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映画館デート

 しばらく商店街やその周囲の路地を見て回った二人は、時間を見て映画館へと向かう。


「古い映画館とは聞いていたけど……」


「記憶よりもボロいな。けど盛況みたいだぜ」

 

 蔦だらけの壁には公演中の映画のポスターが張られ、ガラス張りの開き戸の奥からは騒がしい声も聞こえる。街の小さな映画館と言う感じであり、上映室は一つだけのようだ。映画館から道の先には大きな建物も見えるのにここだけは世界から切り離されたようだった。


「凄く、凄く、いい場所だね。絵になるよ」


「そう言うと思った。暑いし、さっさと入ろうぜ」


 中に入ると受付に人が並んでいて、ソラは列に並びながら周囲をキョロキョロと見渡す。

 受付の横には喫煙室とやけに大きな自販機のコーナーがあり、煙草の匂いはせずどこからかキャラメルの臭いがしてくる。天井を見上げるとそこだけはやけに新しい業務用のエアコンが設置されていた。列はすぐに進んで二人の番となる。


「高校生二人で」


「あっ、お金ならボクが……」


 観察に気を取られていたソラが財布を出す前に銀次がさっさと支払いを済ませる。


「ここは譲らん。ほら、ソラの分」


 ピンク色の厚紙のチケットを受け取ったソラはしげしげとそれを眺めて、銀次を見上げる。


「あ、ありがと。手触りのいい紙だね。すごくしっかりしてる」


「持って帰る人も多いらしいぜ。喉乾いたし、ジュースでも買っとくか。ソラも飲むだろ?」


「うん」


 喫煙所の奥に売店があり、そこでは客が自販機で買っていたジュースを窓口のおばちゃんに渡していた。何をやっているのか不思議そうに見ているソラを見て笑いながら銀次がソラを呼ぶ。


「ソラ、こっちだ」


 売店前の自販機は紙コップ限定でかなり大きなサイズの物を売っていた。客はそれを持ってカウンターにいって蓋とストローを貰っているようだ。


「どういうシステムなの?」


「ここ映画館は飲み物はここの自販機のみなんだ。上映中に飲む場合はこぼさないように追加で蓋とストローをカウンターまで行って買うんだよ。ちなみに、上映室では食べ物は厳禁な」


「へぇ……え、すごくキャラメルの香りがするけど? ポップコーンがあるのかと思ったよ」


「あるぞ。ここのキャラメルポップコーンは旨いんだ。ただし、上映中は食べれん。従業員がいないから掃除するのが手間なんだろ。映画を見終わってから買う客が多いな。人ごみは大丈夫か?」


「全然平気。帰り楽しみにしとくね」


 複数のスクリーンがある大手の映画館と違って一つのスクリーンしかない映画館では掃除の手間もできるだけ少ない方がいいのだろう。周りを見れば特にそんな注意書きや説明をしているものはないのに客達は特に迷うこともなく自販機に並んでいる。

 

 この場所にはここにしかない規則や文化があって、説明もないのに皆それを当たり前のように受け入れている。まるで異国でも来たみたいだ。自販機の列が進み、前に行くと三つの大きなボタンが並んでいた。


「オレンジジュース、アイスコーヒー、コーラ。ラインナップは三つなんだね」


「俺はコーラで」


「ボクはオレンジジュースかな」

 

 一杯500円らしく、当然電子決済などはできない。反応の悪いボタンを押すと500mlはありそうな大き目の紙コップにジュースが注がれて出てくる。ちなみによく冷えてはいるが氷は入っていないようだ。


「これを持ってカウンターへ行くわけだ。学生は蓋とストロー無料なんだぜ」


「へぇ」


 カウンターに張られている張り紙を見ると一般50円と書かれていた。二人がカウンターの上に紙コップを置くと、おばちゃんが慣れた手つきで蓋をしてくれた。ジュースを持って売店を出て今度は階段で地下へ向かう。


「地下なんだ。かっこいい!」


 地下一階へ行くと、入場口の前に初老の男性が座りながらチケットをもぎり鋏で切り抜いている。

 ショッピングモールとは全然違うレトロな雰囲気にすっかり興奮したソラは緊張しながらピンクのチケットを差し出す。パチンと音がして、チケットの端が切り抜かれる。銀次も同じようにチケットを切ってもらい入場口を入ると興奮した様子のソラが振り返る。


「なにあれ! 初めてしてもらった。見てよ銀次、綺麗に切り抜かれてる。確かにこれはチケットを持って帰る人の気持ちわかる! こんないい映画館があるなら絶対通うよ!」


 周囲に人がいるのであくまで小声だが、一連の入場の流れがソラに刺さったらしく頬を真っ赤にして興奮した様子でチケットを見せてくる。


「最新の映画はやってないし不便と言えば不便なんだが、まぁソラの言いたいことはわかる。かっこいいよな」


「うん! ボクはここ気に入ったね」


 上映室まで行くと、ここまで来てやっと禁煙や場内食べ物禁止の説明書きが扉に書いてあった。中に入ると一段と冷房が効いていて独特な匂いがする。スクリーンはショッピングモールの物よりはやや小さいが上映室も狭いのでどこか迫力を感じさせた。チケットには席順などは書いておらず早い者勝ちで座れるようだ。中腹の席に並んで座ってひじ掛けについている穴に紙コップを入れる。周囲はがやがやと騒がしく、上映までは話していても良さそうだ。


「この雰囲気でホラーって、似合わないね」


「いやいや、古いからいいじゃねぇか」


「えー、ロマンス系とかしっとりした映画の方が絶対似合うよ」


「じゃあ、それも見に来ようぜ」


「うん、楽しみ」


 時間が来ると、ブザーが鳴り場内が静まる。


『まもなく上映いたします。携帯電話の電源はお切りください』


 老齢の男性の声がアナウンスで流れる。先程のもぎりのお爺さんの声だろうか?

