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決戦前夜?

 溶接に加え、地獄の研磨作業を終えた二人は前日のように桃井宅で風呂に入り、ソラの家でのんびりしていた。哲也が友人とファミレスで勉強会をするということでソラの家で夕食をすることにする。


「今日は、工場のおば様方にトマトを貰ったからイタリアン風だよ」


 エプロンを脱いだソラが白いボール皿を目の前に置く。


「あんま馴染みねぇけど美味そうだな。つーか俺も手伝わせろよ」


 和食か中華料理にメニューが偏りがちな銀次にとって新鮮なメニューだったりする。最初の皿からしてトマトとモッツアレラのカプレーゼであり色味からしてイタリアだ。ソラ曰く「詳しくないから、なんとなく」と言っているが、その言葉が信用ならないことを銀次は知っていた。


「だって、折角だから驚いて欲しいもん。はいあーん」


 キッチンにまだ料理はあるが秘密らしい。すでにかなりいい匂いが充満し、銀次はお預けを喰らった犬のような表情でソラを見る。ソラは上機嫌で銀次の横に座りカプレーゼを差し出した。

 なんか楽しそうだなと疑問に思う銀次であるが、その理由がまさか溶接をしている姿を見てソラが自分に惚れ直しているとは夢にも思っていない。


「ん……初めて食べたが、意外と美味いな」


「ボクも結構好きなんだ。飲み物はノンアルコールのスパークリングワインでいい?」


「選択肢が思い浮かばないけどよ。そういや京都でも飲んだっけ」


 スパークリングワインを口に含むと、トマトの甘さやチーズのコクがグッと広がって口の中で料理が完成していくようだ。


「ほれ、次は俺の番だろ」


「おぉ……自然にそうくるとは……銀次もわかってるね」


 少し照れながらも嬉しそうに口を開けるソラ。


「ま、流石にな」


 箸で摘まんだトマトとチーズを突っ込むが、ソラの口には大きくてハムスターの様に必死に食べている。


「むぐ……もうちょい、優しく食べさせてよ」


「悪い悪い、ククク」


「あー、笑った。もう、次はボクだねあーん」


 食べさせ合ってカプレーゼを食べ終えると、次にメイン料理が運ばれて来た。大皿でタコとパセリがふんだんに乗ったパスタだ。オリーブオイルとニンニクの香りが食欲をそそる逸品である。ソラが取りわけて大盛を銀次の前に置く。


「おぉ、タコか。いい匂いの正体はこのパスタか」


「お魚屋さんでタコが安かったら買ったんだ。ベースはペペロンチーノだからあくまでイタリア風ね」


「めっちゃうまそうだ。いただき――」


「待った!」


「な、なんだよ」


「料理しているうちに気づいたんだけど、ニンニクいっぱい使ったから先に……」


 そっとソラが顔を寄せて銀次の頬にキスをした。


「いつもかっこいいけど、今日の銀次はめっちゃかっこよかった」


「……」


 銀次フリーズ。ソラはしてやったりと満足げに自分のソラにパスタを取り分ける。


「じゃ、召し上がれ」


「……いただきます」


 ここで何を言っても、なんとなく負ける気がする銀次である。ちなみにデザートはお手製の桃のゼリーだった。

 片付けをして、口臭をリセットするため二人で洗面所で歯磨きをしてソファーで休憩。当然のように自分の歯ブラシがあることにツッコミを入れたくなる銀次だったが、ソラが上機嫌なのでよしとした。


