嵐の予感?
ひとしきり歌い終えた後、退室時間まであと少しだったのでジュースやアラカルトを食べながらのんびり過ごす四人、話題は自然と歌についてとなる。
「やはー、歌った歌った。喉ガラガラだよ。ソラちジュースちょーだい」
「自分で注ぎにいきなよ。あー恥ずかしかった……」
陽気にボディタッチをしようとするスズと牽制するソラ。
「髙城ちゃんの歌も聞けて大満足だぜ。女子とカラオケとか中学で一回あったくらいだし、たまには外に出るもんだな」
「あぁ……なんていうか個性的な歌い方だったな」
「俺は好きだぜ。ボイスロイドみたいで、今風じゃねぇか」
男子三人も感無量と言った感じだ。ちなみに三人が言うソラの歌い方とは、音程と安定感に全てのリソースを割き表現力を削ぎ落したものだった。良く言えば正確、悪く言えば機械的な歌声である。点数は高いが歌としては上手いと言い難いのだが、懸命にマイクを持って歌うソラを見て男子三人は両手を合わせて拝んでいた。一方、銀次の方は……。
「しっかし、まさか銀次が一番上手いとは……しかも、アニソンだし」
スズがジト目で銀次を見るが逆に銀次は得意げに胸を張る。
「好きなラノベ原作のアニメは追う主義だ」
「銀次は隠さないタイプのオタクだからな」
「女子の前で普通にアニソン歌うのどうなんだ?」
斎藤と田中がそういうが、ソラは強く首肯している。
「ボクはカッコいいと思うっ!」
「俺もソラの歌好きだぜ」
もはや人前であることなど関係なしに、いちゃつく二人に他四人は甘ったるさに息を吐いた。
「あー、もう一杯コーヒー飲んでくるかな……」
「あたしも……ミルクも砂糖もありあり派だけど、今日だけはブラックで……」
「「俺も」」
四人がドリンクバーへ行くために退室すると、部屋には銀次とソラが残される。
「今日は遊んだなー。あと15分ほどか、何か一緒に歌うか?」
「うん、知っている歌を探そうよ」
二人で携帯を出して、お互いが知っている曲を探していると四人が戻って来る。
「やっほー、戻ったよーん。何してるの?」
「最後になんか一緒に歌えないか、曲を探していた所だよ」
銀次がスマホを見せるとスズの視線がそれに止まる。
「そういえば、ソラちと銀次って同じスマホカバーだよね」
「何っ!? ソラちゃんも同じ物なのか。銀次のカバーかっこいいと思ってたんだよな」
田中も銀次前に歩み寄ってスマホカバーをしげしげと観察する。
「メタルで丈夫そうだしな。どこのメーカーだ?」
目線で、説明していいかをソラに聞いた後、銀次が口を開く。
「これ、背面をデザインしたのソラなんだぜ」
「「「は?」」」
フリーズする四人に、スマホカバーが個人製作のものでデザインをソラが描き下ろしたものであることを説明する。
「いいなー、金属なのにゴテゴテしていなくて私も欲しいー」
カバーを見ながら目をキラキラさせるスズに苦笑しながらソラが告げる。
「それなら、銀次の紹介で今度ボクがデザインしたスマホカバーをネット販売するよ」
「あー、そういえばそうだな。ネット予約は来月らしいが……」
「「「「はぁあああああ!?」」」」
「うるせぇ!」
「スズ、出しちゃいけない声しているよ……」
カラオケルームでなければ許されないほどの声量を受けて耳を塞ぐ銀次とソラだったが、スズや男子三人は構わず詰め寄る。
「ちょ、どういうことなのだよソラち?」
「説明しろ銀次どういうことだ?」
「お前等落ち着けっての……」
銀次が説明しようとすると、退室時間を知らせるコールがなる。
「延長でっ!」
スズが電話口でそう言うが、込み合っている為に延長はできなかった。店から出て駅に向かいながら。銀次とソラで補完しながら夏休みの自由研究で彫像を作りその過程でスマホカバーのデザインをすることになったあらましをざっくりと説明した。
「絶対に買うよ。えー、他の友達にも勧めるっ!」
「……わかってるな」「あぁ、同志にバレると絶対に争奪戦になる。自分の分を予約できてからだ」「抜け駆けは死罪な」
テンションが上がっているスズとなにやら小声で会話している三人を見て銀次は注意を促す。
「言っとくけど、新ブランドで量より質の嗜好品だ。削り出しだから普通に高いぞ」
「……うっ、そう言われると。今月ピンチのスズちんなのだ」
怯むスズだったが、男子三人は曇りなき眼である。
「お年玉崩すわ、渋沢二枚までならだすぜ」
「CDとかゲームとか売ればいい。PCのパーツも転売する」
「全力で親に頼むっ!」
覚悟を決めて先の予定を考える三人を見て、何やってんだとため息をつく銀次と苦笑するソラ。
忘れそうになるが、通っている高校は県内でも有数の進学校なので割と融通が利く親を持つ三人である。
「アハハ、とりあえず買ってくれる人がいて良かったのかな」
「デザインの方はどうなんだ?」
「元々あったものを選別して、ブラッシュアップしてから四つほど提出する予定。それほど手間じゃないよ。愛華ちゃんにこの手のことも任されていたし」
「夏休み明けの課題テストもあるってのに、大丈夫か?」
「銀次用の問題集ならすでに8割完成してるよ。一緒にお勉強頑張ろうね」
「お前の分は……愚問か。デザインに関しての予定の詰め方は手伝うぜ。……将来のことも約束したしな」
ずっと一緒にいる。その為に今、できることを全力でする。この夏を通して銀次が新たに手に入れた二人の目標だった。
「約束……エヘヘ」
そっと指先が延ばされて繋がる。
「おー、ラブラブだねーソラち……思ってたよりも三倍はラブラブだったぜい」
「か、からかわれて離さないし」
スズは横から覗くが、ソラはその手を強く握る。
「ハハッ、だな。見せつけるか」
「うぉお……なんだか銀次、大胆だね。ば、バッチコイ!」
銀次が握り返し、ソラは緊張しながら体重を預ける。そしてそれを後ろで見つめる男子三人。
「……なんか、壁を殴りたくなった」「止めとけ、駅の交番が近い。コーヒー飲んで心を静めろ」「これは夏休み明けは荒れるな。髙城ちゃんが幸せそうだから別にいいか」
これから起きるであろう波乱を想像する男子三人なのであった。
次回は月曜日更新予定です。余裕があれば追加で更新するかもしれません。
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