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もう遅い系の主人公みたいな奴がクラスメイトにいるのだが、一向に不幸なままなので俺が幸せにしてやんよ  作者: 路地裏の茶屋


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202/205

聖戦勃発

 月曜日。いつものように二人揃っての登校でするのだが、校門を通ってからソラが何かを感じて銀次の後ろに隠れる。


「……なんかいつもと違う」


「そうか? 見られているとは思うけど、いつもと違いはわからんな。ふぁ……眠い」


「大丈夫? 昨日は先に寝ちゃってごめんね」


「……周りに人がいる時にそれ言うなよ」


 間違えではないのだが、誰かに聞かれると誤解を招きかねない発言である。


「ちゃんと、周り見たもん。小声で言ったし。靴箱チェックしないと、よっと!」


 欠伸を銀次の背中から出て、いつものようにバックステップ靴箱開けをして変なものが入られて無いかを確認するソラ。本日も中は空のようだ。靴箱に異常がないことを確認すると鞄から上履きを取り出して下靴を袋に入れる。使わないのだから靴箱は無視すればいいのだが、なんとなく気になって靴箱を確認するのが習慣になっているようだ。


「大丈夫……んー」


 いそいそと銀次の背中ポジションに戻るソラ。落ち着かないように周囲をキョロキョロしている。

 流石に銀次も警戒心を強めて周囲を見渡すと、確かに背後や廊下から視線を感じる。


「四季の奴がなんかしたのか?」


「そ、そうかな。なんか違う気もするけど……」


 二人がクラスへ向かおうとすると、いつかのデートで遭遇して依頼、親し気に挨拶をするようになった二年女子の二人組が寄って来る。


「髙城ちゃーん! おはよう。久しぶりー」


「先週から会いたかったんだけど。テストだから忙しくって、桃井君もおはよう」


 元気よく話しかけてくる。二人に対し銀次はしっかりと一礼、ソラは銀次の背中から二人を覗くように頭を出す。


「うっす。おはようございます」


「おは、おはようございます」


 懸命に挨拶を返すソラの様子を見て二年二人は天を仰ぎ、胸を抑える。


「はぁ、マジで可愛い。信じられないくらい可愛い。夏休みデビューってレベルじゃない……ドキがムネムネするっ!」


「天使っ! 芸能人とか生で見るとこんな感じなのかなぁ」


「……銀次、よろしく」


「俺に振るなよ」


 オーバーなリアクションに警戒レベルを上げたソラである。


「イヤぁ隠れないで!」


「でも、照れる髙城ちゃんも可愛いっ!」


「すんません。もういいっすか?」


 朝から賑やかな女子二人に辟易する銀次が話を切り上げようとすると、二人は慌ててスマホを取り出して銀次に見せる。


「ちょ、ちょっと待って。あのさ、二人に聞きたいことあって」


「うんうん、これなんだけど」


 差し出されたスマホの画面には二人が現在デザインに取り組んでいる美沙が立ち上げたブランドのホームページだった。そこにはソラが描いたコンセプトアートが乗せられており、タップすることでスマホカバーの注文ページに移動することができるようになっている。先輩女子達はずいっと顔を近づける。


