最初の一歩
「お、お待たせ」
「やっほー、ごめんねー」
トイレ前の通路から二人が戻って来る。机にはすでにクレープが置かれており、銀次は頬杖をついて二人を待っていたようだ。
「……クレープ来てんぞ。……先に喰っちまう所だったぜ」
フォークとナイフでハンバーグクレープを切り分ける銀次。そしてマジマジとそれを見つめるソラ。
「それ、クレープの意味あるの?」
「メニューにこう食えって書いてあんだよ」
メニューを見ると、総菜クレープは基本切り分けるスタイルのようだ。
「納得いかない……」
「私は普通に持って食べるよー。うん、カロリーの味がするー」
「ハム……」
豪快に食べる美鈴を見て、銀次がソラに目線を送り、表情と目線で会話が始まる。
『これ食ったら俺は帰るから』
『ダメ、ここにいて』
『照れんなって、お前なら大丈夫だ』
『ちがうのー』
みたいな内容だった。意外と伝わるもんである。そして、クレープを三分の一ほど食べた美鈴が二人の間に切り込む。
「ところでさー。銀次ってソラの友達なんだよね」
「そうだが?」
キラリと美鈴の眼が光る。
「じゃあ、ソラの良い所を言ってよ」
ギラリと銀次の眼が光る。
「望むところだ。ただ、俺だけ言うのもおもしろくねぇ。スズと俺で言い合いってのはどうだ」
ナイスアシストをしたと一人頷く銀次。クレープをハムハムしながら展開について行けないソラは混乱している。
「へぇ、いいじゃん。言っとくけど同中のあたしの方が色々知っているし」
これで銀次がどんな奴か、見定めると口元を猫のようにω字にしてソラにアイコンタクトを来る美鈴。ソラの混乱は加速した。
「俺も入学式からソラを見ていたからな。まずは俺からだ、ソラは努力家だ。苦手な分野にも取り組む姿勢がある。朝の挨拶とかな」
「次はあたし、ソラはねぇ。小さくて可愛い」
「女子らしい視点だな。ソラは料理が上手い」
「グッ、つまりソラの料理を食べたことがあるわけ!? やるじゃない、ソラはねぇ手とか爪とかめっちゃ手入れしてるからっ!」
「わひっ、そりゃ、絵とか描くと荒れるし……」
「そうなのか。俺の番だな、ソラは意外と胸筋がある」
「へっ?」
ポカーンとする美鈴と顔を真っ赤にするソラ。
「うにゃあああああ、銀次、な、何を!」
「この前、自転車の二人乗りをした時だが、密着した時、見かけのわりには胸板あったからな」
ソラを見て男らしさアピールしときました、みたいな表情を送る銀次を見て美鈴は生唾を飲み込む。
「ゴク……ソラ、やってんのね」
「やってない”!! 不可抗力っ!!」
涙目で手をブンブンと振って否定するソラだったが、銀次と美鈴は止まることなくソラの良い所を言い合い続ける。そしてひとしきり言い終えた後。
二人は固く握手をした。
「やるじゃない銀次」
「お前もなスズ、IINE交換しようぜ」
「いいわよ。今度は皆で朝から遊びましょう」
二人の間には友情が芽生えていた。その横でソラは湯気を出して瀕死の様相を呈す。
「もぅ……やめてよぅ……」
世に褒め殺しのという言葉があることの意味をしかとわからされていた。ある意味今日一番のダメージを負っていた。
二人の勝負に決着がつき、それなりの時間滞在したので、クレープ屋をでるとすっかり夕暮れとなっていた。
「じゃあ、あたしはバスだからここでおわかれだね。ソラ、連絡するから返信してよね」
「う、うん。わかった」
別れ際、腕を巻き付けて、体を寄せた美鈴が銀次に聞こえないようにソラに囁く。
「ちょっと馬鹿だけど、いい奴じゃん。ガンバってね」
友達のお墨付きは、強くソラの背中を押す。
臆病な少女のマイナスからの一歩は、本人が想うより大きく、
「うん、がんばるっ!」
可愛らしい笑顔で踏み出されるのだった。
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ジャンル違いではありますが、ハイファンタジーでも連載しております。
作者自身は面白いものを書いていると本気で信じています。下記にリンクを張っていますので、もしよろしければ読んでいただけたら嬉しいです。
『奴隷に鍛えられる異世界』
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