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もう遅い系の主人公みたいな奴がクラスメイトにいるのだが、一向に不幸なままなので俺が幸せにしてやんよ  作者: 路地裏の茶屋


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二人乗りと工場の風景

「ソラってどうやって通学してるんだ?」


 下駄箱で靴を交換しながら銀次がソラに尋ねた。


「徒歩だよ。大体20分くらいかな?」


「朝から20分も歩くなら自転車の方がいいんじゃないか?」


「自転車も持ってるけど、歩きながら風景を見るのが好きなんだ」


「そりゃいいな、俺も早起きできたら考えるぜ。ちなみに俺は自転車、乗ってけよ」


 話しながら二人は自転車置き場にたどり着く。銀次がカエルのキーホルダー付きの鍵を付けてママチャリを取り出しながら荷台を叩く。


「……二人乗り」


 鞄を抱いてジーと自転車を見つめるソラ。


「ん、どうした?」


「初めてだから。どうすればいいのかわからない」


「マジかよっ! ってさっきも言ったな。じゃあ教えてやるよ。慣れたら移動しながらの方が楽だけど、初めてなら止まった状態で乗った方がいいな」

 

 学校の敷地だと先生に見つかるからと言って、校門を出てから少し歩いた場所で銀次は自転車にまたがった。ソラから鞄を預かり、自分の鞄と一緒にカゴにつっこむ。


「踏ん張ってるから乗れよ」


「う、うん」


 ソラがおずおずと荷台に乗るが、バランスが上手くつかめずグラグラと揺れる。


「わわ」


「初心者は腰に手を回して、しっかり掴め。慣れたら肩を持てばいい」


 言われた通りに、腰に手を回して密着する。銀次が自転車を漕ぐと、風が流れる。

 一漕、二漕と加速していく。


「は、速いよ」


「速度がないと逆に危ないんだよ。ほれ、安定したろ。肩持って体を離せるだろ」


 勢いのついた自転車は安定して道を走り、肩を持って銀次から少し体を離したソラの眼には普段とは違う景色が広がった。地区の避難場所も兼ねている学校は街の高台にあり、緩やかな坂道を下る自転車からは街の風景が良く見える。


「わぁ、自転車だとこんな風に見えるんだ。凄いよ銀次っ! 見て、綺麗な夕焼け」


「あん? そんなの気にしたことなかったな。しっかり掴まっとけ。……確かに、オツなもんだけどよ」


 背中で楽し気に騒ぐソラに素っ気なく返す銀次。だがその表情は柔らかい。そのまま坂を下りて、駅とは反対方向の工場地帯へ向かう。入り組んだ道を進み、見るからに古い造りの平屋の前で自転車が止まった。

 

「着いたぞ、ボロいが職人気質の大工が建てた家だ。丈夫なんだぜ」


「うん……」


「ん?」


 元気の無い返事、銀次が振り返ると。手を後ろに回してモジモジしているソラ。


「お尻痛い……」


 その様子をみて銀次はカラカラと笑う。


「次は座布団を用意しといてやるよ」


「うん。それにしても……」


 ソラが言葉を濁す。工場地帯にポツンと立つ一軒家、明らかに浮いている。


「あー。確かに変か、親父が安いからってここいらの工場長から買ったんだよ。うるさくしても文句も無いし、俺は気に入ってんだが……」


 慣れない人が見れば、確かに怪しい雰囲気だと思うかもしれないと銀次が頬を掻くと、ソラが顔を上げた。しかもなぜかほっぺを赤く染めて興奮していた。


「めっちゃいいよねっ!」


「は?」


「あの配管の入れ込み具合とか、道を挟んだキャットウォークとか、あぁ、煙突も見える。ねぇ銀次、夜ってライトとかつくの?」


「あ、あぁ足場のライトが付くぞ。あと車の通りも多いから街灯もわりとあるしな」


「はわ~。いいなぁ、工場いいなぁ」

 

 完全にとろけた表情で工場を見つめるソラを見て銀次は脱力した。

 こんな愉快な奴が、涙を流して苦しむなんて間違っている。

 

「……やっぱ、お前は幸せになるべきだ」


「えっ、何か言った?」


 視線を戻したソラの頭を銀次がグリグリと乱暴に撫でる。


「うわっ、な、何?」


「何でもねぇよ。ほら、さっさと入れ。工場なんて後で腐るほど見りゃあいい」


 引き戸を開けて、やや強引に銀次はソラを家に招いたのだった。

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奴隷に鍛えられる異世界生活

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