「ふぅ、食った食った」


「今日は疲れたねー。下地の塗装は明々後日だよね?」


「あぁ、工場からその日に作品を塗装ブースに送ってもらうように手配は済んでるぜ」


「ここまでは銀次に頼り切りだったからね。ここからはボクの番だよ」


「だな。さて、宿題は終わっているし、バイトも無い。ソラは明日なんか用事あんのか?」


「無いよ。んー、ボクの人生でこんなにのんびりした夏休み初めてかも。愛華ちゃんといると全国津々浦々回ってたし。なんなら海外も行ってるし」


 銀次に体重を預けながら抱き着いて甘え中のソラである。


「そりゃ大変だな」


「明日はのんびりしようよ。この前言った喫茶店とか行く?」


「あそこか、いいな」


 などと話していると銀次のスマホの着信音が鳴る。画面を見た銀次の表情が少しずつ変わっていく。


「どしたの?」


「斎藤からだ。そういや、野球部に飯の差し入れする約束してたなぁ」


「そういえば、学校でそんなこと話していたよね」


 まだソラが女子であることを、カミングアウトしてすぐの時期にそんな会話をしていたことをソラは思い出す。


「予選二回戦で負けたから、夏合宿に入るんだとよ。偶に差し入れとかしてたしな。その延長で夏合宿の時は昼飯作って欲しいってさ」


「ちなみに斎藤君が銀次と仲良いのって野球繋がりだったりするの?」


「まぁな、なんなら小学校から県選抜とかで偶に会ってたしな。俺の相方がケガしたこととかも大まかには知ってるよ。先輩にも同じ中学の人もいるしな」


「そうなんだ。じゃ、明日は合宿のお手伝いだね」


「付き合ってくれんのか?」


「銀次の手伝いなら参加してもいいって言ったしね。何作る?」


「カレーだな。学校の家庭科室を使えるって話だ。業務用の炊飯器もあるから米だけは用意できるんだよ。朝のうちに業務用スーパーで材料買えばいいだろ」


「人数は?」


 気になる物を見つけた猫のような表情のソラ。ちょっと楽しくなってきた二人である。


「だいたい20人前だ。まっ、二人で朝から仕込みをすりゃいけんだろ。一応、部員の母親が二人ほど後から来てくれる予定だ。予算は部員で負担だからいくら使ってもいい」


「四人がかりなら大丈夫だね」


「じゃ、明日は早起きすんぞ」


「うん」


「斎藤には連絡入れとくか」


 ソラと一緒に朝市で行くと連絡する銀次。そして二人は明日のカレーについて話し合いを始めるのだが……そのメッセージにより野球部に激震が走る。


 栄明高校野球部。


 進学校の野球部であり、強豪とは呼べないまでもしっかりと練習をして勝利を目指している野球部である。そんな野球部には一つの特徴があった。それは……。


 全部活動でオールブラックス(旧:遠目から髙城ちゃんを見守る会)のメンバーが最多ということ。斎藤を始め一年男子はもちろん、二年三年も多くの部員がメンバー……というか三年のごく一部を覗いたほぼ全員がオールブラックスのメンバーである。一年男子から徐々に上級生への普及が進んだ形ではあるが、その結束は追随を許さない。銀次と楽しそうに学校生活を過ごしているソラをひたすら見守り、その二人を邪魔する者達を決して近づけぬ鉄壁の集団でもあるのだ。


『明日、髙城ちゃん参加決定。手作りカレーあり』


 斎藤より駆け巡る一文。


 あるものは歓喜し、あるものは恐悦し、あるものは随喜の涙にむせんだ。

 その中で、静かに覚悟を固める者達が数名いた。彼等は銀次とソラの夏祭りデートを目撃した者達である。大会前であるにも関わらず軽い気持ちでソラの浴衣姿を見て、夏休み前とはレベルの違うあまりの可愛さと尊さに撃沈した経験から彼等は察していた。明日の戦いは命に関わると……。

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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
決戦前夜のタイトルにニンニクたっぷりの料理••• ソラちゃんの決戦とは差し入れの後の 銀次君からのさし•••ごめんなさい••• 脳がショートしてしまいました。 爽やか青春ストーリー次回も 楽しみにして…
糖分の吸収を抑えるには…難消化性の食物繊維とかかな。カレー食った後にキャベツでもドカ食いして、味覚はにがりで誤魔化そうか。しっかり対策しないと血糖値スパイクで意図せずドカ食い気絶部みたいになりそう…。
>その理由がまさか溶接をしている姿を見てソラが自分に惚れ直しているとは夢にも思っていない。 >当然のように自分の歯ブラシがあることにツッコミを入れたくなる銀次だったが とうとう地の文まで惚気が侵食し…
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