苦味走る大人の味
お互いに弁当を食べさせ合うというなかなかにハードルが高いことを二人であったが、心持ちは晴れやかだった。
「恥ずかしかったけど、まぁ、いつもやっていることだし。銀次がボクのだってアピールできて良かったよ」
お重を片付けながら、ムンと胸を張るソラ。
ちなみに二人のせいで昼食へ盛大に出遅れた男子達はまだ帰ってきていない。
「ソラの弁当はどこで食っても旨いからな。ただ、周りがうるさすぎだぜ」
「たまにはでいいんじゃない?」
「それくらいでいいか。まっ、これくらいやりゃ、四季の奴も変な事できないだろ」
小声でそう呟く銀次にソラが顔を寄せる。
「……大作戦のことはわかっているけど、ボクと一緒にいる時に他の女の子のことを考えるのはどうなのさ」
プクーと頬を膨らませるソラを見て、銀次は噴き出すように笑う。
「そりゃそうだ。悪い、せっかく彼女との飯だもんな」
「エヘヘ、わかれば良し。まだ時間あるし、折角だから次の授業の予習しようよ」
「それもいいが、こっちもやらんとな」
銀次が取り出したのは、三つ折りにされたパンフレットだった。
「なにそれ?」
「去年の文化祭のパンフレットだ。昨日、家で印刷した」
「へぇ、去年の資料なら雑用する時に読んだから書き出したげようか?」
「それ、どんだけあるんだよ。どの学年が何をしていたくらいは把握していないとな」
「わかってたけど、銀次って本当に真面目だよね……」
「別に普通だろ。おっ、たこ焼きやってるぞ」
「おぉ、一人タコパの達人であるボクとしては見過ごせないね」
調理が簡単で文量も調整しやすい。その日の内であれば作り置きも味編も容易なたこ焼きをソラは割と作っていたりしている。一人でたこ焼きを作っているソラを想像して微妙な顔になった銀次は、ソラの指先をニギニギと摘まむ。
「文化祭でなら、自分でするよりも二人で回るのもいいかもな。タコパなら二人でいつでもできるぜ」
「……もしかして、励ましてくれてるの?」
指先を握り返しすソラ。
「そんなんじゃねーよ。ただの事実だ。他のものも見てみようぜ。ホットドックもあるみたいだぜ」
照れくさくてそっぽを向く銀次にソラは顔を寄せて二人でパンフレットを見下ろす。当然ソラはこのパンフレットのことは頭に入っているのだが。
「原価が安くて準備が簡単なのがいいよね」
「やるならとことんだっ!」
二人で読むのが楽しいソラなのだった。そんな感じに……。
「「「ぬぅわああああああああああああああああ」」」
「またかよっ! うるさいぞお前等!」
食事から帰って来た男子達にダメージを与え得る二人なのだった。
その後も順調にイチャラブを続けて、放課後になる。帰り支度をする銀次の元へ愛華が歩み寄って来た。それを見たソラが急いで銀次の横へ並ぶ。
「何だ?」
「何って、文化祭委員会の事前オリエンテーションよ。今週の金曜日で放課後から一時間だから。忘れないようにね。言っとくけど、その場にその子を連れたらダメよ」
「わかった。他に知っておくべきことや、読むべき資料はあるか?」
銀次の言葉に愛華は眉を顰める。
「貴方、本当に委員をやる気なの?」
銀次が委員になった経緯は半ば愛華による強引なもので、予想以上にやる気の銀次に愛華は疑問を持ったのだが、銀次は質問の意図がわからないとでも言うように返答する。
「任されたからには、恥ずかしくないように仕事をする。当然だろ」
「……そう。詳しいことはソラにでも聞けばいいでしょ。生徒会としての困りごとは……また伝えるわ」
「わかった。じゃあ、金曜の放課後はよろしく」
「私は、生徒会として前に出るから、貴方は一人だけどね」
「あぁ、クラスの方は俺に任せてそっちに集中してくれ」
「……行くわよ、澪」
「はい、愛華様」
澪が去り際に銀次に対してなにやら口をモゴモゴとさせていたが、すぐに愛華に呼ばれてそちらへ行く。
「なんだ葉月の奴?」
「多分、銀次が顔の割に真面目だからビックリしたんだよ」
「……そろそろ泣くぞ」
「冗談だってば、そもそも最近の銀次はかっこよすぎるから少しくらい怖くていいと思う。さっきのやり取りだってかっこいい……うぅ、ボクの彼氏がかっこよすぎる問題」
「どんな問題だよ。まぁ、ソラがいいならいいけどよ。帰り支度しようぜ。パンフレット見てたら粉もの食べたくなった」
「いいね……あれ?」
まるで愛華が立ち去るのを待っていたかのように、担任が近づいてきた。
「桃井、それと髙城もちょっといいか?」
銀次とソラは顔を見合わせて、教師に向き直るのだった。
二人は職員室横の指導室へ通される。
