁当も入れたら明らかに俺がもらっている分が多いだろ。受け取ってくれ」
正直、普段からソラばかりの負担が多い気がしていたのだ。ソラが気にしていなくともこの関係を大事にしたい銀次は強く封筒を押し付ける。ここは遠慮されようとも、受け取ってもらいたい。
「美味しいご飯を作るね」
笑顔で答えるソラに、銀次は顔を逸らす。無言でソラの鞄をカゴにいれて、弁当は手に持った。
「『尽くしたがり』も結構だけどよ、たまには俺も弁当つくるからさ。ソラの好きなもんとか教えろよ。俺の好物ばっかじゃソラが飽きるだろ?」
昨日の去り際のことは話題には上げれないが、それでも少し近い距離感が心地よくて、ソラと銀次にとってそれは答えに等しかった。
「そうでもないよ」
『どうしてこっちを見て、そんなに嬉しそうに笑ってくれるんだ?』
と言いたくなる。だけど、今それを伝えることはできない。少しズルい気がするから。
「あん?」
「別に、じゃあ一緒に帰りに買い物行こうよ。お弁当を一緒に作ろう」
「おっ、いいぜ。じゃあ、帰りにスーパー寄るか。テツにお使いを頼まれてるからよ。今日はトンカツを作るってさ」
「ボク等で作ってもいいんじゃない?」
「俺もそう言ったけどよ。たまには腕を振るいたいってな」
「本当にできた弟君だね」
「まったくだ」
歩調を合わせながら横を見るとやっぱりソラはいつもより可愛くて、そのせいで緊張してしまい、ドキドキする胸の鼓動がそれまでと少し違う関係を教えてくれて、くすぐったい。
ったく、たまには俺がお前に尽くさせてくれよな。
この話は。前話と二窓で読んでいただけると、発見があるかもしれません。
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