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ボク、決めたっ!

 週が明けて、学校はいよいよ文化祭ムードが盛り上がっていた。銀次とソラが通う高校は親からの寄付も多く、近隣だけでなく他校の生徒も多く訪れるほどの大規模なものだ。文化祭からこの高校を知って入学を希望するようになったと言う生徒も珍しくはない。

 それ故に事前準備の時間もしっかりと取られるようになっている。学校全体がどこか浮ついていて、それは初めて文化祭を迎える一年生も例外ではない。


「つーわけで、午後の技術の授業は文化祭の準備だ。ずばり、何するかについて話し合うぞっ!」


「昼休みに配った冊子を参考にやりたいことを提案してもらうわ」


「「「イェエエエエエエイ!!」」」


 男子達がやんやと両手を叩き声を挙げ、夏休みが明けてからは周囲の顔色を伺っていた女子達も和やかにどんな出し物をするか話し合っていた。一方で……。


「……(ミシミシ)」


 握るシャーペンが今にも折れそうな音を立てているソラである。瞳孔が完全に開いており、愛華とその横に並ぶ銀次を睨みつけている。銀次としては何もないと言っているのだが、やはりソラにとって愛華は特別らしい。後でフォローしようと考えながら、今は話し合いを進めようと銀次は明るい調子で冊子と投票用紙を取り出した。


「んじゃ、投票用紙を配るぜ」


「よろしくね桃井君」


「……いや、お前も配れよ」


 優雅な仕草で銀髪を耳に掛ける愛華と、三白眼でそれを睨みつける銀次。身長は夏休みの間に成長した銀次がやや高いようだ。浮世離れした美貌を持つ愛華に対して強面の銀次が並ぶとまさに美女と野獣と言った様相になるが、銀次が愛華に対して物怖じしないこともあって不思議と違和感はそれほどなかった。


「冊子には去年の出し物や大まかな準備物を纏めたから参考にしてアンケートを書いてくれ。もちろん、オリジナルのアイデアも大歓迎だ」


「先走らないで桃井君。まずは集計をしないと何も始まらないわ。皆、箱を回すから出し物を書いた用紙を入れてちょうだい。あっ、でも恥ずかしいのはダメよ」


 唇に人差し指を当てニコリとクラスに微笑みかける愛華。猫かぶりであることをわかっている銀次はうんざりした顔になりそうになるが、他の生徒は愛華の本性など知る由も無く男女共に大いに盛り上がっていた。


 ほどなくして、全てのメモが箱に入れられると愛華がそれを受け取る。


「じゃあ、私が読み上げるから。桃井君は黒板へ書いて行ってね」


「はいよ」


「メイド喫茶」


「いきなり来たな……」


「男装喫茶、たこ焼き屋、クレープ喫茶、メイド喫茶、男装喫茶、男装喫茶、展示」


「喫茶店ばかりだな。まぁ、飲食は被っても個性を出しやすいか」


 すでに二票入っているメイド喫茶を見てため息をつく銀次。言わずと知れた愛華に加え、その愛華にも劣らない可愛さを持つソラもいるこのクラスだ。二人のいつもと違う姿が見たいと言う意見が多いのだろう。飲食や喫茶が多い中で他にも様々なメモが出てくるがほとんどが愛華やソラにして欲しい格好というのが根底にあるのが見え見えである。全ての票が公開されると、次は似たような意見を一つにまとめていく。

 

「お化け屋敷、演劇、占いの館……劇も多いわね」


 飲食系、展示系、劇といったように系統を丸で囲む。


「といっても、現状は喫茶系がわずかに頭抜けているか。メイド喫茶と執事喫茶が八票で同数だな。決戦投票するか?」


「いえ、それならどっちでも提案しましょう。喫茶店は他のクラスも提案するでしょうし、その時に被らないようにできるのは都合がいいわ」


「つまり、メイド喫茶で他クラスと被ったら男装喫茶に切り替えるってわけか……まぁ、違反ではないわな。それでも被る可能性はあるが……一応、ダメだった時の為に別の希望もまとめるか。いや、被りが多いなら喫茶店というのを文化祭の押しにするのも手か……ブツブツ」