「あー、なんだ。どうだ最近は?」
「なんすかそれ。俺達、なんで呼ばれたんすかね?」
「……」
ソラは警戒心を強めて、だんまりである。
「あー、まぁ、あれだ。一部の生徒から……二人が不純な異性交流をしているとか意見があってな」
「なっ、そんなわけっ!」
「ソラ、大丈夫だから座ってくれ」
ソラが立ち上がる。むしろして欲しい位なのに、銀次は全然していないがその辺を言うわけにもいかない。銀次は落ち着いてソラを制す。
「そういう風に言う奴がいるかもとは思ってました。大方クラスの女子でしょう?」
「ほう。今日一日、やけに騒がしかったようだがそれと関係あるのか? 先生としては、学校では少し控えてくれれば特に何も言わんぞ」
「そう言うわけにもいかないんすよ。ソラ……話していいか?」
「うん、いいよ。銀次に任せる」
銀次をまっすぐに見てソラは応える。
「こいつ、一学期の男装していた時分。『ちょっと色々』あったんすよ」
銀次の言葉を聞いて、教師が苦虫を噛み潰したような顔をし。眉間を揉んだ。
「……イジメか?」
「そこまではっきりとは言わないっす。少なくとも俺が学校でソラの近くにいる意味としては十分じゃないっすか?」
「現状でもアウトだ。イジメを匂わせることがあっただけでも大人は動かんといけないんだよ。年の割に聡いお前のことだ。どうせ証拠もあるんだろ。思えば男装を辞めた時から少しクラスの様子がおかしかったからな」
「ノーコメントっす。俺達は不純なことしてないし、校則も多分セーフだと思います。一部の生徒達ってのが誰なのか見当は付きますけど。こっちの言い分の方が筋が通りませんか?」
「よくないわアホ。大人相手に変な交渉するんじゃない。どこでそんなこと習ったんだか……髙城」
「は、はいっ」
「少しでも何かあったら子供だけで解決しようとせずに大人を頼ればいい。桃井に遠慮して話せないことはないか? この場で言いづらいなら、学校のホームページからメールを送ってくれてもいい」
ガタイの良い男性教諭としては最大限に配慮した優しい声音で尋ねる。
「ないです。銀次に遠慮していることないんで。今は特に何もされていないですし、銀次と一緒にいるならボクは大丈夫です」
ソラの表情を見て、担任はため息をついた。それは緊張と安堵の混じった複雑なものだ。
「そうか……まぁ、普段からあれだけ……あれだけ仲が良ければそんなもんはないか。お前等いつもいい顔してるもんな。まったく、少し控えるように注意しようとしただけでこうなるとは、一応学年主任と教頭には流れを説明しておく。保護者さんにも電話するぞ」
「「……」」
二人の脳内にサムズアップする雅臣が浮かび上がる。
「二人共何だその顔は。例え、はっきりしていなくてもやるべきことはあるんだよっ! 報告、連絡、相談は社会人の基本だっ!」
「まぁ、いいんじゃないっすかね」
愛華とソラの関係性に関して知らなかった様子の雅臣ではあるが、喫茶店での一件での会話を通しある程度察しているだろうと銀次は考えていた。
「叔父さんだしね」
「……もう帰っていいぞ。あと桃井、くれぐれもわかってるな。お前等なんかまだ高校一年の子供だ。今は大人を頼ることを学べばいいんだからな。まぁ、お前等が一緒にいたほうがいいってのはある程度理解したつもりだ。だが、バランスも考えろよ」
「うっす。今日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
「気をつけて帰れ」
二人が退室した後、胃薬を取り出して口に入れた担任は職員室に戻り、学校に多額の寄付をしている雅臣へ連絡をした。教頭や学年主任に先に言わなかったのは、体裁を気にする上司達が雅臣の機嫌を損なうことを恐れて連絡そのものを止めてくる可能性を考慮したからである。無論、内容としては銀次の話からあったかもしれないと言う可能性しか話せないのだが。意外なことに雅臣はすぐに電話に出て対応してくれた。担任から話を聞いた雅臣は。
『話してくださってありがとうございます。二人の仲が縮まっているようで何より、ソラのことはナイト君に任せて大丈夫。それでは仕事中なので失礼』
「あ、ちょ……」
とにべもなく切られてしまう。
「桃井のやつ、保護者にも手を回してんのか。いや、相手は天下の四季グループだぞ。まさかな……さて、残りを行ってくるか」
追加の胃薬をボリボリと齧りつつコーヒーで流し込んだ担任は学年主任の元へ向かったのだった。
次回は多分月曜日更新です!
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