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作戦の欠陥

 坂道をせり上がって来る風はまだ暑いが、夏一番の苛烈さはなくどこか優しさを思わせるような心地の良い風だった。

 職員室でのやり取りを終えて帰路に着いた銀次とソラは二人乗りで坂道を降りていく。


「今日は疲れたな……まっ、いい感じに作戦は成功したと思うぜ」


「そうだね……でも、やっぱり……」


 ソラは荷台に横乗りになって銀次に抱き着く。誰かに見られているかもしれないが、誰からも話しかけられないこの時間がとても大事だと思うのだ。

 今日は桃井亭での晩御飯である。自転車を止めて、横開きの扉をガラガラと音をさせながら開ける。哲也はまだ帰ってきていないようだ。


「今日はお好み焼きですっ!」


「おぉ」


 手洗いしてエプロンを取り付けて料理を始める。出汁を多めに入れたタネにキャベツともやしをさっくりと入れる。どうやら関西風の作り方のようだ。銀次もお好み焼きは良く作るのだが、ソラの手によって作られるそれはより生地がふんわりとしていた。何が違うのかと横で確かめようとする銀次をソラはニヘラと笑いながら見つめる。


「……ただいま」


 玄関からささやかな挨拶が聞こえ哲也が台所を覗く。


「テツ君おかえり。もう夕ご飯できるよ」

 

 前菜にヤマイモのサラダを運びながら、声をかけるソラ。

 哲也が部屋へ荷物を置いて居間へ戻るとすでに準備はできていた。


「ちょうど準備終わったところだ座れよ」


「……うっす。いつもごめん。旨そう」


「いや、二日に一回だし。ささ、食べてよ。おかわりも用意しておくね。一枚目は和風で二枚目はキムチお好み焼きにします」


 台所へ戻る。ソラの後ろ姿を見て哲也は銀次をジロリと見る。


「……なんだよ?」


「ソラ先輩。なんかいつもと違うような……」


「そうか。今日は色々あったからな」


 ソラとしては乗り越えたと言っても、一学期のことを教師に言ったことはストレスだったかもしれないと銀次は己の迂闊さに心の中で舌打ちをする。


「兄貴、今日は遅めに帰って来ても大丈夫だよ」


「いらねぇ気回すな。……ありがとな。ちっと、帰るの遅くなるかもな」


「……明日普通に学校だし、朝帰りは止めときなよ」


「しねぇよ!」


「何話しているの?」


 帰ってきたソラに曖昧に返事をするしかできない銀次なのだった。

 食事が終わると、話もそこそこにソラを家に送る。一階の扉をソラが開けると無言で銀人の手を引っ張り中に引き入れると後ろ手でカギをしめる。


「ソラ?」


「……こっち」


 そのまま腕を引っ張って階段を上っ靴を脱ぎ捨てて、銀次をソファーに座らせたソラは正面から抱き着いてキスをする。


「むぶぅ!」


「……ぷはっ」


 混乱する銀次を置いて、顔を離すソラ。前髪から覗く目は艶やかに濡れ、その表情はゾッとするほどに色香に満ちている。プチプチとブラウスのボタンを外して胸元を緩め無言でもう一度キス。ネイビーのスポーツブラが目の端に映る。いつにない強い調子に蹴落とされそうになる銀次だったが、ソラの頭を撫でてから肩を持ってなんとか距離を作る。


「落ち着け、辛かったな」


 こうなるのはイジメのことを話したからだ。そう思った銀次は声をかけるのだが。

 目が据わったソラは銀次の頭をガシっと掴んだ。


「そうだよ……学校であんなことされたら、我慢できなくなるじゃん!!」


「…………は?」


「人前で一緒にご飯とか、好きって言うとか、ドッキドキだったのに。先生に対してもボクの為に色々してくれていて……うぅ、我慢しろってのが無理じゃない!?」


 どうやら、いつもと違う形でイチャついたことで変にボルテージが高まった所に教師とやり取りをする銀次を見て、理性のタガがいつもよりひどく壊れてしまったらしい。


「一応聞いておくが、一学期の辛かったこと思い出したとか、そういうのは無かったのか?」


 銀次の問いかけに対し、ソラは顔を真っ赤にしたままペタンと銀次にもたれかかる。


「あるよ。思い出すというか、ボクは忘れられないし。でもね銀次、過去は変えられなくても、今のボクは変わり続けているんだ。前は怖くてただ下を向いていたけど、今はちゃんと向き合える。そうしたら、昔のことも含めてもちっとも怖くないんだ。今は、銀次と一緒にやりたいことが沢山あって、あの人達に構っている時間がもったいないもん」


 ガジガジと鎖骨を甘噛みするソラ。


「お前、俺が思っているよりも成長しているのな」


 ソラの柔らかな感触にどうするか必死に頭を回す銀次である。


「というか、銀次が日々成長しているから追いつくのに精いっぱいって感じだし」


「そんな気しないけどな。あと、ソラ……そろそろ……」


 引っ付かれすぎて、自分にもソラの熱が伝わりそうになる。


「もうちょい……そもそも銀次は最近、愛華ちゃんとの絡みが多いと思う。これからも増えるなら彼女であるボクも大事にするべきだよ」


「……一理ある。そういや最近は芸術祭とか文化祭委員とかでバタバタしてたもんな。今度の土日でもデートすっか。俺もソラとのんびりしたくなった」


 最近は美術館デートをしたが、付き合っていて二人の時間もあるのだからデートなんて何回やってもいい。


「やった。楽しみにしとくね……じゃあ、このままする?」


 先程までの勢いに流された感じではなく、少し悪戯心を覗かせて囁く。ちなみにここで銀次が冗談でも是と言うとどうなるかは察するところである。


「バッカ、先生に注意されたばかりだろ」


 銀次にデコをつんと指先で押され、唇を尖らせるソラ。


「むぅ、じゃあせめてもう一回……」


 ぎゅーと抱き着かれながら銀次は一つの答えに至った。

 イチャラブ大作戦……これを続けるとソラが暴走して己が耐えられなくなると。

 身に染みて作戦の不備を実感した銀次は翌日からいつもより少しだけソラとイチャツク程度の関わりに留め、学校での被害は最小限に抑えられるのであった。

次回は多分月曜日更新です!


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― 新着の感想 ―
まぁこのまま続ければ周りも危なかったですし 妥当な対応かと。 しかし良くも悪くも種は蒔かれた訳ですから これからですね。 しかし敵が蒔いた種は自分達を苦しめる 悪意の花を咲かせそうですが••• 学校が…
ドロッドロに愛が煮詰められてて草。 いや、確かにこんな状態で愛華達を気にする時間なんて浪費でしかないよなぁ…。 聞いてるか愛華、本物からしたら他人を下げたところで自分が上がるわけじゃないし時間と労力…
やはり同じ卓を囲み、同じ釜の飯を幾度となく食べてるソラと銀次は絆がより深まっていってますねぇ。誰かと一緒にする食事は良いものだし、それに加えて今回のイチャイチャが絡めば絆の深まりはより促進されるだろう…
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