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家に帰ってからもデートです

「足が……プルプルしてる。でも、楽しかったぁ」


「こういう時は無理してもいいと思うぜ。ただ、もうちょい体力は着けた方がいいんじゃねぇか?」


 本館で絵画を鑑賞した二人は、館内になるカフェで休憩中である。

 ハイテンションで休憩もせず絵画の説明をしまくったソラは体力がレッドゾーンだったので、銀次が休憩を提案したのだ。


「おまたせしました。ご注文の月見セット二つです」


 ややレトロなワンピースにエプロンという制服の店員が注文したものを机に置いていく。


「おっ、来たか」


「期間限定メニューやっててラッキーだったね」


 9月から期間限定というお月見セットは抹茶と月見団子のセットだった。

 さっそく、ソラが楊枝を団子に刺して銀次に差し出す。


「はい、あーん」


「……流石にちょっと恥ずかしいんだが?」


「だーめ、デートだもん」


 足をプラプラと揺らしながらソラはふにゃりと笑いながらそう言った。

 譲る気はないようだ。


「最初の一口だけな……んっ。こしあんか、ほれこっちも食わせてやる」


 仕返しとばかりに差し出された月見団子をソラは元気に頬張る。


「あむ……冷たくて美味しい」


 餡の甘さが残っているうちに抹茶を飲む。泡だった抹茶はクリーミーで苦味が甘味を際立たせていた。

 冷やされた団子と温かい抹茶の温度差のコントラストも口に心地よい。


「好みだぜ」


「銀次はお茶とか抹茶好きだよね」


「まぁな。ソラも好きだろ?」


「元々好きだったけど、銀次がお茶が好きだから買っていくうちにもっと好きになっちゃった」


 ブーツでちょんと銀次の足をつつくソラ。


「そりゃ嬉しいけどよ。あんまり買いすぎんなよ」


「わかってるって……ちゃんと我慢する、うん、善処する」


 明後日の方向を見ながらの宣言。一切反省しない気のないソラである。しっかりと休憩をした二人がカフェを出て時間を確認すると時刻は昼を回った頃だった。ほぼ開園からいるので四時間ほど館内を回っていたことになる。


