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銀次の成長

 昼前の中央駅の改札前の看板の下。斎藤、田中、村上の一年男子三人が予定より早めに到着していた。


「……銀次はまだ来ていないな。あいつ、ああ見えてで集合より絶対に早く来るタイプだから心配したぜ」


「そりゃ30分も前だからな。んで、斎藤。なんで俺達だけ早くに着いたんだ?」


 帰宅部の田中と、この夏のほとんどを卓球に捧げた村上が野球部の斎藤に尋ねる。

 この夏で身長が伸び、あと少しで180㎝に届くかと言う巨漢の斎藤はその体を縮こませて小さな声で囁いた。


「そりゃ、話すことがあるからだ。ほら、銀次の奴。この夏付き合いが悪かったろ。つまり髙城ちゃんとほぼ一緒にいたわけだ」


 斎藤の言葉に田中が首を捻り、村上は眉間に皺を寄せた。


「おい、これから遊ぼうって時に銀次をダシにして髙城ちゃんとのことを聞き出すってのはライン以前にダチとしてどうかと思うぜ。だいたい、付き合いに関しては俺もお前も部活があったから同じだろうが。今日は、夏休みの終わりに野郎でカラオケでいいだろ」


「馬鹿、俺だってそれくらいの常識はある。俺が言いたいのは、髙城ちゃんのことじゃなくて、『彼女』とひと夏過ごした銀次を参考に俺達もモテたいってことだよ。今の奴は彼女の持ちの高校一年生。しかも相手はあの髙城ちゃんだ。ただの彼女じゃない。信じられないくらい可愛い彼女がいる男だ。学ばない手はないだろ」


「……なるほど」


「一理あるな」


 別に理屈が通っているわけでもないのだが、なんとなく斎藤の勢いに押される彼女無しの二人。


「その銀次の立ち振る舞いを見て、俺達もモテを学ぼうってわけだ。髙城ちゃんのほどの相手とは言わん。だが、高校生活を灰色で過ごしたくはないだろ」


 得意げに丸刈りの頭を撫でる斎藤だったが、帰宅部のエースを自称する田中は怪訝な表情だ。


「しかしよぉ。仮に銀次が来て普通に遊んだとして、モテる立ち振る舞いを学べるかね? いつも通り遊んで終わりだろうに」


「だな」


 村上も同意する。デート中の銀次を見るならともかく、友達と遊んでいる時の銀次を見ても参考になるとは思えない。


「案ずるな。策はある。カラオケに行く前に女子受け間違いなしのカフェに寄る。ここを回ることで銀次の反応を見れば男子としてどう振る舞えば女子に嫌われないかわかるだろ?」


 斎藤の考えを聞いた二人は、無言で顔を見合わせすぐに向き直る。


「天才か?」


「これで俺達も彼女ができるってわけか。まっ、たまにはいつもと違うことで遊ぶのもありだしな」


 話が成立してしまった。こうして、三人は女子受けスポットに関して話し合おうとしたのだが、村上と田中の後ろから手が回され肩を引き寄せられる。


「よっ、遅れて悪かったな」


「うおっ! ぎ、銀次」


「驚かせんなよ」


「ハハっ、すまん。全然こっちに気づいていなかったからつい。それで何の話をしてたんだ? つーか、斎藤、デカくなったな」


 二人の肩を抱いたまま、ややハイテンションな銀次が斎藤にも話しかける。


「お前も少し伸びたろ。あー、折角中央に来たんだから話題の場所とか回ってからカラオケに行こうって話をしてたんだ。な、二人共!」


「そうそう! ほら、田中はゲームばかりだし、俺と斎藤は部活で中々こういうとこ来ないからよ」


「たまにはなっ!」

 

「夏らしいか……いいじゃねぇか、行こうぜ。駅前の通りから行くか?」


「お、おう。しかし、なんだかおしゃれだな銀次」


「そうか? 暑いからさっさと行こうぜ」


 少し大きめのアウターにTシャツ。ボトムはカーキ色の落ち着いたロングパンツの格好で銀次は軽やかに歩き出す。斎藤達も外行きようの服装なのだが、どこか違う。敢えて形容するなら少しだけ大人っぽくどことなくオシャレな気がする。三人は銀次を追いかけ横に並ぶ。


