読み取るソラ
ラブレターの裏面を裏返しにしたり翳してみたりと色々している銀次にたいし、ソラは冷や汗がダラダラと流れていた。
「い、いたずらじゃないかな」
「かもな」
そう言って銀次は、ポケットに封筒をしまった。
「見ないの!?」
「見るさ、だけどここは人が多いだろ? 階段の下とかで見ようと思ってな。先に教室行ってていいぜ」
「……やだ」
ズモモモモと黒いオーラを纏いながらソラが銀次に引っ付く。
「一応、マジのラブレターだったら、色んな奴に見られた相手が可哀そうだろ? イタズラだったとしてもそんときゃ俺が恥かきゃいいだけだ」
「……わかった。でも、銀次に酷いことする人がいたら許さないから」
「怖い顔すんなよ。ソラは間抜けな顔の方が似合ってるぜ」
ポンポンと銀次に頭を触られると、ソラは不機嫌なのに口の端が緩み始める。ちょろすぎないかコイツと銀次は心配になった。そして何度も振り向きながらソラは教室に入る。銀次はソラを見送った後に階段下のスペースで封筒を開けた。
『一目見た時から、貴方のことが気になっていました。放課後、美術室でお待ちしています』
と書かれている。古典的なラブレター、字は角ばっていて印字したように几帳面だ。こういう字を書く奴は性格も糞マジメなのだろう。
「宛名は無し……ついに俺にもモテ期って奴がきたか……なわきゃねぇよな。さて、どうしたもんか」
ため息をついて、銀次はスマフォを取り出して操作する。そして、めんどくさそうに踊り場から歩き出した。
一方、ソラは机につっぷして黒いオーラを吐いていた。普段壁となる銀次がいないとなれば、声をかける男子もいても良いだろうが、いざチャンスが来ると話しかけられないのが男子高校生である。銀次に止められる前提で話しかけているという一面もあるのだ。そんな男子をしり目に、愛華がソラの前に座る。取り巻きも一歩引いているようだ。教室内は静かに二人に注目し他クラスの喧噪の音が大きく聞こえていた。
「あら、ソラ。ずいぶん辛そうね。何かあったのかしら」
ソラはゆっくりと顔をあげて、座り直す。
「……愛華ちゃん、挨拶運動はどうしたの?」
「早めに切り上げたわ。別に理由はないけれど……今日は桃井君はいないのかしら。寂しそうね」
勝ち誇った顔でソラを見る愛華だったが、ソラの反応は予想されたものと違った。
「……よかったぁ」
愛華の表情を数秒見つめ、心底安堵した表情で脱力して再び机に倒れ込む。
「……会話が成り立っていないわよ?」
「そうかな? 銀次なら、ホームルームが始まる前には来ると思うよ」
伏せったままの返答に、愛華はピクリと眉を動かすがクラスメイトの前で声を荒げるわけにもいかない。
「ちょっと、髙城さん。四季さんが話しかけているのに、その態度は失礼じゃない?」
堪えられず取り巻きの一人が声を挙げるが、ソラは無視を決め込んでそのまま目を閉じている。
それならばと、女子で囲んで壁を作ろうとするが、二人の男子のが近寄って来た。
「あー、ソラちゃん。体調悪いの?」
「だ、だよな。調子悪そうだよな」
「山田君と……村上君? えと、大丈夫だけど」
顔を横に傾けてソラが応じると二人は露骨に緊張を強める。気だるげな表情のソラはどこか艶っぽく普段の雰囲気とも違い妙な色気があった。
「ちょっと、貴方達、今は四季さんが話しているでしょ!」
目の細い女子が食って掛かると、男子達はスッと下がるが、ソラも立ち上がる。
「ソラ?」
愛華の問いかけには答えず、ソラは歩いて銀次の机まで行きそのまま自分の机と同じようにつっぷした。必然的に男子達の集まっていた場所に近くなり、女子達は近寄りがたく。
男子達も銀次の席に座るソラにどう声をかけるか迷っている。数人の男子はうんうんと頷いていた。
そしてホームルームが始まる数分前に銀次が教室に入ると、自分の席にソラがいて、クラスの顔なじみの男子と四季と取り巻きの女子+四季派の男子が線を引かれたように分かれて、しかも全員がこちらを見ている。
「……」
銀次はそのまま自分の席に進み、ソラの背中を人差し指でなぞった。
「ひゃわうぅん!!」
飛び起きるソラの悲鳴が教室の緊張を打ち壊す。ケラケラと笑いながら銀次は席を取り返した。
「な、なにすんのさっ! 変な声でちゃったじゃん」
「わりぃわりぃ、隙だらけだったからつい、な」
「むぅ……どうだったの?」
目線をそらしながら訪ねてくるソラを見て、銀次は深く息を吐いた。
「さてな……」
「あのね、銀次――」
「ソラ、大丈夫だ」
銀次がソラの声を遮る。その表情から何かを読み取ってソラは黙った。
「なんせ、俺にもモテ期が来たからなぁ。いやぁ、嬉しいぜ。イテッ!」
「……」
わざとらしくおどける銀次にソラは無言で自分の机に戻る。去り際に銀次の脛を蹴ることも忘れずに。
席にいた愛華は二人のやり取りを聞いて、満足そうに立ち上がる。
長い髪を揺らし、ソラの耳元に口を寄せた。
「ナイト君は鈍いようね」
そう言って去っていく愛華に対し、ソラはため息をついた。
「ほんとにね」
後で、どう『尽くしたがり』してやろうか。愛華の様子を見ている銀次を見てソラは思い知らせてやると心で誓ったのだった。
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