メンカタ、アジコイメ、ゲンキスコシ
二人がホテルの外へ出ると時間は昼を回っていた。無言で俯くソラをベンチに座らせる。
銀次がネクタイを解き、ワイシャツのボタンを外す。少しジメっとした風が二人の間を通り過ぎる。
「腹減った。ソラは?」
「……わかんない」
「じゃあ、ラーメンでも食おうぜ。この辺あんまり来ないから、よくわかんねぇけど……駅前に行きゃなんかあるだろ」
ポケットに手を突っ込んで立ち上がる銀次、虚ろな目で立ち上がり着いて行くソラ。
駅前から繋がる飲み屋通りに、並んでいないラーメン屋を見つけて入る。香ばしい匂いに食欲が刺激される。
「おごりだ。なんでもいいぞ」
メニューを差し出しだされ、無言で眺めるソラ。よく見ればやや頬を染めている。
さきほどはわからないと言っていたが、店の匂いでお腹が減ったことを自覚したらしい。
「……醤油ラーメン小盛り、餃子セット。メンカタ、アジコイメ、アブラマシ」
「おう、俺も決めたぜ。チャーシュー麺大盛り、メンカタ、アブラマシにする」
タブレットで注文して、すぐにラーメンが届けられる。ソラはレンゲを使って少しずつラーメンを口に運び、銀次は豪快に麺をすする。
「餃子美味しい……ニラ多めかな?」
「へぇ、旨そうだな」
「銀次、一つ食べる?」
「いいな、じゃあチャーシュー一枚やるよ」
そんなことを話しながら食べていき、あっという間に完食した。
食後の余韻を感じる無言の時間、先に口を開いたのはソラだった。
「銀次はずるいよね」
「なんだよ?」
「ボクの恥ずかしいところばかり見られている気がする」
泣きはらした赤い目で銀次を睨むソラ。今になって泣いてしまったことが恥ずかしくなったようだ。
少しは元気になったかと、銀次は安堵する。正直、どうやって励ませばいいかわからず必死に考えた結果がラーメンを食べることだったのだ。
「そうでもねぇよ。まぁ、今日のは悪いと思っているよ。まさかああなるとは思わなかった」
「ううん、いてくれて良かった。でないともっと凹んでたから。……不思議だね、ラーメン食べるとなんか元気が出てきた」
「そんなもんだ。腹さえ一杯になればなんとかなる」
「銀次と一緒だからだよ」
「ダチと食う飯は旨いもんだ。……ソラ、実はさっきの四季との会話だが……スマフォで撮ってある。距離が離れているから、あんまり音が聞こえないけど、アプリで補正すれば使えないことはないぜ」
スーツの内ポケットからスマフォを取りだして差し出す銀次、ソラは目の前に置かれたそれを見た後に銀次を見た。目線を合わせる二人、緊張する銀次だったがソラが先に相好を崩した。
「使わない。ボクが愛華ちゃんの為にしたことをボクが否定したくないもん」
銀次が予想した答えとは違ったが、らしいなとも思う。
「そっか。でも、俺は腹に据えかねてるぜ、なんとかしてあのアイドル様の鼻を明かさなきゃ気が済まねぇ」
緊張する場面は終わったと、銀次は伸びをしてスーツで固まった筋を伸ばす。
「ボクだって悔しいよ。でも、銀次はボクを幸せにしてくれるんでしょ? 愛華ちゃんのことばかり気にしちゃヤダよ」
指を組むソラの仕草は整えた髪と相まって、蠱惑的な魅力を孕むが銀次は気づかずニタリと笑い返す。
「あぁ、そうだな、小細工は四季の得意分野だ。俺としたことが、目先のことに囚われて下らねえことを言っちまったな。俺達は真っすぐに行った方がらしい。……お前が幸せになることが一番だ」
「期待してるからね銀次」
「任せろソラ」
銀次が拳を差し出し、ソラが合わせる。ソラの手は震えていて、まだ必死に強がっているが、それを指摘するほど銀次は野暮ではない。
「うっし、もう一軒行くか?」
「いやいや、お腹いっぱいだよ。それよりも折角街にきたんだから、遊びたいかも? 何もない休日なんて久しぶりだし」
「じゃあゲーセン行くか? スーツってのが肩凝るけどな」
「いいね。ボク、ゲーセンとか行ったことないんだよね」
「マジかよっ!」
そのまま休日の街へ二人は繰り出していった。
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ジャンル違いではありますが、ハイファンタジーでも連載しております。
作者自身は面白いものを書いていると本気で信じています。下記にリンクを張っていますので、もしよろしければ読んでいただけたら嬉しいです。
『奴隷に鍛えられる異世界』
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