「おい、銀次。その服って自分で選んだのか?」


 頭の中でメモ帳を開きながら斎藤が尋ねた。


「あん? あー、これは俺じゃなくてソラだな。アイツ、止めないと際限無く俺の服とか靴とかを買うんだよ。着心地がいいから気に入っているけどよ……何か変か?」


「髙城ちゃん……」


「ちなみに、髪型は?」


「近所の床屋。最近はソラが整髪料とかも教えてくれてるけどな。知らん間に家に色々増えてるし」


「家に……」


 ナチュラルなバカップルぶりに斎藤、村上が初手で撃沈する。銀次の来ている服は日本ではあまりなじみのない海外ブランドを中心に似合いそうという理由で値段を度外視でソラが買いそろえた物の極一部である。知らない内に質の良いものに触れている銀次の服のセンスは確実に向上していた。ちなみにソラは銀次に父親の仕事の関係で安く手に入れたと説明している。それは嘘ではないが、元々の値段は全力で誤魔化している。


「ったく。知らない内に遠くに行っちまったよなぁ」


 遠い眼をする田中だったが、銀次は少し拗ねた顔をする。


「何言ってんだ。ここにいるだろ? 俺、お前等と久しぶりに遊ぶの楽しみにしてたんだぜ」


「銀次……」


 田中、慮外の一撃に沈む。

 

 謎のダメージを受けた三人は、とりあえず体制を立て直すために大通りに面したバス停の近くにある人気のカフェに入ることを提案し、銀次と共に入る。しかし、三人はすぐに後悔した。明らかに空気が違う。店内は女子同士かカップルばかりで野郎四人は明らかに浮いている。店に入っても席まで案内もされない。どういうシステムかもわからない。実はカフェデビューである高一男子三人は完全に萎縮してしまった。


「おい、斎藤。流石にこれは……」


「あぁ、これはないな」


「うん、無理」


 三人が踵を返そうとするが、銀次は手を上げて声をあげる。


「すんませーん。四人でーす」


「おい銀次!?」


「こんなオシャレな場所で定食屋みたいなことして大丈夫かよ!?」


「あん? 大丈夫だろ。あっ、店員が来たぜ」


 銀次の声を聴いてやって来た店員が店の利用の仕方を説明してくれる。どうやら、アプリで席の案内や注文もしてくれるシステムのようだ。銀次がスマホで手続きをするとすぐに席に行くことができた。


「すぐに座れて良かったな」


「いや、すげぇな銀次。やけに手慣れるし、髙城ちゃんと来たことあるのか?」


「ここに来たことはないけど、カフェに一緒に行ったことならあるな。スーツとドレスで会食したこともあるぜ。あれは、マジでビビった」


「何やってんだよ……」


 カラカラと笑う銀次。夏休み前と比べるとやはり雰囲気が違うと感じる斎藤達。

 パフェを食べながら近況を話し合い、途中で銀次がトイレに立つと三人は身を寄せ合って銀次について話し合う。


「なぁ、銀次の奴。なんつうか、余裕があるっていうか。夏休み前の顔は怖いけどいいやつって感じから、険が取れて普通の男前っぽい感じというか。いや、顔は怖いんだけどよ」


「わかる。元々気が利くやつだったが、それが自然に表に出てるから怖さがない。丸くなったよな。髙城ちゃんが天元突破で可愛くなったのは夏祭りで知っているけど、銀次のやつもずいぶん変わったな」


「ありゃ、モテるわ。いや、実際に髙城ちゃん以外の女子にどんだけモテるのかはわかんねぇけどよ。クラスの女子からは嫌われてるっぽいし……」


「すくなくとも、オールブラックスの中には銀次ファンも一定数いるからな。そいつらが今の銀次を見たら……うん、考えるのはやめよう」


 そんな話をしていると銀次がトイレから戻って来るのが見えた。そろそろ退店しようかと三人が準備すると、銀次がやって来ない。見ると、女子大生っぽい二人に話しかけられていた。


「君、一人? この店に男子だけって珍しいね」


「ね、良かったらこれから女子何人かで遊ぶんだけど、一緒に行かない?」


 ナンパされてる! ちなみにリアルで逆ナンを見るのも初めての三人である。固唾を飲んで銀次を見守るが、当の本人はサラリと答える。


「すんません。彼女がいるんで」


「えー」「ざんねーん」


 振り返ることもなく席に戻る銀次。


「おう、待たせたな次行くか」


 そう告げる銀次を見て三人は「これ、参考にならない」と悟る。モテについて学ぶことを早々に切り上げてカラオケにやり場のない感情をぶつけようと決意するのあった。

次回の更新は、多分月曜日です。


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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
【虎は何ゆえ強いと思う?元から強いからよ。】 有名な台詞ですが【モテ】も同じですよね。 ある程度は努力で何とかなりますが このレベルとなると••• まぁ【銀友】も良い奴らなので 何とかなると思います、…
埋めることのできない決定的な差が生まれてるじゃん…!
男としての格の違いが……
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