ごちそうさま
ズドンと置かれたお重に唖然とする銀次。自信満々に胸を張るソラを睨みつける。
「お前……これのせいで寝不足なのか?」
「えっ違うよ。フッフッフ、これは科学の力だよ。ほいっ」
一段目を開けるとそこにはピンクの肉色が艶やかなローストビーフ。鞄からソースが横に置かれる。
「おおっ、旨そう……っていうか時間も手間もかかるやつじゃねぇか」
「チッチッチだよ。二段目をご覧あれ」
二段目にはアルミホイルの包みが一つ、お重の蓋を皿にしてソラがアルミを開くと、レモンとアスパラを付け合わせにしたタラのホイル焼き。
「いや……これも手間かかるだろ? 美味しそうだけどよ」
「まだわからない?」
面倒な料理の二連続、しかし、銀次はこの料理の共通点に気づく。
「……ヘ〇シオかっ!」
「当たりー。ボクん宅に来ては使いたがっていたもんね。折角だから、使用例を持って来ました」
「こ、これがヘ〇シオの力……いや、それでも時間も手間もかかるだろ」
「作業の合間に設定するだけだし、実際お手軽だよ。ちょっと早起きしたけどさ。ローストビーフは前日から仕込んでたし」
いくらヘ〇シオでも下準備はあるだろう。そんなもの苦にもならないとソラは昼食の準備を完了させた。
「そうかな、久しぶりに凝ったもの作れて楽しかったよ? 三段目はおにぎりと付け合わせのサラダね」
ソラはそのまま楽し気に横に座る。睡眠時間が心配だが、文句を言うのも違う。
銀次はここまでしてくれたソラの頑張りに素直に感謝することにした。
「あーん」
当然のように箸でローストビーフ
「……あーん。これだとソラが食べる時間が無くなるだろ」
「そうだね、でも味の感想は近くで聞きたいな?」
周囲に人がいないこともあって、警戒心なんて一つもないように肩を寄せてくるソラからは柑橘系の香りがした。ソースからも柚の香りが鼻に抜ける。
「旨い。しっとりしてるし、ソースもいける」
「やった。流石に毎日は無理だけど、なんか作っちゃたんだよね。寝不足のこと心配してくれてありがと」
「……わかってんならいい。本当に旨いよ。今まで食べたモンの中で一番上手い」
「……」
感想を言って、優しくほほ笑む銀次の表情も教室では絶対に見せないもので、ソラはもっと近くで見たくなった。
立ち上がり、邪魔な机を前に移動させてポテリと銀次の膝に座る。
太ももに感じる柔らかな感触と、もたれてくるソラの体の重みに、頭に血が上る。
やってるソラも顔真っ赤である。そして、震える手でホイル焼きを小さく摘まむ。
「あ、あーん」
上目遣いに箸の下に手を添えて、タラを差し出してくる。
ここまで来たら意地だった。銀次は一息に食べる。味は……コショウが効いている気がするが、緊張でわからない。ソラが箸をおいて、そのまま銀次の胸に頭を乗せる。
エアコンの無い室内で、開けた窓から風が吹き込む音だけが響く。二人共汗ばんでいた。
「ソラ、これは『尽くしたがり』か?」
「どうかな。でも、『約束』だよ」
その約束は『尽くしたがり』か銀次が『幸せに』するということか、どちらにせよ約束には違いない。親友よりも近い距離感で、二人は胸の鼓動を合わせた。数秒後に、ソラが立ち上がり自分の椅子に座り直す。
週末の話が終わるまでは、心の全ては明かせない。
「エヘヘ、なんかもうお腹いっぱいだね」
「ハッ……俺はまだまだ食えるぜ」
銀次がおにぎりに手を伸ばし、ソラが冷えたお茶入れて紙コップを前に渡して弁当を食べる銀次を見つめる。
そんな、二人の昼食だった
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