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事前準備ってのはいつも大変

 翌日、銀次とソラは朝から工場の作業場へ入っていた。


「朝からここを使って大丈夫なの?」


「当然社長には許可を取ってるぜ、それに占拠するってわけでもねぇしな。とりあえず、パーツの確認をすっか。一応バリ取りはしているけどよ」


「うん」


 ソラはツナギを着て、銀次は溶接用の防護服を着ている。いよいよ芸術祭の為の作品を実際に作る工程に入るということでソラはワクワクが隠せない様子だが、銀次は少し緊張している面持ちだった。

 段ボールからパーツを取り出す。ステンレス製のパーツは店に並んでいる物のように鏡面のような輝きではなく最低限の光沢を放っているといったかんじだ。支柱とそれに取りつけるパーツを大小合わせて20程取り出して設計図と照らし合わせていく。ソラが暗記しているとはいえ、確認作業は大事なことだと銀次は手順を守った。並べられたパーツを見てソラは満足そうに頷いた。


「パーツもばっちり、綺麗だね。工場で作業できるなんて、感無量だよ」


 工場好きなソラはずっとテンションが高い。


「多少予算はかかるが、ステンレスにして良かったかもな。じゃ……洗うか」


「洗うの?」


「縁は滑らかにしてっけど、それ以外は送られたまんまだからな。表面処理をしないといけないんだよ。こっからは薬品とか使うから気を付けろよ」


「わかってるって、こういう薬品は絵でも使うから大丈夫」


 二人は薬品をスポンジにつけてパーツについている油分をしっかりと拭きとる。


「んじゃ……」


「いよいよ溶接だね」


「いや、こっから表面を足付けする。後で絵を描くための処理だな」


 沈痛な面持ちで銀次はサンドペーパー、すなわち紙ヤスリと電動ディスクを取り出した。


「これでひたすら表面を傷つける」


「こんなに綺麗なのに……」


「これをしないと、後で下地がうまく乗らないんだよ。ほとんどは電動だが、小さいやつは手作業だ。鉄と違ってステンレスは大変だからな。覚悟しろよ。正直、いっちばん面倒なやつだからな」


 遠い眼をする銀次。過去に似たような作業をしたことのある為、この作業の面倒さをわかっている。

 しかし、この作業をするとしないのでは出来上がりに雲泥の差があることも彼はわかっていた。


「……が、がんばる」


 パーツの洗浄を終え、この足付けと呼ばれるパーツの表面を荒くする作業を始めたのが朝の10時、そこから作業を始めてあっと言う間に昼のチャイムがなる。一旦休憩すると言う事で休憩所に移動した後、ソラの口からは魂が出かかっていた。


「あっっづい……」


「無理すんなってのに。まだ半分も終わってねぇぞ。まぁ、思ったよりも電動でいけそうだから後半はすぐに終わるから心配すんな」


 作業が始まった工場の中は灼熱地獄である。二人がいる作業場はまだ涼しい方とはいえ、冷房では抑えきれない熱気の中でのマスクをつけた作業は体力のないソラにはダメージが大きかった。


「こんなに大変だとは……油絵を初めて描いた時なんかもすごい手間だとは思ったけど、塗装や溶接も大変だったんだね。彫刻とはまた違った大変さがあるよ」


「金属が相手だとどうしても力仕事になるからな。しっかり水分補給したらもうひと踏ん張りすんぞ」


「お~う……」


「元気ねぇな」

 

 休憩を終えた二人が作業場に戻ると、作業着姿の源一郎が二人が磨いたパーツを手に持って眺めていた。


「ゲンさん。お疲れ様。見てくれてんのか」


「こ、こんにちわ」


「おう、やってんな。ちょっと見てたが、いくつかはやり直しだ」


「えぇ!」

 

 ソラが愕然した声をあげる。


「……まぁ、そうなるとは思ってた」


「こういうのは慎重になりすぎるくらい慎重にやらねぇとだめだ。仕上げ磨きが足りねぇよ。銀次、もう一つ細かい粒のディスクで磨きな。声をかけりゃ若いもんがこれくらいはすぐにやるから任せるかい?」


 源一郎がそういうが二人は首を横に振った。


「俺達がやんなきゃ意味ねぇんだ。ありがとなゲンさん。また確認してくれたら助かる」


「うん。ボク達で頑張ります」


「そうかい。気合入れな」


 そこから源一郎の指導のもと足付けを徹底的に行い。合格が出たころには二人の体力は限界を迎えていた。パーツを丁寧にしまった後、二人はふらふらになりながら桃井宅に戻る。


「……銀次、シャワー貸して」


「……おう」


 彼氏の家でシャワーを浴びるという際どいイベントの割には一切の色気は無く、順番にシャワーを浴びた二人は居間に倒れ込んだ。


「こんなに大変だとは思わなかった」


 到底人に見せられない顔をしているソラ。


「……俺もだ。バイトでやるような配管と違って仕上がりの質が高いと大変だったぜ」


 ちなみにソラは体力的な問題で銀次に無理やり休憩を挟まされているので、作業量的には銀次の方が多い。灼熱の工場の中、防塵マスク&作業服で延々とパーツを磨く作業はソラには過酷だった。銀次はある程度慣れてはいるが、いつもより質を求められる作業ゆえに神経を多く使ったゆえの疲労である。


「明日は午前は作業場が開いてないから、午後から作業だな」


「うん、やっと溶接だよね。他に作業ないよね?」


 二人共仰向けになったまま明日の予定を確認する。


「無い、固定をして溶接だ。だけど、パーツの配置を細かく確認しないとな」


「了解。えへへ、楽しみ」


「そういや、一応塗装ブースはレンタルしたが、ソラは塗装できんのか?」


「一応できる……けど金属にしたことはないから、様子を見ながらする予定。大事な所はやっぱり筆かな」


「仕上げの塗装はするのか?」


「もちろん」


「じゃあ、下地と大まかな部分をスプレーにして、仕上げを筆塗りとトップコートか、ムラができるけどいいんだよな?」


「うん、むしろそれを出したいんだよね」


「まっ、綺麗な塗装なんて俺もできないから。どう頑張ってもムラのある作品になりそうだな」


「そういうのも味だと思うんだよね。むしろ塗装のあらを使った作品にしたいな」


 なんとなく話しながら銀次の手をニギニギするソラ。蕩けたままソラが銀次に近づいて、顔を近づける。二人の唇が近づき……。

 

 そしてそれを廊下から無表情で見ている哲也。


「て、テツ!」


「わわ、テツ君!」


「……お疲れ様。外した方がいい?」 


「「しなくていいからっ!」」


 疲れているからといって、油断はしないようにしようと心に刻む二人なのだった。

次回は月曜日更新予定です。


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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
2人で作業パート良いですねぇ。 しかし銀次君は仕事をよく分かっていますね こういった物作りだけではなく仕事は 段取り•下地作りが後から目に見えて 結果に出て来ますからね。 年を取っても手を抜く人間がい…
今回は銀次のターンですね。最近はずっとソラのターンでしたし、ハイスペ彼女持ちとしてはこういうところで少しずつ活躍していかないとね……(苦笑) そして空気を読めなかったテツ君。いや、あそこで空気読んで…
普段見守り隊がダメージくらってるのに テツ強い… これくらいじゃないと家族になれないのか…
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