勉強しとくね
「次はこの公式を使って問題を解いてみて」
「ん、さっきやったやつじゃねぇか」
ソラがノートパソコンを操作してプリントを印刷して銀次に渡す。
先程からソラが問題を作って銀次が解いてそれを二人で復習するということを繰り返していた。
「ちょっと違うよ、いいから解いてみて」
「いいけどよぉ……なんか、俺の勉強しかないんじゃねぇか?」
ラフな格好のままに足を組んで、問題を作り続けるソラは銀次の文句をどこ吹く風と受け流す。
「いいからいいから、銀次に教えるのがボクにとっての一番の勉強だから」
「お前、本当にテストで上位の成績とれるんだろうな? ソラが取れないと意味ないぞ」
「約束するよ。あっ、銀次ここの公式は覚え方が違うよ。頭が二重カッコの奴はテスト範囲だと全部こっちの公式で解くのがわかりやすいよ」
「……わかったよ」
銀次も銀次で根が素直なため、ソラから出される問題を言われるがままに解き続けている。
次に新しく出された問題は、少し難しく銀次は問題を集中して解いていた。
「……」
ソラはそんな銀次を見ながら、ノートパソコンを閉じてサラサラとノートに鉛筆を走らせる。
壁に掛けられた時計の秒針の音、銀次のシャーペンとソラの鉛筆の音が部屋に流れる。
「できたぞ」
「ん、見せて」
プリントを受け取ったソラは添削を始める。一息ついた銀次はソラの前に置かれたノートを見て噴き出した。
「ブフッ、お前……何描いてんだ」
「あ、勝手に見ないでよ」
ソラが描いていたのは勉強に励む銀次だった。シャーペンを持ってプリントに向かう銀次の姿が描かれている。数分で描かれたもので線は少ないが、独特な重心の置き方や字を書く時の手癖など銀次を観察しているのがよくわかる。
「お前なぁ、ちゃんと勉強してると思ったらこれかよ」
両手を伸ばしてソラのほっぺをモギュと挟んで左右に動かす。
「ムギュ、ご、ごめ、ちゃんと、ちゃんとするからぁ」
ひとしきりソラのホッペをいじくって解放する。
「ったく……それにしてもお前、ほっぺたすべすべだな」
男子のそれとは思えない瑞々しい肌に銀次は驚く。色々規格外なソラだが、肌まですべすべとは、クラスの女子達はこのことを知っているのだろうか。
「昔から肌が弱いからケアはしっかりしてるからね。愛華ちゃんのスキンケア用品とかもボクが手配してたし」
「聞けば聞くほど、四季はお前の凄さを理解できていなかったと思うぜ、ムギュ……」
机越しにソラが銀次の頬を挟んで、ムニムニと動かす。銀次も自分がしたからか、されるがままだ。
「わりとすべすべ……銀次、スキンケアしてるの?」
「あん? してねぇよ。洗顔するくらいだな」
「えー、勿体ないよ。そうだ、今度メンズ用のスキンケア用品も調べておくね」
「メンズ用って……ソラが使っているのはメンズじゃないのか?」
銀次の質問にソラが硬直する。
「……あっ……えっと、愛華ちゃんのを自分にも使ってるから、メンズはあんまり持ってないって言うか」
露骨に視線が泳いでいるが、化粧の話題にあまり興味のない銀次は気にしないようだ。
「そんなもんか。脱線したな、プリント見ないのか」
「見るよ。……よし、大体銀次の苦手な部分がわかったよ。ちょっと休憩しようか」
「そうだな、少し疲れたぜ」
時間を見れば、二時間ほど通しで勉強していたようだ。銀次は伸びをして脱力する。
「出来あいで悪いけど、クッキーがあるよ。飲み物は何がいい?」
「今は緑茶の気分だな」
「ごめん、緑茶ないんだ。銀次、緑茶好きなの?」
「まぁ、割と飲むな。家ではコーヒーか緑茶って感じだ」
「へぇ、次は準備しとくよ」
唇に指を当てて、緑茶のことを考えるソラ。
「いや別になんでもいいんだ。わざわざ用意するほどのもんでもねぇぞ」
「ううん、知りたいんだ。銀次の好きなもの。だから美味しい緑茶のこと勉強しとくね」
心底嬉しそうにそう言うソラを見て銀次は。
「……テスト勉強しろよ」
とツッコみを入れるのだった。
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ジャンル違いではありますが、ハイファンタジーでも連載しております。
作者自身は面白いものを書いていると本気で信じています。下記にリンクを張っていますので、もしよろしければ読んでいただけたら嬉しいです。
『奴隷に鍛えられる異世界』
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