昼休みの惨劇
朝の衝撃が冷めやらぬ状態で教室へ辿りついた二人。いつも通りに銀次の机にソラがへばりつく。
スカートを織り込みながら座り込み、顔の半分を机から出す。どうやら校門での宣言について今になってちょっと恥ずかしくなってきてしまったようだ。
「なんか猫みたいになってんぞ」
「イチャイチャってどの程度おけなの?」
「……まぁ、先生に怒られない程度じゃないか」
「膝の上に座るとか?」
ズゴゴとソラから圧が飛んでくる。銀次は顎に手を当ててしばし思案してからカッと目を見開く。
「ギリ、セーフっ」
「アウトだぁああああああああああああああ!」
スパンと銀次の後頭部にハリセンが叩きつけられる。息も絶え絶えの村上がそのまま倒れ込む。
「痛った。村上、そんなもん学校に持ってくんなよ」
「おはよう村上君」
机から指先を出して挨拶をするソラ。村上がガバリと身体を起こす。
「お前に常識を説かれたくねぇ! あっ、髙城ちゃんは普通におはよう。見ろ銀次、ちょっと照れて顔を隠しているソラちゃんの可愛さに廊下で人が倒れてるぞ」
指さした先では、止まるんじゃねぇぞの姿勢で男子生徒数人が倒れている。
「え、あの騒ぎってボクのせいなの?」
「流石に大げさじゃねぇか?」
揃って首を捻る二人に村上の後ろから田中も顔を突き出す。
「そんで、急にどうしたんだお二人さん。朝からすごいことになってんな」
「いやな。昨日四季と連絡先交換とかで変な騒ぎになったろ? だから周りには俺がちゃんとソラの彼氏であると示そうと思ってな」
「銀次はボクの彼氏だってちゃんとアピールしないとね」
立ち上がって、むふーと鼻息荒く宣言するソラである。
「……まぁ、銀次のことを好きな髙城ちゃんが一番可愛いのはクラスの男子なら知っているけどよ」
「え? これ、俺達はずっと見せつけられるのか? コーヒー買ってくるわ」
覚悟を決めた村上と田中。他クラスの男子もお互いに見つめ合って頷いていた。
男子達は馬鹿やっているが、女子達の反応は少し違う。愛華が不機嫌そうに教室へ入って来るとそちらへ移動したり、愛華と距離を置いて集まる者もいた。ヒソヒソと二人を見て何かを言っているが、一学期から言われ続けた二人はもはや何も気にせず授業について会話している。
そうして時間が進み昼休みが始まると、デンと銀次の机にお重が置かれる。人前だと落ち着かないが、今日くらいは教室で食べてもいいかという感じである。
いつも持ってきているソラのお重が気になっていたクラスメイト達が遠くで見守る中。蓋が外される。
「今日はチキン南蛮とトマトサラダだよ」
「旨そうだ」
「「「おぉ~」」」
お重に敷き詰められた千切りキャベツ、その上にデンと置かれたチキン南蛮、二段目は海苔を撒いたおにぎりとナスの漬物、三段目にトマトサラダである。別容器から自家製の玉ねぎたっぷりのタルタルがチキン南蛮にかけられると、周囲から喉を鳴らす音が聞こえる。ちなみにギャラリーの一部は廊下にいるのでかなり視線が集まっているが、愛華への対抗心の燃えるソラはやる気である。
「ぎ、銀次。今、お前に一生に一度のお願いがある」
他クラスからきた斎藤が目を血走らせて銀次の肩を持つが、銀次はギロリと睨み返す。
「やらんぞ。ソラが俺の為に作ってくれた飯だからな」
「ふざけんなテメェ!」「どんな徳積めばこんなことが許されんだよ!」「髙城ちゃん……ガチで料理上手だったんだ」「野球部は手作りカレー食べたらしいぞ。クッソ美味かったらしい」「は? 野球部許せんが?」「銀次、お前は俺達をどうしたいんだよ!」「俺達は法的手段に出る準備がある!」「おい、声が大きいぞ。髙城ちゃんが怖がるだろうが!」「だけどよっ、こんな、こんなことが許されていいのかよっ!」
阿鼻叫喚であるが、二人は関せずといつも通りの食事を続ける。
「まずはサラダからね。ノンオイルドレッシング作ってみたんだ。ちょっとだけショウガ入れてるやつ」
「これいいな。サラダなのに匂いで腹減る奴だ」
「はい、次はお待ちかねチキン南蛮。甘酢とタルタルソースつけてあーん」
「「「あーん!!??」」」
いつも、最初の一口は食べさせてもらっている銀次は躊躇なく手を添えて差し出されたチキン南蛮にかぶりつく。周囲から音が消え、ザクザクと小気味のよい音が響く。
「どう?」
「旨い」
「ありがと、エヘヘ」
「「「ちくしょおおおおおおおおお!!」」」
男子達が崩れ落ちて、床を叩き始める。
「お前等うるさいぞ。飯時なんだから静かにしろよ」
「ふざけんな。羨ましいのと、髙城ちゃんが可愛すぎるのでこっちは心が壊れそうなんだよ。どうしろっていうんだっ!」
「飯を食いに行けよ」
「髙城ちゃんを見たいだろうがっ! でも、流石に飯くってくる。これ以上は耐えられん……」
「はよ行け」
銀次に促されて斎藤達が食堂へ行くと、他の男子もお互いで肩を支えながら教室を出て行く。
「……明日の飯はいつも通り人のいない所で食うか。廊下からも視線がすごいが無理してないか?」
「大丈夫。ボクも成長しているもんね。ただ、銀次がそばにいないとダメだからね。あっ、お茶どうぞ」
飲み終わりと同時にお茶を差し出し、自分もチキン南蛮を食べて味を確認するソラ。
「うん、ちゃんと美味しい。タルタルは玉ねぎ多めが正義なのだ」
「たまには俺も弁当作るぞ。ソラほどうまくは作れないが」
「やだ、銀次の食べる物はボクが作りたいんだ。それによく食べる彼氏のお弁当を作るのは彼女の役得だもんね」
にぱーと幸せそうに笑うソラを見て。銀次も笑顔で返す。
「……ったく、ほれ俺も食べさせてやるよ」
「ちょ、恥ずかしいよ!」
パタパタと手を動かして顔を隠すソラ。
「そっちはやっただろうが、ほら」
「むー……パクっ」
目を閉じて銀次が差し出したチキン南蛮をしばらく逡巡して食べるソラ。
「……これ、人前でやると恥ずかしいな」
「……だね」
二人は再び笑い合い。
「「「ぬぅうわあああああああ!」」」
実はまだ廊下にいた斎藤達が悶えていた。
「まだいたのかよ! はよ、食堂行ってこい!」
その日、学校の自動販売機からコーヒーが消え、体調不良を訴える生徒で保健室が埋まったのだった。
あけましておめでとうございます。本年もイチャイチャ全開でやっていこうと思いますので、よろしくお願いします。
次回投稿は月曜日になります。
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