うち、泊まってく?
「ごめんよソラちー!」
「もういいってば。ちょっと恥ずかしかっただけだから……」
ソラの腕を掴んで謝るスズの頭をソラが撫でる。それを微笑ましげに見ている銀次にズイっとムツこと六実とツッキーこと津久井が近寄る。二人共浴衣を着ており、ムツは手毬の柄でスレンダーな体型に浴衣が似合っている。ツッキーは薄紅色の浴衣で金髪にピアスだが、浴衣に合わせて髪をアップにしており今時といった格好だ。
「あの、お兄さん? ソラちゃんの彼氏っすよね」
「浴衣、似合ってますね。大学生ですか?」
学校ではクラスの女子から無視されている銀次である。ソラと付き合ってからは多少風向きは変わっているが、それでも同年代の女子と話すことに慣れておらず。きょとんとしてしまう。どうやら、二人は銀次を見て年上だと思ってしまったようだ。
「ええと……いや、違うぜ。スズと同じならそっちも高一だよな。じゃ、タメだ」
「同じ年!? へぇ、貫禄あるから年上かと思った。どこ中?」
「イメージと全然違った。勝手に線の細いイケメン想像してた……ね、彼氏さん。ずばり、うち等の浴衣似合ってる?」
「中学は近くの所、二人共浴衣は似合ってると思うぜ」
後輩の女子と話す感覚で気軽に返答する銀次だったが、ムツとツッキーは一歩引いて背を向けて小声で会話をする。
「……普通に女子を褒めれるタイプの男子だぁ」
「そりゃ彼女持ちだからね。女子には慣れてるっしょ。うわぁ、ヤバイ。正直タイプだわ」
おでこに手を当てて、照れるムツ。
「ムツはああいう昭和顔に弱いよねぇ。でも残念彼女持ちです。大人しく褒められた言葉だけ土産にするしかないのだよ」
「わかってるって、いやぁ、でもちょっとくらい……ヒッ」
無表情でソラが二人を睨みつけていた。後ろでスズが恐怖に震えている。
「……人の浴衣デートに横入りして、ボクの彼氏にちょっかいかけてるの?」
美少女って無表情になると、人間味なくなってマジで人形みたいになるんだぁ。とか他人事のように感じるムツとその背に隠れるツッキー。
「ち、違うって。マジで、男子からの感想が知りたかっただけだから」
「そうそう、ムツはまんざらでもない感じだったけど。うちはタイプ違うからっ!」
「ツッキー、そこで裏切るの無しでしょ普通っ!」
「お、落ち着くのだソラち。銀次も銀次だよ、彼女の横で他の子の浴衣姿を褒めるのはどうかと思うよ、うん、これは痛み分けということで……」
「銀次は悪くないよ。銀次は優しいから……だから二人が悪いんだよ」
首を少し傾げたままで歩み寄るソラに冷や汗をかいて後ずさる二人。
「「ヒィっ!!」」
幽鬼のように歩みよるソラの手を銀次が掴む。
「俺が軽率だった。悪いなソラ」
人形に血が通うように頬を染めるソラ。
「ちょっとふざけただけだよ」
銀次の腕を掴み返すソラ。ふざけただけと言いながら、銀次の腕を胸に抱いて離さない。
「いやいや、今の殺気はガチだったよ」
「……スズ」
「じょ、冗談だよ後で色々教えてね。ほら、ムツ、ツッキー、行くのじゃ。あー、あたしも彼氏ほしー」
「ちょっとスズ、引っ張らないでって」
「アハハ、またねソラちゃん」
ムツとツッキーの間に入って二人の手を取って去っていくスズ。姦しい女子のやり取りに息を吐く銀次。
「賑やかでいい奴らじゃないか」
「……銀次は女子に対してちょっとガード甘いと思うんだよ」
「そうか? 普通にしているつもりなんだが……」
「……やきもち焼きはキライ?」
腕を抱いたまま上目遣いをするソラに銀次は笑顔で返す。
「いいや、嬉しいもんだ。……そういや、スズが来て遮られたけど縁日遊びの罰ゲームどうすんだ?」
「あっ、そうだった。でも、そろそろ花火だから移動してから話すよ」
人ごみが移動し始めている。花火の時間が近づいているようだ。
「そうだったな。じゃあ、行くか。いい場所知ってんだ。案内するぜ」
「うん」
川から伸びあがってくるような風は夏の熱気を少しだけ遠ざける。でも抱かれた腕は熱い。柔らかな感触と柑橘の匂いが風にのって銀次の鼻腔をくすぐる。
「ソラ、歩きづらいから握り直していいか」
「えー、この方がいいのに」
「間に合わないだろ」
一度腕を解放して手を握る。ソラが横を向くと少し照れた銀次の顔。視線を感じて銀次もソラを見る。
体の一部が触れて、視線が絡むだけで胸がドキドキとする。この人の全部が愛おしい。
「うーん、やっぱりボク、独占欲強いかも」
「いいじゃねぇか。俺だって、それなりに独占欲あると思うぜ」
「じゃあおあいこだね」
「あぁ、おあいこだ。っと、この辺だな。階段があって下に降りられるんだよ」
「ほんとだ。わかりづらい」
人の流れを外れて、草むらに隠されているような階段を降りる。土手下にも人はいるものの確かに上よりはゆとりがありそうだ。照明弾があがり、それを合図に花火が始まった。規模が大きいわけでないので一発一発が大事に打ち上げられているようだ。下から見上げる花火は牡丹の花のように見える。
「ちょうどいい時間だったな」
「うわぁ、音が凄い。綺麗」
見上げるような角度で夜空に咲く花火を見る二人。ソラは銀次の肩に頭を乗せる。
花火の音が響く中だけど、声はしっかりと聞こえるほど二人の距離は近い。
「ねぇ、銀次」
「何だ?」
「罰ゲームというかお願いなんだけど」
「さっきの話の続きか。俺にできることなら何でもいいぜ」
「今日は……ずっと一緒にいたい。うちにお泊りしてよ」
「……不味いだろ」
「い、一緒にいるだけだから。このまま別れて、一人で家にいるのが寂しいから。傍にいてくれるだけでいいから……」
ソラの頭を抱き寄せる。
「……テツに連絡しねぇとな」
花火のように華やかにソラが笑みを浮かべる。
「やった。ありがと、大好きだよ銀次」
「ったく……」
理性が持つだろうか。と、花火を見ながら心配する銀次なのだった。
次回は月曜日更新予定です。
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