パーティー前日②
絵を見て感慨にふける銀次に、ソラが聞こえなかったのかとズイっと顔を寄せる。
「銀次になら喋れるし……」
「かもな。ほら、大事にしろよ」
差し出した絵をソラは受け取らず、手のひらで押し返した。
「あげるよ、銀次に持ってて欲しいんだ。ほら、ボク達のキッカケの一枚だし」
目線は合わせず、それでも強い気持ちを込めてソラは言う。
「実はめっちゃ欲しかった。ありがとなソラ」
「い、いいってことよ」
銀次の喋り方を真似して、そう言うソラの頭を銀次はワシワシと撫でた。
「じゃあ、大事に抱えて帰るぜ」
「あっ、待って。せっかく入ったんだから……梱包手伝って、一人だと面倒なんだよアレ」
横を指さす。そこには海を描いた淡い色調の絵が一つ。
「あぁ、なるほど……」
明日のパーティー用の絵を二人がかりで梱包する。最終的に段ボールに入れられた絵を前にソラは渋い顔をしていた。
「どうした?」
「いつもお願いする業者はもう閉まっているし。ボクは明日愛華ちゃんの家に行ってメイクしないとなんだよね。持っていくのも邪魔になるしどうしようかなぁ」
「……ふぅ~ん」
意味ありげな銀次に首を捻るソラ。
「どしたのさ?」
「じゃあ、俺が会場に運んでやんよ。朝一番で届けりゃいいんだろ?」
「そうだけど、街の中心だから電車乗らないといけないよ。A2(420ミリ×594ミリ) とは言ってもわりとかさばるし」
「いいさ、たまには街で遊ぶのも悪くねぇ。この俺が責任を持って運ぶぜ」
正直な所、下手な運送会社に頼んで絵を傷つけられるよりは銀次の方が安心できる。ソラとしては渡りに船だった。
「じゃあ、お願いするよ。えっと、じゃあどうしよっかな。これ、会場の住所と入る時に必要なパスだよ」
「パスって……ソラはいらないのか?」
「愛華ちゃんと一緒にいくから大丈夫。じゃあ、よろしくね。寝坊しないでよ」
「任せとけ。早起きは得意だ。じゃあ帰るな」
「うん……ま、待って」
再び服の裾を持って引き止められる。
「またか、何だよ?」
「せ、折角だからお茶とか……コーヒーとか……なんなら晩御飯作るし」
「哲也が飯用意してくれてるしな、それに上の階に行ってもいいのか?」
銀次の言葉にソラは目をぎゅっと閉じて何かを考える。
「だ、ダメかも」
「作業場で食べるのものなぁ、そういや……気になってたことがあんだが、なんか肉の匂いがしねぇか」
鼻を鳴らす銀次、作業部屋には色々な匂いが混じっていたが、その中に不思議な匂いがしていた。
「へぇ、鼻がいいんだね。ふふーん、折角だしクイズだよ。どれが匂いの元かわかる?」
ムンと腕を組んで、偉そうにするソラの挑発に銀次も乗る。
「面白そうだな。乗った、多分こっちのへんだな……」
クンクンと匂いを辿る銀次、その先には作業机がありその下には無理やりに押し込まれたツナギがあった。
「あ”っ、そこは、ちょ、まっ!」
「ツナギか……クンクン、汗の匂い、これじゃないな」
「みゃ”ああああああああ”」
涙目で突撃してツナギを奪い取るソラ。勢いのままに銀次は飛ばされる。
「ぐぇ」
「バカバカバカ、何してんのさ。に、匂いを嗅ぐなんて!」
奪ったツナギを抱きしめ、涙目で怒るソラ。
「いや、クイズって言ったのはお前だろ。男同士なんだし、別に汗の匂いなんて……」
「気にするよ。うわぁ、洗濯機まで持ってけば良かった。もう、銀次のバカっ、知らない。帰って!」
「あん? 肉の匂いのクイズはどうなんだよ?」
「油だよ、机の中にある乾性油の匂い! ほら、絵も忘れずに持って」
「お、おう、そんなに怒るなよ」
「知らないっ!」
絵を渡され、そのまま家を放り出される銀次。玄関前でポリポリと頬を掻く。
「んな怒ることねぇだろうに……まっ、明日やることもできたしさっさと帰るか」
そう言って、銀次は絵を預かり抱えながら家に帰る。そして、家につくと父親のタンスをひっかきまわしスーツを一着取り出したのだった。
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ジャンル違いではありますが、ハイファンタジーでも連載しております。
作者自身は面白いものを書いていると本気で信じています。下記にリンクを張っていますので、もしよろしければ読んでいただけたら嬉しいです。
『奴隷に鍛えられる異世界』
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