どんな関係?
昼休みにソラが猫化した事件を受けて、男子達はソラに突撃することはなくなった。むしろ、事情を知らない他の学年の男子がくれば止める者も出てきており、銀次としては一安心である。
「……こわいなー」
「もう大丈夫だろ?」
銀次に隠れる理由が無くなったソラはちょっと複雑である。そんな二人に対する愛華の取り巻きの視線は厳しい。
『……男子に媚び売ってない?』
『ああやって、桃井にひっついて嫌らしい』
『四季さんに女子として勝てないから男子の振りをしてただけよ』
『桃井もなんであんな子に……』
とうとう、隠す気もない陰口がぶつけられるが、これについては銀次もソラも慣れたものだった。
むしろ、男子と違って近寄ってこないだけ気分が楽くらいがソラの心境であり、銀次も陰口を叩くような女子に興味は無いと欠伸で受け流す。無論、ソラに対して純粋に興味がある女子もいるだろうが、この状況で話しかけようとする勇者はいない。結果的にソラは男子からは遠目から観察され、女子からは離れられるという状況だった。それでも、ソラに対する注目は高く愛華はチラチラとソラを気にしているが表立って話しかけることはしなかった。
愛華の顔色は悪く、澪が心配しており取り巻きも気を使っている。
あの様子だと今日はなんにも無さそうだなと銀次は胸をなでおろす。
そして、放課後。いつも通り二人で自転車に乗ろうとするが問題が発生する。
「……スカート」
「そういやそうだな……」
ズボンの時と違い、今はスカートなので気を使う必要がある。
「歩いていくか?」
「スーパーのお肉売り切れるから急ぎたいな。ちょっと工夫するよ」
荷台に座布団を巻き付けている銀次の自転車にまたがり、スカートを調整するが上手くいかない。
「こうかな」
最終的に横座りで銀次に強く抱き着く形となる。またがる座り方と違って、バランスがとりづらいので必然的にしがみついてしまうのだ。
「お、おいっ」
「大丈夫、これならめくれないよ。ほら今日は銀次の家でご飯だよ」
どこまで本気なのかわからない銀次だったが、ソラは真面目な様子。背中に感じる柔らかい感触に意識を持っていかれないようにゆっくりと自転車を漕ぎだす。
無論、ソラは意識してる。銀次に自分を意識させたいというよりかは自分が銀次の背中にしがみつきたいという意味での意識ではあるが。
「……」
「……ねぇ、銀次?」
緩やかな下り坂みる景色は初めて二人で下校した時を思い出す。
「なんだよ?」
「綺麗な夕焼けだね」
初めて二人乗りをした時と同じ夕焼け、だけどこの眼に映る景色は絶対に今の方が美しい。
心の模様を描くなら今日の夕焼けがいい。頭の中で絵を描きながら、銀次の背中に頭を乗せる。
「そうだな。前見た時よりも綺麗かもな」
……同じこと考えたんだ。と胸がくすぐったい。今日は頑張って女子用の制服で学校に来てよかった。
少しは意識してくれたのだろうか? ソラの問いかけの答えは、夕焼けで照らされた銀次の後ろ姿からはわからない。まぁ、今日のところはこれくらいで勘弁してやろう。
その後、銀次宅にて。
「テツ、落ち着いて聞いてくれ。実は……」
「あっ、テツ君お邪魔します。台所使わせてね」
何事も無いように挨拶するソラと、女子用の制服姿に少し驚くがすぐにいつもの無表情に戻る哲也。
「ソラ先輩お疲れ様です。……兄貴に言えたんですね」
「うん、色々迷惑かけてごめんね」
「いいんです。良かったな兄貴」
テクテクと台所に入っていくソラとうんうんと頷く哲也を銀次は口をパクパクさせて交互に見ている。
「知ってたのか!!」
「俺、女子が苦手だからね。初対面でわかったよ。でも、ソラ先輩は兄貴のいい人だし苦手とか無いから。というか、女子の姿になるとあんなに変わるんだな。お似合いだ大事にしなよ」
「ば、バカ野郎。そんなんじゃねぇよ。俺は親友として一緒にいるんだよ」
……今度は哲也が口をぽかんと開ける番だった。
「嘘だろ?」
「何がだ?」
そして、今日は『尽くしたがり』の約束でソラが一人でカツカレーを作り準備をした。カレーに福神漬けを用意して銀次の横に座る。
「銀次はカレーにソース派? ケチャップ派」
「別にこだわりはねぇけどよ。強いていうなら卵の黄身だな」
「へぇ、おもしろいね。……はい、卵インね。混ぜてもいい?」
冷蔵庫から卵を持ってきて、黄身を取りしてカツカレーに乗せてスプーンを取り出す。
「混ぜるくらい自分で……」
「約束でしょ?」
「……」
ニコニコとスプーンを準備するソラに銀次は黙り込む。学校でも距離が近いと思っていたが、あれはまだ抑えていたのかと戦慄する。
それを無表情で見る哲也。いくら銀次でも弟にこの様子を見られるのは恥ずかしい。
むしろなんでソラが平気なのか銀次は本気で疑問だった。
「テツ、これは……」
「いや、続けなよ。俺は構わないよ」
銀次はむしろ助けろよと視線でメッセージを送るが、ニッコニコのソラを見て、哲也は止められるわけがないと目線で返答する。そもそも馬に蹴られるのはごめんだ。
「混ぜたよ。ほらアーン」
「……あーん」
哲也は思った。
この二人、なんでまだ夫婦じゃないの?
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