 明かりが落とされ、上映が始まる。CM等はなくすぐに映画が上映され、それが物語への没入感を深めていくようだった。銀次の言う通りこの映画館とホラー映画の相性はいいのかもしれない。

 薄暗い森で超常的な力を持ったシリアルキラーが迷い込んだ人を追い詰めていくという内容のホラーは低予算なのだろうがしっかりと工夫され恐怖が演出されていた。狭い場内では周囲の人の息を飲む音も聞こえてそれにつられてソラも緊張してくる。


 ボクってホラー耐性あるつもりだったけど、結構怖いかも。


 と思いながら横を見ると、すっかり映画に見入っている銀次は目を細めたり首を竦めたりとソラ以上に怖がっていた。自分が感じていた怖さを忘れて銀次をジっと見ているとそれに気づいた銀次がソラの耳に顔を寄せる。


「何だよ?」


「結構怖いね」


「……まぁまぁだな」


 強がる銀次を見てクスクスと笑ったソラはその手を優しく握って、肩に顔を乗せる。

 ラブストーリを見る時にすれば絵になったかもしれないが、これはこれでよき。とスプラッタなシーンでギュっと手を握ったり、握られたりしながら二人は映画を楽しんだのだった。


 上映が終わり、帰りに売店でキャラメルポップコーンを買った二人は商店街に出る。


「いやー、想像よりビビったぜ」


「だよね。なんていうの、あの映画館の雰囲気とマッチしてたよ」


「夢に出てこなけりゃいいんだけどな……」


「一緒に寝てあげようか?」


 ニヤニヤと銀次を見上げるソラ。自分もそれなりにビビっていたが、普段頼りになる銀次が怖がっていたことでからかっているようだ。


「……また今度な」


 なんて軽口を叩きながら商店街へ戻る。折角なので来た時とは別の道で駅方向へ進んでいくとアーケード街の端でソラが何かを見つけたらしく、銀次の手を引いた。


「銀次、お社があるよ」

 

 それは小さなお社で中には座布団が敷かれその上に小さな弁天様の像が安置されていた。


「この商店街の守り神である。弁天様を祀っているらしいな。ええと、技芸上達、縁結びの御利益があるってよ。特に意識したことなかったな」


 横にある案内の看板を銀次が読み上げる。


「おぉ、まさにボク達にぴったりじゃない? ハッ……銀次ってばここまで考えて……」


「いや、偶然だ。初めて知ったぜ」


「ならなおさら凄いよ。ほら一緒にお参りしよっ」


 二人でお賽銭箱に小銭入れて、手を合わせる。ソラがちらりと横を見ると銀次は目を閉じて真剣に拝んでいて、なんだか自分が不真面目な気になってしまう。


 銀次、何をお祈りしているんだろ。真剣な顔だし大事なお願いなのかな?……なら、弁天様。銀次のお願いを叶えてあげてください。


 ムムム、と自分も真剣に拝むソラ。一しきり拝んで二人でお社から歩き出す。

 

「ソラ、やけに真面目に拝んでいたけど、何お願いしてたんだ?」


「え? いや、銀次こそっ。凄く真剣だったけど、何お願いしてたのさ?」


 相手のことを祈っていたと、自分のお願いを言うの少し恥ずかしい。


「俺か? 折角の芸の神様なんだからソラの絵を色んな人に見てもらって正しく評価してもらえるように祈ったんだよ。俺はソラの絵が好きだからな。きっと他にも好きになってくれる人は多いと思うんだ。前にもらったバイクの絵とかも大事に持ってるんだぜ。うちは哲也と同じ部屋だからなんだか飾るの恥ずかしくてよ。でも、いつかいい額を見つけたら部屋の目立つ位置に飾ろうと思うんだ」

 

 照れくさそうに鼻を掻く銀次を見て、ソラは鼻の奥がツンと痺れる。

 モンキー125。ソラが銀次に初めて贈った絵だった。


「銀次……」


「それで、ソラの願い事は何だったんだよ?」


「……う、ぐ。ひ、秘密」


「ずりー、ってどうした?」


 キャスケット帽のツバを掴んで顔を隠す。


「だ、だって急にそんなこと言うから。お化粧が、崩れちゃう……うぅ”~銀次のバカ~大好き~」


 ぐずぐずのソラである。それを見て大いに焦る銀次。


「泣くようなこと言ったか!?」


「言った……もう、うぅ、早く帰ろ」


 帽子を目深にかぶり直しながら銀次の腕を引き寄せる。


「スマン、怒らせたか?」


 心配そうにのぞき込む銀次に周囲を見渡して誰も聞いていないことを確かめてから、耳元に手を当てて囁く。


「じゃなくて……嬉しくて、我慢できなくて、銀次を抱きしめたい」


「……」


 こうして、早目に商店街デートを切り上げたソラは一線こそ越えなかったが、思う存分銀次に甘えたのだった。

次回は多分月曜日更新です!


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この作品の好きな所の一つが 細かな日常の描写シーンなんですよね。 レトロ映画館の匂いまで伝わりそうな しっとりデート回良いですねぇ••• 打ち上げ花火のようなドタバタラブコメと 線香花火のように切ない…
あまーーーーーい!(大声) 最近はあまり時間が割けなくて読めていなかったのですが、一気に読むと糖分の過剰摂取になりますねこの作品。この二人のデート中は領域展開でもしてるのかってくらいピンクオーラ撒き散…
商店街の皆様「あらあら初々しいね!」 弁財天「あらあら初々しいね!」 って十年後もやってる気がする。
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