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ボクは銀次のことが大好きだからっ!

 朝、送迎の車の中で愛華は食事バランスのみを突き詰めた茹で野菜をプロテインで飲み込みつつ、上機嫌でスマホの画面を眺めていた。


「フフ、学内の注目は大分取り戻せたようね」


 愛華がいつもチェックしている生徒達が使用するSNSには、愛華が男子相手に連絡を交換したことに対する話題で盛り上がっていた。愛華は茹で野菜が入ったタッパーを横に座る澪に渡して、スマホの画面をスクロールして反応を楽しむ。


「……なぜ、桃井を引き込んだのですか? 愛華様にとってマイナスなイメージになりかねません」


 納得できないと険しい表情の澪からの問いかけに、画面から目を離さず愛華は答えた。


「ならないように調整するわ。男子と関わらないようにしているわけではないしね。桃井君に協力をとりつければあの『化け物』も付いてくるだろうから、いい様に利用させてもらうわ。教室でのあの子の表情見た? 傑作だったわ。すぐに帰ったようだけど、喧嘩でもしたのかもしれないわね」


「喧嘩したかはわかりませんが……桃井がいる以上。髙城 空はこちらの意向に従わないのでは?」


「そうかしら? だって、この私がお願いするのよ。桃井君だって悪い気はしないでしょう。もし断られたら……私が可哀そう。少なくとも私の周りの人間はそう思うわ。逆らうならそれでもいいのよ。任された仕事をこなせなかったという負い目を背負わせれるし、なんなら提案だって断れても別にいいの。私は、あの子が絵の仕事で注目されているのが気に入らなかっただけだから。断るなら、学外のことに忙しいようだと先生方に報告するつもりだったし」


「そうですか」


 ――直接ソラには言わないのか。と澪は言えなかった。

 ここまで意識しているのに、愛華は今のソラ本人に対しては嫌みを囁く程度のことしかしない。あくまで周囲を先導する形を固持し、徹底的に、異常なまでに、真正面から向き合わない。


『ソラの影見る前に四季と向き合って見ろよ。そうすりゃ、もうちょい色々見えるんじゃねぇの?』


 新学期が始まって銀次と相まみえた時に言われた言葉が頭の中で響く。

 自分が見えているもの、見えていなかったもの。それを知ることができれば私はこの硝子細工のように美しく脆い憧れの人を支えることができるようになるのだろうか? 澪の中で問いはまだ答えを得られない。


 澪の葛藤に気づかない愛華は、自らの企みが上手くいったことを確信してスマホを鞄に仕舞う。


「今日も桃井君にちょっかいかけようかしら」


「おやめください。愛華様の評判を落とすだけだと思います。……それこそ化け物の逆鱗に触れることになるかもしれません」


「冗談よ。連絡先を交換するだけ……周囲の注目を浴びる場でね。それで二人が別れでもしたらおもしろいのだけど」


「普通の男子なら愛華様を相手にすればそうでしょうが……相手はあの桃井です」


 昨日のソラの反応がよほど面白かったか、浮かれている様子の愛華とは対照的に警戒心を強める澪。

 校門前の坂道に到着し降車すると、すぐに愛華を見かけた女子が集まって来る。さらに少し離れた場所から男子達の羨望の眼差しを受けて愛華は坂道を登る。そこだけ世界が変わっているような特別で、しかし愛華にとってはいつもと変わらない登校風景。


 少なくとも愛華はそう思っていた。


「よぉ、四季。ちょっといいか?」


「……おはよう。愛華ちゃん」


 よく通る声が背中から投げかけられ、愛華が振り返る。

 視線の先にはガッチリと手を繋いでいた銀次とソラが立っていた。


「……おはよう。ソラ、そして桃井君。なにかしら?」


 ぎゅーっと銀次の腕を抱き寄せながらソラが愛華を睨みつける。その横で銀次は大仰にソラに抱きしめられていない方の手をヒラヒラと振る。


「おいおい、昨日連絡先を交換するっていったのはお前だろ。文化祭の委員だっけかやるからにはきっちりしとかないとな。ほれ、スマホだせよ」


「そうね……」


 スマホを取り出して連作先を交換する。その間もソラはずっと銀次の腕を抱きしめていた。


「ソラ、あまり風紀を乱すような振る舞いは生徒会役員として認められないわね」


 残暑の中で冷たく聞こえるその声を受けて、ソラは深く息を吸って目いっぱい大きな声で告げた。


「スゥ……『ボクの恋人』と連絡を交換しようっていう人がいるから心配なんだ。だって、ボクは……ボクは銀次が大好きだからっ!」


 顔を真っ赤染めた状態で愛華を指さしてそう言うと、周囲からどよめきが起こる。

 校内を二分する人気を持つソラには彼氏がいる。周知の事実ではあったがそのことを一年以外の生徒もいる場で堂々と言い切ったのだ。先程までの剣呑な雰囲気は霧散し、お祭り騒ぎとなる。そして銀次もまた、その喧噪にまけないくらい大きな声で愛華に言い放つ。


「俺もソラのことが世界で一番大好きだぜっ!」


 あいつやりやがった! と、男子を中心に周囲のボルテージが一段階あがる。人前でパートナーに愛を大声で宣言する場面など実際に見たことがない者が多数だろう。嫉妬するのも馬鹿らしいほど真っすぐな二人の発言は元々二人のことを知っていた生徒を中心に広がっていく。もはや愛華が銀次に気を持たせるようなことを言える雰囲気ではない。愛華は頬をヒクヒクと引きつらせていた。


「こんなバカ騒ぎを起こして何をするつもりなのかしら?」


「あぁ、俺達は見ての通りラブラブだからな。委員会の仕事中も一緒にいることもあるから今のうちに言っとこうと思ってな。委員についてはしっかりこなすから安心しろよ。そんだけだ。早く教室いかねぇと遅刻すんぞ」


「……」


 口をパクパクと動かして二の句が継げぬ愛華を置いて銀次とソラは下駄箱へ歩き出す。

 靴を履き替える際に銀次がソラの耳元へ顔を寄せる。


「よく言えたな。俺が叫ぶだけでもよかったんだが」


「話を聞いた時は恥ずかしくて無理って思ったけど。愛華ちゃんを前にしたら言えちゃった……それにスッキリしたんだ。うん……ボクは銀次が好きで、銀次が他の女の子と連絡を交換するとヤキモチ焼いちゃう。ずっと一緒にいたい。学校でも引っ付きたい。全部全部、本心だもん。だから……言えちゃったのです」


 アドレナリンが出ているのか、フルフルと震えてやや涙目のソラである。


「無理すんなとも言いたいけど、正直嬉しかった。ありがとな。勇気もらったぜ」


「い、いいってことよ」


 小細工を弄して周囲を先導する愛華に対して銀次とソラが行ったこと。それは、単純にお互いが好きだから一緒にいたいということを大声で宣言すること。策ではあるが嘘ではない。本心からの宣言をして自分達のしたいようにするだけだ。内緒話を終えた銀次は顔を叩いて気合を入れ直す。


「うっし、次のフェーズだぜ。俺達の絆がどれだけ強いのか周囲にわからせてやるために、ひたすらイチャイチャすんぞっ!」


「おーっ!」


 アドレナリンが出ているのは銀次も同じらしく、二人して気合十分に教室へ向かっていくのだった。

今年の投稿は最後になります。本年も大変お世話になりました。

皆様、良いお年をっ!


次回投稿は月曜日になります。

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ふふっ最近ラブコメを読みまくって耐性をつけたからな 耐えれグフッ!さらば……
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