とりあえず一番になればいい?
午後の授業も終わった放課後、いつもの資料室で二人は机を挟んで座る。ちなみに、本日は銀次の好みに合わせてやや苦目のガトーショコラが準備されていた。無論、ソラの手作りである。
「ケーキは流石にやりすぎじゃね。旨いけどよ」
「そうかな? むむ、しっかりと固定してたのに、ちょっと崩れちゃった」
「鞄をカゴに突っ込んだからな」
自分の分には手を付けず、銀次がケーキを食べるのを楽しそうに見つめるソラ。大口を開けてケーキを食べた後は、ドカリと机に肘をつく。
「じゃあ、作戦会議。フェーズ2ってやつだな」
「フェーズ1は男子への挨拶だけなの? 確かに顔見知りは20人ほどできたけどさ。現状、女子達と一部の男子からの嫌がらせは加速しそうだけど」
昼休みの愛華とのやり取りは、すでに噂として広まっておりその場にいなかった取り巻きも含め相当数の人間が二人を見てはヒソヒソと陰口を叩いていた。中には聞こえるように言う女子生徒もいるほどだが、二人はまったく気にしていない。
「せいぜい陰口が激しくなった程度だろ? それに比べて俺達には、大きな成果があったぜ。次のステップはお前の実力をわからせることだ」
銀次が食べ終わったからか、ソラは小さめのガトーショコラをプラスチックのフォークで切って口にいれる。
「あむ……うーん、ブランデーを淹れたいけど、未成年だから買えないんだよね……実力って?」
「前にも話したが、四季に低い点数取るように言われているだけでソラは実は頭がいいだろ? 一週間後にある月末のテストでできるだけ高得点をとって目立つぞ。できれば四季より上の順位がいいぜ。勉強ができるってのは、わかりやすい『凄さ』だ。特にこの学校ではな。注目されればそれだけ攻撃を受けづらくなる。今後本気を出した時にも説得力があるからな」
二人が通う栄明高校は進学校である。この学校では、月末に指定された科目のテストがあり上位勢は張り出される仕組みとなっている。
「わかった。本気でテストに臨めばいいんだね。ちなみに、銀次は前の月末テストは何位なの?」
「俺か? 前回は歴史で得意だったからな、200人中の90位だ」
「お、おう。絶妙だね」
実際の所、県内でもそこそこの進学校で上位90位はそこそこ凄いのだが、ソラは納得しないようだ。
むしろ、面白いことを思いついたとニンマリと笑みを浮かべ、銀次を指さした。
「じゃあ、ボクが銀次に勉強を教えてあげるよ」
「四季みたいにテスト内容を考えて教えてくれるってか? 俺はソラを利用する気はないぜ」
「違うよ。そんなその場限りの雑なことをボクが銀次にするわけないじゃん、しっかりと基礎からみっちり教えるよ」
ヘーゼルアイが爛々と輝いている。ソラの尽くしたがりスイッチが入ったようである。銀次は嫌な予感に冷や汗が背中を流れるのを感じた。
「い、いや、今回はソラが目立つのが大事だから自分の勉強に集中してくれよ。俺は俺でやるから……」
乗り気でない銀次にソラは頬を膨らませる。
「……じゃあ、本気ださない。銀次も一緒に頑張るなら、ボクも頑張れるから」
「なんだそりゃ……わかった、確かにお前だけに頑張らせるのはフェアじゃねぇな。ただし、ソラが優先だからな」
「大丈夫だよ」
断言するソラに銀次は怪訝な顔をする。
「本気でやったら、満点とれるし」
「ハハ、その意気だぜ相棒」
「むー、信じてないな」
銀次がソラの言葉を冗談だと思うのも無理はない、月末テストは定期考査よりも範囲が狭い分、教師の趣味ともいえる応用的な問題が一問は必ず出ており、満点を取るのは一位を取ることよりもはるかに難易度が高い。
「そうと決まれば、さっそく勉強だぜ。俺は暗記なら得意だが数学は苦手だからな」
「暗記が得意なら数学も得意になるよ。じゃあ、今日から勉強する?」
「いいぜ、場所はどうすっかな。金も無いし、俺ん家でやるか?」
銀次の提案にソラが上目遣いで首を振った。
「今回はボクの家でいいよ」
「いいのか? なんか二階を見られるの嫌がってたじゃねぇか」
「あれは……急だったから、今は色々想定して片付けしてるし」
「そうか、じゃあテストまでお互いの家を交互に利用しようぜ」
やや顔の赤いソラだったが、特に銀次は不思議がることもなくソラの提案を受け入れた。
「う、ウス」
「……勉強以外に、俺を餌付けするのはほどほどだぞ」
「餌付け以外もあるけど?」
「お前、俺をどうしたいんだよ?」
その返しにしばしソラは沈黙し、グルグルと思考を巡らせた後に銀次の脛をゲシゲシと蹴る。
「痛ぇ、なんだよ」
「銀次のスケベ」
「なんでだよっ!?」
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ジャンル違いではありますが、ハイファンタジーでも連載しております。
作者自身は面白いものを書いていると本気で信じています。下記にリンクを張っていますので、もしよろしければ読んでいただけたら嬉しいです。
『奴隷に鍛えられる異世界』
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