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時間はたっぷりあるからね

 テストの結果が張り出された後、結果を見た愛華は無言で掲示板から立ち去り生徒会室へと向かった。

 この時間の生徒会室は無人であり、職員室からカギを借りることができるのは基本的に2年の生徒会長と副会長の愛華だけだ。鍵を開けて、後ろ手で大きな木製を締めた後、ゆっくりと息を吸って。


「なんでよっ!!」


 と叫んだ。手入れの行き届いた銀髪が乱れるのも構わず頭を掻きむしる。

 椅子に座り、爪を噛みながらスマフォを起動してSNSを確認する。


「……問題は無さそうね」


 見ていたのは、愛華が把握しているスクールカーストの高い生徒のSNSと学校の掲示板。

 四季 愛華のブランドが下がったかを確認していた。大体が、愛華に対して心配する声や、そもそも13位でも十分に凄いとフォローする意見がほとんどだった。

 

 しかし、問題がある。それはソラの存在だ。一位を取るよりも遥かに難しい満点という成績は衝撃的であり、ソラのことが話題には挙がっていた。当然、直接名前をあげるようなことはないが、それとわかるように話し合っている。


 あいつは一体誰だ? その疑問の答えは徐々に広まりつつある。


『校門で朝、挨拶して回っているいるちっこい男子だよ』


『姫の後ろについていた陰キャだろ?』


『なんで急に一位になってんの?』


 ギリっと歯を食いしばる。


「中学の時から目立たないようにって言っていたのに!」


 あの子が化け物じみた記憶力と観察力を持っていることは知っていた。それを知識として使用することができることも、だからこそ、発揮する場所を奪っていたのに。

 自身ですら自分を評価できないほどに、鏡すら見たくなくなるほどに中身も見た目も醜く変えてそうなるように仕向けたのに。


「……もう一度『忘れられない』記憶を植え付けようかしら。それは後ね……あの子の代わりを用意してもらわないと」


 ため息をついた愛華はスマフォを操作する。生意気なソラをどうにかする前に、最低限自分を補佐する人材が必要だ。然るべき場所に連絡し、返答を待つ間に髪と制服を整えながら思考を巡らす。


 どうしてソラは急にテストで本気になったのか。その答えは明白だった。


「あの男……桃井 銀次」


 低く獣の唸るように呟き、憎たらしい悪人顔を思い浮かべた。


 一方、テスト結果が発表された日の放課後。銀次とソラの二人は……。


「ソラ、これ以上は……」


「ダメだよ。約束なんだから」


「勘弁してくれ、耐えられない」


「悶える銀次も可愛いなぁ」


 ソラの家で行われていたこと、それは……。


「やっぱり肩が凝ってるね。筋肉はあるから筋トレはしてるの?」


「イテテテ。おい優しくしてくれ。家の鉄棒で懸垂をしているだけだ。テツと交互にやるのが習慣でな」


 部屋着に着替えた銀次をソラがマッサージをしていた。ソファーに座らされ、足台を置いて膝を伸ばしてリラックスできる姿勢だ。部屋には緑茶の良い香りが満ちており、テーブルにはソラが淹れた緑茶と甘すぎないチョコレートケーキが手が届く場所に置かれている。


 テストで満点を取ると言う賭けの対価は、ソラの尽くしたがり欲を満足させること。


『銀次は何もしちゃダメ、ボクにお世話させてよ』


『は?』


 というやり取りの後、銀次はソラによりそのまま家に連行され、なぜか(協力者:哲也)用意されていた銀次の部屋着に着替えさせられ、マッサージを受ける羽目になっていた。

 初めは痛みを伴うマッサージだったが、そのうち優しくもみほぐすような力加減に変わり、そうとうに気持ちが良い。


「茶も旨いな」


 少し気温の高い季節だが、冷房の効いた部屋で出されたのは銀次好みの熱め緑茶。


「そう? えへへ、静岡のお茶屋さんに直接連絡して取り寄せたんだ。銀次は夏でも熱めのお茶が好きだから最初は番茶、次にぬるめの玉露をだすね。美味しいんだよ」


「高い緑茶なんて飲んだことないぞ……」


「それは良かった。お茶請けを変えるね」


「まてまて、ちゃんと食うぞ」


 マッサージを辞めて、残っているケーキをしまおうとするソラを慌てて止める。


「ダメだよ。種類ごとにお茶請けを用意しているからね。残りは持って帰って哲也くんにあげてよ。はい、次はしょっぱい味だよ。茶殻のお浸しです。玉露と一緒にどうぞ」


 抽出した茶葉を使い、カツオ節と出汁をかけたお浸し。おそるおそる口に入れ玉露を飲み、銀次は頭を抱えた。


「食ったことねぇのに、好きな味なんだが。茶も信じられないくらい旨い……」


 どストライクだった。自分でも知らない嗜好を把握されているという、なぞの敗北感を味わうことになる。でも美味しい。そんな銀次を見てソラはニコニコと幸せそうに微笑む。


「こんなもので満足してもらっちゃこまるよ。テストに自信があったから、画塾に行った後に色々な準備したもんね。今日のおもてなしのメニューはまだ三時間分はあるからね。あっ、哲也君には事前にIINE送っているから時間は気にしなくていいよ」


「裏切ったな弟よっ」


 その後もみっちりともてなしを受け、心身共に満足させられる銀次なのだった。

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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
[良い点] 哲くん可愛い [気になる点] 76点で16位…?
[一言] 尽くし性能が高過ぎる。 そんなんじゃダメンズに引っ掛かりそうだけど、銀次捕まえるなら問題ないか。
[一言] 銀ちゃん、思わぬもてなしラッキー! 後でソラが女の子だと気がついたらどうなることやら。
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