「お昼時だね。美術館のチケットって一日有効だからどこか食べに行って戻る?」


「それでもいいけどよ……まだ、足が震えてるぞ」


「こ、これは、武者震いなんだよ」


 フンと胸を張るが、スカートが微かに揺れており疲れているのは明らかだった。


「嘘つけ……まだ記念館とか色々あるけどよ。一日で見るのはもったいないぜ。今日は帰って、また来ようぜ」


「……また来る。そ、そうだね。一日だけで全部見るのはもったいないもんね。銀次、天才だよっ」


「ありがとよ。んじゃ、バス亭行こうぜ」


 バスで二人並んで座る。ポテンとソラが銀次の肩に頭を乗せる。


「気を使ってくれてありがと……はしゃいで失敗しちゃったかな?」


「失敗じゃなくて、目いっぱい楽しんだんだから大成功だろ。俺は楽しかったぜ、色々教えてくれてありがとな。俺もソラのおかげで絵とか見るの好きになったぜ」


 ニカっと笑う銀次にソラも笑顔で返す。


「彼氏が優しすぎて、ダメ人間になりそう……チュッ」


 銀次の腕を抱え込んで、引き寄せてそっと頬にキスをした。


「……油断すると俺もダメ人間になんだが」


「えへへ、じゃあ、二人でダメ人間だ」


「いや、ダメだろ」


 バカップルはまだいいが、二人でダメ人間はいよいよヤバいと銀次は頭を振る。


「じゃあ、銀次がダメ人間になってボクが養うよ」


「その方がダメだからな。俺がソラを養うならいいぜ」


「えー、ボクが銀次の全てをお世話したい」


「一回、本気で話し合った方がいいな」


 なんて馬鹿な話をしているうちに二人が降りるバス停が近づいて来た。ちなみにソラはずっと銀次の腕を抱いている。周囲の視線なぞまったく気にはしていない。


「まだ早い時間だし、このまま解散は寂しいな。うちで映画でも見ようよ」


「学校始まったばかりだし疲れてるんじゃないか? 無理はするなよ」


「そう思うなら一緒にいてよ。銀次と一緒の方が癒されるもん」


 言いながら、腕を強く抱きしめるソラ。離す気はないらしい。銀次としても、もう少しソラと一緒にいたいと思っていたので、映画を見る方向で話を進める。


「そんならピザの出前でもとるか。昼も食ってないし晩飯も合わせてガッツリ食べようぜ」


「フフフ、銀次と見たかったB級ロボ映画があるんだ。予告のロボが一切出てこないってレビューがついてたやつ」


「それはもうZ級だろ」


 ソラの家につくと、ソラは自室に戻って部屋に着替えて降りてくる。

 二人で映画鑑賞の準備をしていると、銀次のスマホが鳴った。ソファーに座って確認してみると見慣れない送り主のようだ。


「ん、なんだ? 芸術祭事務局?」


「どうしたの?」


 自家製のレモンジンジャーシロップ取り出していたソラが手を止めてソファーの後ろから銀次の手元を覗く。


「……なんか、俺達の作品が賞取ったってよ」


「う、うん。賞とかあったんだ?」


「そんで、彫像を別の芸術祭にも推薦して展示したいってよ」


「えー、ボクもう一階に飾る用のスペース開けてたのに」


「断るか?」


 銀次の言葉にソラは腕を組んでしばし悩んだ後、顔を上げた。


「ううん。せっかく推薦してくれたんだし推薦受けようと思う。実際、ボクって今年絵の方で高校の応募一切出してないし。今後のことを考えると多少なりともそういうの受けた方がいいと思うんだ。もちろん、合作だから銀次がよければだけど」


「……現実的じゃねぇか」


 少し驚いた。銀次としてはソラはそういった賞とかには頓着していないのかと思ったからだ。


「将来、銀次を養わないといけないからっ!」


 後ろからギューと銀次を抱きしめるソラ。髪からはふわりと柑橘系の香りがして、首に回された腕はすべすべで、銀次の頭に一気に血が上るが必死で平静を装う。


「どんな理由だよ。……ったく、俺は構わないから適当にOKの返事送っとく」


「よろしく」


「……」


「……」


「そろそろ離してくれないか?」


「もうちょいこのままで、ぎゅー」


 たっぷり一分ほど銀次を抱きしめてから台所に戻ったソラはシロップを炭酸で割ってレモンジンジャーを作る。グラスを二つもってリビングへ戻ると片方を銀次に渡した。


「ピザの出前はまだ来てないけど、折角の僕等の受賞だし乾杯しよっ」


「おう、よくよく考えれば結構凄いことかも知れないしな。乾杯!」


 合わせたグラスが涼やかな音を奏でたのだった。

 ちなみに、視聴したロボ映画なのだが。


「……予告のロボどころか、ロボそのものが出てこないんだが?」


「アクションのクオリティーが高い。正直、ロボ要素がまったく必要ないし。あっ、なんかサメ出て来た」


「なんで唯一のCG部分がロボじゃなくてサメなんだよっ!」


「アクションだけは本当にすごいね……」


 がっつりZ級映画なのだった。

次回の更新は、月曜日予定です。時間があれば追加で更新したいです。


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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
ロボ映画に偽装したサメ映画……だと…… 折衷案でメカ化したシャークを出せばよかったのに!
ははっ、空から砂糖が降ってきた…。いや、違うかな?グラニュー糖はもっとパーっと…。開けてくださいよー(Zなロボットアニメ風 銀次の彼氏力が相変わらず高いし、学校の女子達をまた焼いてしまう爆弾が投下さ…
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