 愛華の提案を受けて銀次が黒板の票をメモしていく。こうしてクラス会議は終了した。

 進行がスムーズであったこともあって授業時間は15分ほど残っている。教壇を降りて、自分の机に戻った銀次だったがガシっと腕を掴まれる。掴んだのはもちろんソラである。


「……おかえり」


「お、おう。ただいま?」


「今日は、尽くしたがりしてもいい」


 放課後の委員会のことは理解していが、目の前で銀次と愛華が並ぶと思うことがあるらしく。

 その想いの強さは握られている腕からしっかりと伝わってきた。つまり今日はこの後、ソラのストレス発散という名目で尽くしたがりされてしまうのであろう。


「覚悟はしてる。つーか、時間あるしちょっと知恵貸してくれ。去年の文化祭でどの程度被りが許容されていたかわかるか?」


「まかせてっ、それなら……」


「ちょっといいかしら?」


 ノートを広げた二人の元に愛華が近づいてきた。銀次が目を細め、ソラが銀次の背に隠れ……ようとして足を止めて横に並ぶ。銀次はニヤリと笑って愛華に向き直った。


「何だ? 文化祭についてか?」


「ある意味そうね。お願いがあるのはソラにだけど」


「……ボク?」


 銀次が眉間に皺を寄せる。


「文化祭関係は俺が出るって話がついたと思ったがな。ソラを当てにするのはお角違いだぜ」


「これは別件よ。美術部についてだからね」


「「美術部?」」


 二人の声がハモる。


「そう、美術部。幽霊部員を除けば部員は私と貴方だけでしょう。部の方でも出し物が必要なのよ」


 二人が所属する美術部は本来この学校にはなかったもので、愛華がコンクールに参加する為にだけに入学と同時に作ったものだ。なので幽霊部員を除けば愛華とソラしか美術部員はいない。実体はない美術部だが、それでも文化部として登録している以上文化祭には何らかの形で参加が必要らしい。


「私は副会長として文化祭の運営を執行しなければならないし、演劇部から助っ人も頼まれていて時間がないの。貴女、委員会も桃井君にやってもらって暇でしょ? 一応は美術部なんだから何か出し物を考えなさい」


 周囲にには聞こえないように、ソラに顔を近づけて言う愛華に銀次は青筋を浮かべる。


「お前が利用する為だけに部を使っといて、都合のいい時だけソラに任せるのは違うんじゃねぇか?」


 銀次が、愛華に食って掛かろうとするがソラがそれを手で静止する。


「わかった。いいよ、愛華ちゃん。文化祭での美術部の出し物はボクがする。何するかは後で連絡するね」


「そう……わかればいいのよ」


 ソラを一瞥して愛華は踵を返して女子達の元へと戻っていった。

 その日の帰り道。商店街で自転車を押しながら仏頂面の銀次がソラに問いかける。


「せっかく、四季の無茶振りから離れたってのにあんな話受けて良かったのか?」


「ボクを守って委員会に入ってもらった銀次には悪いと思ってる……けどっ!」


 ソラはしばらく宙を見上げた後、銀次の腕に抱き着く。


「うわっと!?」


 バランスを崩して銀次が立ち止まってソラを見る。


「今日の委員会の会議で銀次と愛華ちゃんを見て思ったんだ」


 自分には決してできない、人前で堂々と指示を出す愛華とその横にいる銀次。浮気なんてこれっぽっちも疑ってはいないけれど、それでも二人が並ぶのを見ると胸が苦しくなった。愛華ちゃんを見て羨ましいと思うことも嫉妬することもずいぶんなかったはずなのに、今は悔しいと思った。銀次の横には自分が立ちたかったから。

 

 銀次を好きになって自分は変わったと思う。でも、変わったじゃ足りない。

 自分の意思で変わりたいと今は思う。愛華ちゃんから守られてばかりじゃ銀次の横に胸を張って立てないから。


「美術部の出し物は今までのボクに出来なかったことをするっ!」


 ソラの宣言を受けて銀次はしばらくポカーンと口を開けて、次に笑い始めた。


「そりゃいい、何すんのか楽しみにしてるぜ」


「うん、銀次も愛華ちゃんもギャフンと言わせるから」


「ギャフンって……また古い言葉が出てきたな」


「いいの、ギャフンって感じなの。というか銀次、言っとくけど今日は尽くしたがり忘れてないからね。ぎゅーもしっかりするからね」


 見かけだけ怒りながら、腕に抱き着くソラに銀次は微かに体重を預けてバランスをとる。


「だからそれ、罰になってないからな」


「いいのっ!」


 いつの間にか自分を支えてくれるようになった彼女は、怒ったふりの表情を引っ込めて晴れやかにこちらに微笑んだのだった。

次回は多分月曜日更新です!


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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
虎の尾を踏み龍の逆鱗に触れる 相手にされない事をプライドが 許さなかったのでしょうがこれは••• まぁそれだけじゃなく周りの期待が 暴走させているんでしょうが このままでは••• もう落とし所も見つか…
知らずにどんどんソラのパワーアップイベントを提供してる愛華の姿を見ると憐れでね……
愛華の行動が藪を突いて地雷を作動させてる様にしか見えない
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