そりゃ、意識するさ
ソラが泣き止むまで、銀次はソラの頭に手を置いていた。しばらくして、ソラが泣き止むと座り直す。
二人並んだまま、なんとなくくすぐったい空気。
「……なんかさ、銀次の前だと泣いてばっかりだね」
「まったくだぜ、俺にかかればソラを笑顔にできるはずだったんだがな」
どうして男装をしていたのか、聞きたいことは多く、気にはなるが泣き止んだばかりのソラにあれこれ聞くのも悪いと、銀次は肩の力を抜いて普段の調子に戻す。
大げさにため息をつく銀次を見て、ソラはクスリと頬を緩める。
「嬉し泣きはどうなの?」
「悪かねぇな」
「エヘヘ、それなら良かった」
「……」
「……」
「じれってぇえええええええええ!!!」
横からスズが飛び出してきた。手にはソラが注文していた抹茶パフェを持っている。
「忘れてた。ボクのパフェ……」
「パフェでも食べないとやってられないよっ! あたしは何を見させられているのさっ!」
スズは目を見開いて机にへばりつく。
「すまん。スズがソラを呼んでくれたんだろ。色々世話かけたな」
「勝手にソラを呼んだのはあたしだし、おあいこってことで……それにしても何つう空気だしてんのよ! 完全にあたしのことを忘れてたでしょ!」
実際に忘れてしまっていた二人がどう答えようか悩んでいると、スズの背後に店員が立つ。
「お客様。そろそろ他のお客様も来店される時間ですので……出て行ってくれませんか?」
「「「すみません」」」
三人仲良く謝ったのだった。店から出て、駅へ向かう通りで歩きながらスズはソラに顔を寄せる。
「ソラ、これからどうするの?」
「えっ? ど、どうするって?」
「まさか、このまま解散するつもりじゃないでしょうね?」
「そのつもりだけど。今日は……もう胸が一杯で……」
ズォオンとメンチを切るようにスズがソラを睨みつける。
「いいわけあるわけないでしょ! いい? 今、銀次は混乱してるの。ならばその隙をつかなくてどうするの。この状態で落ち着いたら絶対、変な距離感できるでしょ! 攻めるならば今なのよ! スタートダッシュが大事なの」
「……そ、そうなの?」
スズの勢いに押されながら、そう言われるとそうなのかもと思うソラ。自身の女子力に自信が無いため、見るからに女子っぽいスズの言うことに従った方がいいんじゃないかという心持ちである。
「ソラよ。ご飯に誘うのじゃ。まずはジャブで様子をみるのじゃ」
エア口髭をなぞりながらスズが指示を出す。目をキラキラさせたソラが大きく頷く。
「わかったよ……老師」
「誰が老師じゃ!」
「……何やってんだ?」
こそこそと話す二人に銀次が怪訝な表情で振り返る。
スズがソラの背中を押す。帰りにファストフードとか、先程のようなファミレス、それが無理でもちょとした買い食いでもできれば良しと心の中でエールを送る恋愛老師。
「ちょっと話し合い……あのさ、銀次」
不安げな声で、だけども銀次に近づいて見上げる。
「なんだ?」
「今日さ……ウチで晩御飯食べない?」
すでに、何度もお互いの自宅を行き来していると知らないスズは驚愕に震えた。
それ、ジャブとちゃう。ロシアンフックや!! と怪しげな関西弁で心でツッコミを入れる。
「いいぞ。というか俺からそう言おうと思ってたし」
「ええんかいっ!」
心の声が漏れてしまった。
「ど、どうした?」
「スズも来る?」
もう付き合っててしまえと、喉までせり上がった言葉を飲み込む。
性別を勘違いしていたせいで、距離感や関係性がバクっていることは想像に難くない。
ここは、見守るが吉と判断する。
「いや、家の方向違うし……じゃあね、ソラ。後でIINEするから」
「う、うん老師」
「こちとらピチピチのJKなんですけどっ! じゃあね!」
スズと分かれ、二人で顔を見合わせる。
「じゃあ帰るか」
「うん、今日は何食べたい?」
そう銀次に言えることが嬉しくて、笑みがこぼれる。
「米系の気分だな」
両手を頭の後ろに組みながら銀次は軽い調子で答えた。
「じゃあ、オムライスなんてどう? フワトロだよ?」
「いいな、チキンライスは俺が作るぜ」
ソラは気づかない。腕で隠した銀次の顔がほんの少し……赤く染まっていたことを。
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