作品のタイトル
カラオケを終えた後。銀次とソラは駅に止めていた銀次の自転車に乗って進んでいく。
「結局一緒になったな。晩飯も一緒に食べるか」
「うん。銀次の家で何か作るよ」
商店街を進み、途中で目に入った魚屋で鯵を買って帰る。
銀次の家に着くとちょうど哲也も外出から戻って来た所のようだ。
「お帰り兄貴。ソラ先輩もお疲れ様です」
「おう。そっちもお帰り」
「お邪魔しますテツ君」
三人で玄関を潜り、哲也が自室へ銀次とソラが居間へ向かう。部屋全体が熱を伴ったような暑さにため息をついて、銀次がクーラーをつけてソラは台所へ向かう。
「フフ~ン」
カラオケでスズと歌った恋愛ソングを口ずさみながら、手を洗って調理の準備をしていくソラ。掛けられている自分用のエプロンを着て包丁を取り出す。ちゃぶ台を出した銀次も台所に入り、髪を掛け上げながら手を洗い横に並ぶ。
「何作るんだ?」
「王道を行く。アジフライだよ」
氷でよく冷えた鯵をとりだして鱗を取り始めるソラ。
「好物だぜ」
「だと思った」
「んじゃ、俺は副菜だな。漬物はあるし……タルタルソースでも作っとくか、キャベツはマストだろ」
横で鍋を取り出して卵を茹で始める銀次。狭い台所だが譲り合って調理を進めていく。
といっても銀次の方は卵が茹だるまでは手持無沙汰であり、隣のソラを眺める。鱗とゼイゴを取った鯵の頭を落とし、内臓をとって水洗い。水気を拭き取りテンポ良く腹開きにして腹骨をすき取り、中骨も骨抜きで丁寧に抜いていく。
「慣れたもんだな」
「そう? あんまりやったことないけどね」
「マジかよ」
無駄のない手つきはどう見ても熟練者のそれである。過去の記憶を完璧に覚えているからこその上達なのだろう。料理人としても大成しそうだと銀次は心の中で感心する。すでに二匹目に取り掛かるソラだったがその手が止まる。
「ん、どうした?」
「半端に余りそうなんだよね。ボクは一枚でいいから、銀次とテツ君で二枚としても、あと二匹ほど余っちゃう。どうしようかな?」
「別に全部フライでも俺もテツも食うぞ」
「それはそうなんだけど、折角だしもう一品作ろうか。んーと」
頭の中のレシピ帳を開いて検索。冷蔵庫の中身と合わせて丁度良いのが見つかった。
「ナメロウつくろう」
「ダジャレかよ」
「ち、違うしっ! 偶然だし」
「イテテ、わかったよ。ほれ、俺が叩いといてやる」
拗ねたように肩をぶつけるソラと受け止める銀次。カラカラと笑いながら、今度は三枚に降ろされた鯵の身を受け取って、ソラの説明を受けてネギ、ショウガ、白味噌、ついでに冷蔵庫に残っていたタクアンと合わせて包丁でたたいていく。一方のソラは骨抜きを終わらせてフライを量産し、ほどなくして山盛りのキャベツを取り皿に置かれ、米が炊きあがると夕飯が完成した。
「……いい匂い」
揚げ物の匂いに釣られて着替えた哲也が居間に入って来る。
「おう。ちょうど、呼ぼうとしたところだぜ。今日はアジスペシャルだ」
「ソースとタルタルがあるから、好きな方選んでね」
「「「いただきます」」」
山盛りの白米とマスタードを効かせたタルタルソースを豪快にかけて銀次がかぶりつく。
「あー、うめー」
「美味しいっすね。衣が良い感じっす」
ソースを先に付けて味を見る哲也。ご飯とのバランスを重視する食べ方のようだ。
「次は大葉を使ってみてもいいかも。あっ、ナメロウ美味しい。さっぱりしてて、ちょうどいいね」
カラオケでも軽食を摘まんでいたのでソラは晩御飯は少な目で、キャベツを食べながらナメロウを味わっている。夕飯を食べ終え、食休みにダラダラしていると哲也から銀次に話しかけた。
「そういえば、兄貴たちの作品って完成したの? 工場のおっちゃん達が気にしてたけど」
「明日、仕上げをして完成だ。しっかり展示もされるぜ」
「へぇ、野球部とか生徒会の後輩達が気にしてたから、話してもいい?」
「「……」」
顔を見合わせて黙る銀次とソラ。
「ダメだった?」
「いや、ダメじゃないが……まぁ、恥ずかしくはあるな」
「タイトルがあれだからね……」
作品自体は問題がないが、ソラが付けたタイトルを考えると躊躇してしまう二人。
「不味いなら止めとくけど」
「いや、ここで退くならあんなタイトルは着けねぇそうだろソラ?」
バカップル化(当社比)を受け入れつつある銀次が開き直る。
「う、うん。恥ずかしいけど、後悔はないよ! バッチコイ。マネージャーの子達も興味ありそうだったし、大丈夫っ!」
日頃、人目を全く憚らない二人がこれほどの反応をしていることに嫌な予感がした哲也は恐る恐る質問する。
「その題名、聞いてもいい?」
再び顔を見合わせた二人が同時に作品のタイトルを言うとできる弟こと哲也は真顔で受け止め。
「……まぁ、兄貴と先輩らしくていいんじゃない」
と無表情で告げたのだった。
次回は月曜日更新予定です。余裕があれば追加で更新するかもしれません。
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