「まだデザインが公開されていないけど、これのデザイナーが髙城ちゃんって噂が広まっているんだけど……」


 銀次とソラは二人で顔を見合わせ、そのまま先輩女子を見返した。


「はい、そうっすけど。近々デザインも公開されると思うっす」


 なんならそのプレゼン資料を昨晩作ったばかりである。


「……(コクコク)」


 デザインに関しては別に隠しているわけでないし、すでに斎藤達やスズにも言っていることなので特に疑問なく答える二人。


「わぁお」


「戦いが始まるわ! こうしちゃいられない。ありがとう二人共っ! 絶対に買うから!」


「いや、それかなり高いやつなんで買うのは……行っちまったな」


「なんだったんだろ?」


 銀次が説明する前に二人は走り去ってしまった。そのまま二人が教室に入ると、すでに登校していた幾人かの男子がスマホを持ったまま二人の元に駆け寄る。


「「「「このサイトについてなんだが!?」」」


 そこから先の質問は先輩女子達にされたものと同じであった。どうやら、どこからかソラがスマホカバーのデザインを担当していることについての情報が広まったらしい。

 先程話したばかりの解答を銀次がしてソラが頷くと、男子達のボルテージは一段階あがる。


「手持ちの株売るわ」「親父にお願いしないとな。四種類コンプは必須だな」「保存用も欲しいよな」

「これ、髙城ちゃんのサインとかもらえるのか」「事前登録とかまだできないのか……」「『奴ら』すでに動いているって聞くぞ」


 異様な盛り上がりの中、教室の隅では田中、村上は顔を掌で覆っていた。

 明らかに何かがあった様子であり、無関係とも思えない為に銀次達が近寄ると、話しかける前に銀次とソラを見る二人。


「おはよう髙城ちゃん。それと銀次も」


「髙城ちゃんおはよう。あと銀次も」


「お前等、俺はオマケかよ。んで、これは何の騒ぎだ?」


「なんか凄いことになっているけど」


 チラリとソラが教室を見渡すと、盛り上がる男子達とは対照的に本人がいない愛華の机の周りで集まってヒソヒソと何かを話す女子達という異様な光景だった。


「あぁ、斎藤のアホがバカなことをした」


「あいつ。あれほど俺達だけで秘密を徹底しようって言ったのに……テスト終わって再会した部活動の休憩中に例のブランドのページを見ているのを他部員に見つかってな。かなり耐えたらしいが、ついには尋問に耐えられず……ゲロった」


「あの馬鹿、よりによって部室でサイトを見るなんて……野球部はほとんどが同志だってのに!」


「斎藤……バカだがいい奴だったよ……」


 別に浮かび上がっているわけでない斎藤を窓越しの空に見ようとする二人に、銀次とソラは完全に置き去りである。


「別に隠しているわけじゃねぇけどな。学校にもソラの叔父さんから連絡しているだろうし。まぁ、宣伝にはなったか」


「ちょ、ちょっと恥ずかしいけど。将来のことを考えればそんなことも言ってられないしね」


 そんなのほほんとしている二人に村上と田中は首を横に振る。


「宣伝どころじゃないぞ」


「あぁ、これはもはや聖戦なんだよ! 斎藤の奴さえ黙っていれば俺達は確実に買えたのに!」


 クワッと劇画調のような表情で机を叩く二人にビクと肩を震わせて銀次の背中に隠れるソラ。

 なんとなく状況を察した銀次が眉間を揉みながら状況を確認する。


「つまり、ソラが可愛いからスマホカバーも人気が出ているってことか。彼氏としてはちょっと複雑だが、まぁ、悪いことじゃねぇと思うぜ。それに買えないってほどじゃないだろ。かなり高い買い物だしな」


「可愛い……りぴーと、銀次。ねぇ、りぴーと」


「……後でな」


 クイクイと銀次の袖を引っ張りながらもう一度言わせようとするソラを置いて銀次が二人に確認する。

 銀次に『可愛い』をねだるソラを見て、コーヒーを取り出しながら二人は応える。


「グフッ……コーヒーを……銀次。お前はわかっていない。この学校の生徒は金持ちが多いんだよ」


「ゴクゴク……プハァ、朝からイチャツキやがって……すでに情報は学校中に広がっている。そして新学期が始まりすでに学校の半数ほどは髙城ちゃん派閥。その中でも『同志達』の中にはネジがぶっ飛んでいる奴らがいる……言わなくてもわかるだろ。俺達がスマホカバーを手に入れる難易度は跳ね上がってしまった」


「さっきから出てくる『同志』ってなんだよ?」


「「……」」


「おい」


 口を紡ぐ二人に再度質問しようとするが、予鈴が鳴り響く。それと同時に愛華も教室に入り、教室の騒ぎは一旦落ちつきをみせた。

 

「む、もうこんな時間か」


「そうだね。ちょっとびっくりしたけど変なことじゃなくて良かったよ」


「とりあえず席に行くか」


 銀次が席に座るとマナーモードにしたスマホが震える。教師がまだ来ないことを確認して画面を見ると美沙からのメッセージが届いている。


『昨晩からアクセスが急増して社のサイトのサーバーがつい先程落ちたわ。それに合わせてスマホカバーに対する問い合わせが百件以上きているんだけど、心あたりあるかしら?』


 ……銀次はそっとスマホの画面を閉じて鞄にしまうと天を仰ぐのだった。

次回更新は月曜日です。


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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
いよいよ始まるのか、サーヴァント(一部地域の猛者)による聖杯(スマホカバー)を賭けた聖杯戦争が…! 激しい激戦(駆け引き、闇討ち、買収、暗サツ、エトセトラ)が繰り広げられるのは間違いないが、果たして最…
イチャラブ糖度をコーヒーで中和しながら見守る謎の団体は説明出来んわな…
いよいよ始まるんですね。 そしてどちらの派閥でもなかった 人達が銀空派(本人達自覚無し)に 雪崩れ込む流れが出来ましたね。 まぁ現時点で運動部等の武闘派達が 周りを固めているので先日の不届き者 みたい…
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