テストの結果
金曜日、月末テスト本番である。今月の指定された科目は数学。得意不得意が出やすい科目であり、銀次はどちらかというと苦手な科目だった。昼休みもソラと勉強をして、6限目にテストを迎えた。
テストが終わった銀次は頭を抱え、ソラはニタリと湿度の高い笑みを浮かべる。帰りの連絡が終わり、ソラが机につっぷしそうな銀次に近寄り顔を傾け、銀次の表情を覗き込む。
「え、えと。銀次、その様子を見るに、テストダメだったの?」
「……めっちゃできた」
「は?」
口を開けて混乱するソラを銀次は睨みつける。
「できたんだよ、手ごたえがある。というか、例の解かせる気ない問題ですら途中までは取り組めた」
「じゃあ、なんで絶望そうな表情を浮かべてるの?」
「数学苦手な俺がここまでできたということは、俺に勉強を教えたソラはどうなんだって話だろ?」
机に頬杖をついて上目遣いにこちらを見る銀次にソラはようやく意図を察し、イジワルな表情で顔を寄せる。ヘーゼルアイがキラリと光っていた。
「ばっちり。結果が張り出される月曜が楽しみだねっ!」
「くっそっ! ヤケクソだ。テスト終わりの景気づけに今日は辛いモン食べるぞ」
机から立ち上がり、カバンを持つと銀次は大股で歩き出した。ソラがその後を小走りでついて行く。
「あはは、お手やわらかにね。辛さ調整できる料理なら……チリソース炒めなんかどうかな?」
「あんま食べないな。ソースの作り方わかるか?」
「わかるよ。トマトソースと豆板醤ならうちにあったし、簡単なものなら作れると思う」
晩ご飯の献立を話しながら靴箱まで来ると不意に女子達の声が聞こえた。
「四季さんが――」
愛華の名前を聞いて、とっさに二人は靴箱に身を隠した。
「えっ、テスト終わりに怒ってたの?」
「うん、一緒にいる子がいつもどおり四季さんに『今回もバッチリでしたか?』って聞いたら。険しい表情で無言で立ち上がって教室から出て行ったって」
「珍しい、いつも余裕なのにね。自分に厳しい四季さんだから、ちょっとできないとイライラしちゃうのかな?」
「完璧主義者だもんねー」
靴を履き、女子二人は昇降口から出て行った。
「……ソラ、聞いたか?」
「うん。今回はテスト内容を予想した問題集を渡さなかったんだ。頼まれなかったし」
「それで思うような成果が出なかったのかもな。こりゃ、俺も月曜日が少しは楽しみになってきたぜ」
銀次はニヤリと笑い、ソラは複雑そうな表情だ。視線を揺らし不安げに銀次を見上げる。
「……自分のせいだと思うのか?」
「どうだろ、愛華ちゃんは、多分ボクがいなくても大丈夫だと考えていたんだと思う。だから、ボクにテスト問題を作れって言わなかったんだ。実際、普段から勉強はしているっぽいし」
「アイドル様も楽じゃないってか。まっ、どうにもならねぇよ。帰るぞ」
その表情を見て銀次は、やはり正面切っての復讐はソラの幸せにつながるのかと考えた。まずは、コイツが自分に自信を持つことが先決だ。その後でゆっくり考えればいい。
「うん。今日はボクが自転車漕ごうかな」
「やめとけ、二人そろってコケるのがオチだ」
そのままソラの家に行って激辛料理を頼んだ二人だった。土日はソラは画塾に行くらしく、銀次も男子の友人と遊ぶということで予定があり、二人が次に会ったのは月曜日だった。
午前の授業が終わった昼休みに月末テストの結果の上位20位が張り出される。
「……マジかよ」
銀次は苦笑いを浮かべた。学年ごとにある掲示板に張られた結果には。
『 一位 :髙城 空 100点 』
二位の生徒が92点であるという事実を見るに圧倒的な結果だった。横斜め下を見ると、わざわざ伊達メガネを外してドヤ顔で銀次を見るソラ。
「『なんでも』……だよね?」
「……男に二言はねえよ」
「さっすが銀次。ところで、そっちもおめでとう」
「あん? マジかよ!?」
ソラが指さす先には銀次の名前があった。
『 十六位 :桃井 銀次 76点 』
と書かれている。同じ順位の人間が六人ほどいたがそれでも張り出されるほどの成績を取ったのは初めてである。手ごたえがあったとはいえ、僅か一週間の勉強で進学校の上位20位に食い込むことができたという事実に銀次は本気で驚いてた。
「うーん、あと二問ほど解けたら10位だったよ。次は一桁だね」
「冗談に聞こえないぜ」
「冗談じゃないよ?」
小首をかしげるソラ。銀次は自分の見立てが大幅に甘かったことを認めざるをえなかった。
勉強時間のほとんどを銀次への指導に費やしてのこの結果は、本気のソラは銀次の想定よりも遥かにスペックが高いということである。そして、もう一つ気にすることがあった。
『 十三位 :四季 愛華 』
毎回10位以内をキープしていた愛華が二桁台であり、その結果は校内に静かに広まっていった。
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