ソラの成長?
銀次が男子と遊んでいた同日。
中央駅の近くにあるショッピングビルの一階でスズがスマホをいじりながら壁にもたれていた。お団子ヘアにポロのトップスとプリーツの入ったミニスカートという涼やかな格好で、それなりに決まっているのだが当の本人は落ち着きなく、ソワソワとしている。
「んー、ちょっと明るすぎ? まぁ、こんなもんか」
学校が始まる前にと染め直した髪色を確認していると、遠くから駆け寄って来るソラを見つけて手を振る。
「あっ、ソラち。こっちこっちー」
「はぁ、はぁ、遅れてゴメン。作品の配送が思ったよりも時間がかかっちゃって」
息を切らしたソラがスズの前で膝手に手を当てて屈む。
「いいよ、いいよ。というか待ち合わせより早いじゃん」
「エヘヘ、間に合って良かった」
被っていた帽子を押さえながら顔を上げるソラ。それを確認した瞬間。スズは口を半開きにして停止した。
「……」
「あれ? スズ、急に黙ってどうしたの?」
「……ソラち。気を付け」
「うん? えーと、これでいい?」
両手を体につけて素直に直立するソラ。スズの視線が頭からつま先まで全身を移動する。
バックリボンのキャップに膝下ほどの丈のデニムワンピース。腰を大き目のベルトで縛り、足元はボーイッシュなスニーカーという格好である。
「可愛いかよ!」
「ありがと、スズも可愛いよ」
キャプのツバを持って照れるソラの手をスズは握った。
「そんなんいいから。ちょ、試しにキャップ取って見て」
「い、勢いが強いよスズ」
呆れながらソラがキャップを取り手櫛で髪を整えると、周囲かがざわつき始める。
「な、何?」
人込みが苦手なことも相まって、キョロキョロと周囲を見渡すソラだったが、そのせいで多くの視線にさらされてしまう。
「うん、これはキャップいるね。被ってよし!」
「よくわかんないけど……」
「とりあえず。場所変えよう。ソラちが美少女すぎて人が集まってきちゃう」
「ないない、愛華ちゃんじゃあるまいし……というかここ人が多いね」
「いや、正直もう姫様レベルだし明らかにソラちを見て集まって……ええい、場所変えよっ!」
キャップを被り直すソラ。そうしている間にも視線が集まってきていたので、二人で歩き出す。
ソラも移動してすぐだったこともあり、休憩の意味も込めてビルの中にある軽食屋に逃げるように入り込む。ちょうど人が出たタイミングらしく。すぐに席に座ることができた。
「ふぅ、一息ついたぜぇ」
「スズってばおじさんみたいな喋り方になってるよ」
「失礼な。スズちんは花のJKでーす。何か頼もうか」
二人共昼食は簡単に食べていたので、コーヒーのみを注文する。ソラがブレンドでスズがウインナーコーヒーを選んだ。
「このウインナーコーヒーのクリームを混ぜるかそのままにするかいつも迷うんだよね」
「ボクはそのまま飲む派かな」
「あたしは適当っ! んー、甘いっ!」
「そういえば、今日は何するの?」
「決めてない! ソラちに会いたかっただけだぜい。でもせっかくなんだし小物とか見て回れば良くない?」
「女子っぽい。いいよ、銀次に似合うものがあればいいなぁ」
「女子っぽいって……それはこっちの台詞なのだよ。ソラちますます可愛くなってない? ちょっと髪伸びていい感じ。いやぁ、眼福ですわ」
「……うーん、まぁ、頑張ってはいるけど、銀次に効いているかは微妙なんだよね。頑張る!」
自分磨きを頑張ってはいるものの、銀次から以外の評価はアウトオブ眼中な為に周囲からの評価には疎いソラである。実際は銀次にもかなり効果的なのだが先日の誤解(魅力不足で銀次に手を出してもらえない)もあって、スズもびっくりの自己評価の低さだった。
「いや、今のソラちに何かされたら私だったら襲うね」
「ええ……」
目を細めて、ちょっと引くソラだが老師はこの程度では怯まない。
「それに、ちゃんと目が合うようになってるし。声もしっかり出てる。ほら、前のソラちってあまり目が合わなかったし、喋り方も自信無さげだったのに全然違う。これが、彼氏持ちの余裕ってやつなのかにゃ?」
「どうだろ? 前よりは物をまっすぐに見れるようになったかな。スズの言う通り……銀次のおかげ……かも」
照れながら今度は目線を逸らすソラ。白い頬をわずかに染めて恥じらう姿は本人は意図していないが反則的に可愛い。
「……ち、ちなみにソラち。銀次とはどこまでいったのだい?」
ソラの仕草に生唾を飲みながら尋ねるスズ。
「ど、どこまでって。い、言えないよそんなの」
「イエスかノーで応えるのじゃ」
「ろ、老師……」
人差し指で髭を作ったスズによる問答スタートする。
「手は繋いでいる?」
「……イエス」
「恋人繋ぎをしたことがある」
「ええと、イエス」
「腕を組んでいる」
「イエス」
やることやってる! スズの背後に稲妻走る!
「おぉ、ソラちと銀次のことだから手を握るくらいかと思ったけど意外と進んでる」
「そ、そうかな? スズにこの前教えてもらった本だともっと進んでいると思ったけど」
ちなみにスズがソラに教えている恋愛本は少女向けであるにもかかわらずそれなりに激しい描写があったりする。当然物語という前提であるのだが、ソラの言い分ではまさかあれを基準にしているようだ。そのことに対してスズ(彼氏無し)は冷や汗を流す。
「え? あれって結構激しいやつ……質問を続けます。ハグをしたことがある?」
「まだやるの? ……イエス」
視線を合わせると言う話はどこへやら、完全に顔を真っ赤にして俯いているソラ。
「よくしている」
「い、イエス?」
日常的にハグをしている。この美少女と!? 銀次の野郎うらやまけしからん! 私もしたい!
「え、まさか。き、キッスとかも?」
「……秘密。もぉ、これで終わり! ほら、小物をみるんでしょ!」
ほぼ毎日キスしているし、なんならホテルに誘って添い寝までしているとは絶対に言えないので、ソラはここで会話を強引に終わらせる。
「待ってよソラち~」
我慢できなくなったソラが立ち上がり、伝票を持ってレジへ向かう。あわてて後を追うスズ。
その後、二人で楽しくショッピングを楽しんでいたのだが、夏休み中ということもあり人が多く途中でソラが疲れてしまう。
「ごめんスズ。そろそろキツイかも……」
「おけおけ、結構見て回ったしねー。じゃあどこかで休憩しようか。といっても、この辺で人込みを避けてのんびりできるとこと言えば……そうだ、いい所があるじゃん。カラオケいこーぜー。アプリにクーポン入ってたし!」
「カラオケ? ボク歌うの苦手なんだけど……」
「休憩目当てでもいいじゃん。ほらほら」
「わわ、引っ張らないで」
ビルから出た二人はスズの案内で、カラオケ屋に向かうことになったのだった。
次回は月曜日更新予定です。
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