今はアナタにだけ知って欲しい。
休み明けの月曜日。朝、商店街前の通りに銀次が自転車で向かうとすでにソラが立っていた。
自転車を降りて近づくと、銀次はすぐにソラの変化に気づく。前髪を少しだけすいているのだ。さらに大きな黒縁のメガネを外している。
「おはよ銀次」
普段前髪に隠された。よく見ないとわからない、茶に緑が交じるヘーゼルアイが銀次を捉える。
いつもより少し真っすぐな背筋、夏用のカーディガンを来たソラに銀次は明確な変化を感じた。
細い顎に整った顔立ち、中性的というよりは女子側にメーターを振ったようなソラを見て銀次は内心、コイツ普通にしてたら絶対モテるだろうなぁ。とか考えていた。
「おはようさん。よう、いいじゃねぇか。男前があがったぜ」
「……」→ゲシゲシ。
「痛っ、蹴るなよ。なんだよ、褒めたのに」
「べっつにー。ほら、行こうよ」
「あいよ、カバンはカゴに入れとけ」
銀次は自転車を押しソラは腕を振って歩く。銀次としては休日のことがあり、愛華が気がかりなのだが、ソラはソラで様子がおかしい。いつもならキョロキョロと周囲の景色を見てせわしない様子なのだが、今日は不思議と銀次と目が合う。
「……(ジー)」
「ん? なんか顔についてるか?」
「銀次、耳の下に小さなホクロがあるんだね」
「あー、あったようななかったような。……それがどうした?」
汗を拭って銀次が答える。
「なんでもないよ」
顎を上げて得意げな顔をするソラを銀次は怪訝な顔で見るが、別に悪い変化でもないからいいだろうと前に向き直る。程なくして学校が近づくと、ソラはいつもの黒縁メガネを取り出した。掛けると太目のフレームのせいで顔の輪郭が変わったような印象を受ける。
「おいおい、せっかくイメチェンしたのにメガネかけんのかよ? つーか、コンタクトとかじゃないのか?」
「元々伊達メガネだよ。銀次が見てくれればそれでいいの」
「何だそりゃ。今日は朝からいいようにされてる気がするぜ」
「あはは、いつもはボクがいいようにされてるもんね。たまにはいいでしょ?」
「ケッ……覚えてろよ」
そうは言うものの、悪い気はしないらしく銀次はソラの頭をガシガシと撫でた。
「ほら、いいようにされてる」
上目遣いで銀次を見るソラはどこか嬉しそう。
「バーカ、そろそろ校門だから挨拶すんぞ」
「うん、えーと……あっ、斎藤君。おはよう」
「自分からあいさつできたな。おはよう斎藤」
「ふわぁ、あー、髙城と銀次かおはよう」
「う、ウス」
まだ慣れない相手との会話は緊張してしまうソラだった。
「なんで柔道部みたいになってんだ。それよか、見ろよお二人さん。女子の薄着をよ、眼福ってもんだぜ」
体の大きな斎藤が遠慮なしにじろじろと女子を見る視線は、場所が場所なら通報者である。
「あんま見てると、キモがられるぞ」
「と、というか女子をそんな風に見るの良くない……かな」
「ほどほどにするさ、じゃあな」
寝ぼけ眼の斎藤はそのまま下駄箱へ向かう。斎藤を見送ったソラが銀次の方を向く。
「やっぱ、銀次も女子の薄着って好きなの?」
ソラの問いかけに銀次は数秒瞼を閉じて考え込む。そして目を見開いた。
「好きだな。だが、シチュエーションにもこだわりたいところだ。そういう意味では朝の校門前ってのはいいかもな」
銀次も銀次で『他の』女子に聞かれたらそれなりにヤバイことを堂々と言っている。
「おぉ……スケベだね」
なぜか興奮した様子のソラに銀次はうんうんと頷く。
「男は皆スケベってもんよ。だからこそ紳士じゃねぇとな、そういうソラはどうなんだ?」
「ぼ、ボク!? うーん……」
頬を染めて、考え込むソラに銀次が機嫌よく首に手をかけてソラを引き寄せる。
「わひゃ、な、どしたのさ銀次!?」
「いや、ダチと下ネタ言うって仲が良い証拠じゃねぇか。こんどゆっくり語ろうぜ」
嬉しそうにする銀次の腕を下から掴み。ソラは真っ赤な顔でボソッと呟く。
「……薄着の二の腕、好きかも」
「あん? 何かいったか?」
「べ、べっつにー。そろそろ愛華ちゃんが来るし、仲間の女子達も増えるから教室へ行こうよ」
「話し込んでたら斎藤としか挨拶できなかったな。まっ、四季と取り巻きが鬱陶しいのは同意だ。さっさと教室に行くか」
「うん」
そして二人は教室へ向かうのだった。
すみません。ミスで消してしまったので再投稿します。申し訳ありません。




