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将来の為に

 髙城宅一階の作業場。物で溢れて散らかっているその場所で無理やりにスペースが作られて丈夫そうなダンボールが六つほど積まれている。

 その前で、ソラはツナギ姿で胡坐を掻いてスケッチブックにガリガリと絵を描いていた。周囲には二十枚以上の紙が無造作に投げ捨てられている。


「描くだけじゃつまんない……お祭りなんだから。派手にいこう。うん、愛華ちゃんも銀次も驚かせる。それが最低条件。ギャフンだ」


 ブツブツと思考を口の中で転がしながら、立ち上がり段ボールの山の前でスケッチブックに向かい合うと、段ボールをずらして段差を作りそこに昇る。立ち上がって見下ろすと見知った部屋でも別空間のようだ。前を見て指で四角を作り、頭の中に記憶したパーツを組み合わせた。


「……でけた」


 頭の中で作品を描き上げると、満足そうにニヤリと笑う。きっと思い通りにはいかないだろう。成功するかなんてわからない。思い通りに描く絵もいいが、それは『ギャフン』ではない。失敗してもきっと銀次となら笑い飛ばせる。ならば恐ろしいものは何もない。かつて、城壁のようだった積み重なったスケッチブックとキャンパスの壁は今は外へ飛び出る為の階段でしかない。

 

「お、思ったよりも、高い……わわっ!」


 ただし、降りるときは慎重になる。地面に散らばったスケッチを集めて机の上に置いて、二階へ向かう。部屋の靴箱に靴をしまいながら扉を開けると。


「……いい匂い」


 エプロンをつけた銀次が晩御飯をテーブルに並べている最中だった。今晩のメニューのメインは豚肉とナスの揚げびたしのようだ。南蛮酢の甘酸っぱい香りに腹の虫が鳴き声をあげる。


「おう、お疲れ様。風呂沸かしてるから入って来いよ、サラダとスープも作っとくから」


 手慣れた様子で台所から料理を運ぶ銀次にボーっと見惚れるソラ。

 ボクの彼氏、カッコよすぎじゃない? とか考えていると怪訝な顔をした銀次が額に手を当ててくる。


「ふぇ? な、なに?」


「止まってっから。熱でもあんのかと思ったんだよ。無いみたいだな」


 と、掌の温度を確認する銀次。


「……銀次がかっこよすぎてフリーズしてた」


「本当に熱は無いよな。何言ってんだ?」


「いや、これはボク悪くないよ。だって扉を開けたら彼氏が晩御飯作ってくれているとか、どこの妄想かと思うじゃん! 実際、夢かと思ったよ」


「何言ってんだか。さっさと風呂入って来い。あっ、着替えは準備してないからそっちで準備しろよ」


「一緒に入る?」


「……ばーか。湯が冷めるぞ」


 と、送り出される。

 ソラが風呂から上がると、夏野菜のサラダに中華スープが添えられた揚げびたしが準備されていた。

 それなりの時間を一人飯で過ごしたソラにとって誰かの為にご飯を作ると言うのはとても嬉しいことで、それは自分の為にご飯を作ってもらうと言うことも同じだ。油断したら泣きそうになるので、さっさとテーブルに座る。


「美味しそう。もう食べていい?」


「もちろんだ。んじゃ、いただきます」


「いただきますっ!」


 細切りのネギとニンジンに彩られた揚げナスを豚肉と一緒に口に入れて、間髪入れずに米を頬張る。


「……今日はボクが尽くす予定だったのに……でも、美味しい……」


 悔しい、でも美味しい。とプルプル震えるソラである。


「アイデアを纏めたかったんだろ? そんで、上手くいきそうなのか?」


「さぁ?」


 ほっぺをパンパンにしながら首を捻るソラに銀次は少し驚いて目を丸くした。


「さぁってのは珍しいな。失敗しそうなのか?」


「今回はボクにとっての挑戦だし、でも準備物はハッキリしたよ。倉庫からいくらか取り出したけど、全然足りないから業者に注文しないと。銀次にも協力して欲しい」


「別にいいが、当日は俺もクラス委員でやることがあるからなぁ」


「前日に付き合って貰えば大丈夫。必要な物は――」


 ソラがつらつらと準備物を言っていくと、初めは怪訝な顔をした銀次だったが徐々に悪い顔に笑みを浮かべる。


「何をするのかわからないが、面白そうじゃねぇか。楽しみだな」


「うん、楽しみにしてて。次は……銀次のお父さんのことだよね。こっちは失敗できないよぉ」


 明後日には桃井父と初めて顔合わせる予定がある。


「不安なのはわかるが、大丈夫だっての。お袋もソラに会いたがってたしな。学校帰りに寄ればいいと思うぞ。飯も食って行けよ」


「うん、緊張するなぁ」


「……」


 ソラが自分の親に合うことに緊張しているのを見て、銀次もソラの父親のことが頭によぎる。

 自分もちゃんと挨拶をしないといけない。例えそれがソラの心の傷に触れることであっても。


「どうかした?」


 目ざといソラは銀次の些細な表情の変化に反応する。


「俺もやることをやらないと、と思ってな」


「何かあれば手伝うよ」


「あぁ、そんときゃ頼むぜ」


 目の前の少女を幸せにしますと誰に対しても言えるように。銀次は心のなかで決意を固めたのだった。

次回は多分月曜日更新です!


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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
平常運転お疲れ様です。 まぁお互いにアクセルとブレーキの 役割が出来ているので暴走は無いとは 思っていましたが••• 見方を変えれば今のソラちゃんにとって 愛華嬢は取るに足らないとまでは いかなくても…
少年漫画でいう修業編という名の夏休みを経て、レベルアップした実力を文化祭という名の天下一武○会で銀次とソラの真の実力が発揮されるんですね。銀次はともかく、ソラは何を魅せてくれるのか楽しみですねぇ。たぶ…
理想の彼氏そのものだからなぁ…それが自分に向かってるんだからそら感無量だわな。お互い様だろうけど。
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