罰ゲームの行方
意気揚々と二人が向かったのは金魚すくいだった。カラフルな電飾の屋台で水色の水槽に金魚が泳いでいる。
「こうしてみると色鮮やか綺麗だね。金魚は持って帰るの?」
「金魚飼うのは大変だし、最近はリリース前提の店も多いぞ」
ちょうど、人がはけたので二人が前に出る。
「いらっしゃい。うちの金魚は生きがいいよっ!」
威勢のよい声が掛けられる。が、銀次は怪訝な顔をしていた。なぜならそこに座る人物に見覚えがあったからだ。
「……なんでここにいるんだ。斎藤?」
そこにいるのは銀次の友達にして野球部の斎藤だった。しっかりと日焼けした肌にねじり鉢巻きが妙に似合っている。
「色々あってな。本来はここは俺の持ち場じゃないんだが……」
「こんばんわ斎藤君」
声の勢いにビビり、銀次の後ろにいたソラが出てくる。知った相手だとわかって安心したようだ。
「……ガフッ!」
斎藤が急に咳き込む。
「大丈夫?」
「ハハ、さては浴衣姿のソラを見てびっくりしたんだろ?」
「えぇ……そんなに変かな?」
「似合ってるって意味だよ。な? 斎藤」
銀次は茶化すつもりで言ったのだが、斎藤は神妙な面持ちで頷く。
「正直ここまでとは……しばらく見ない間に凄いことになってるな。芸能人とか生で見るとこんな感じかって思うよ。いや、普段の髙城ちゃんを知っている分。衝撃はより上かもな」
「真面目に答えられるとは思わなかったぞ。気持ちはわかるが……なんか変だぞお前」
流石に様子がおかしいと銀次が、身を乗り出す。
「野球で忙しいお前がここにいるのも妙だしな。なんかあったか?」
「いや、大したことじゃないさ。ただ、銀次。気を付けろよ、髙城ちゃんが可愛すぎて噂になってんぞ……仲間はほぼ壊滅でこれ以上は動けない。村田の奴なんて笑顔のままでピクリともしねぇ……」
後半はボソボソと言ったので二人には聞こえない。
「そっか。まぁ、そうなるかもなとは薄々思ってた。忠告サンキュな。彼氏としてソラは守るぜ」
「噂って……絶対ボクのことじゃないよ。それより、斎藤君。金魚すくいしてもいい?」
ソラは変なリアクションをしている斎藤を置いて金魚すくいに意識を移したようだ。
「まぁ、銀次のことも話題になってるようだし大丈夫ではあるだろうけどな……あぁ、せっかくだやってくれ。300円でポイ二つだ。持ち帰りすんなら二匹まで、器は手に持って水面につけるのもダメだ。リリースすんなら飴玉渡すぞ」
「リリースでいいよな」
「うん」
というわけで金を支払い斎藤から金魚をすくう為のポイと器を渡される二人。ペロリと舌を出したソラが銀次を見る。
「よーいドンでスタートだよ」
「おう。いつでもいいぜ」
構えた二人が声を揃える。
「「よーいドン!」」
二人共慣れた手つきで金魚すくいを始めた。
「テツと勝負したこともあったが、負けたことはないからな。慣れない相手にゃ負けねぇよ」
銀次はポイの端を上手く使い紙へのダメージを最小限で金魚を掬って見せる。淀みない手さばきであり、テンポよく器に金魚が溜まっていく。
「むむ、不器用そうな顔なのに……」
「顔は関係ないだろ」
「でも、ボクもコツが掴めたもんね」
ソラは持ち前の観察力をいかし、泳ぎの遅い金魚や隅に移動している金魚に狙いを絞り効率的に救っていく。銀次ほどではないが、ポイの扱いも上手い。
ポイが破れ始めると、二人は本気で集中し始め真剣な表情で交わす言葉も少なくなる。そして、二人のポイが破れたのはほぼ同時だった。
「チッ、焦って破っちまった」
「大物を狙っちゃったなぁ」
器の中身を確認すると、僅差で銀次のすくった金魚が多かった。金魚を水槽に戻し斎藤から飴玉を受け取る。銀次は得意満面といった具合に胸を張った。
「いい勝負だったが俺の勝ちだな」
「悔しい……慣れるまでの時間の差で負けた気がする……もう一回!」
「並んでるからダメだろ。他の遊びやろうぜ。じゃあな、斎藤」
「あぁ、さっき言ったこと忘れんなよ」
「わかってるって」
「勘違いだと思うけどなぁ。じゃあね、斎藤君」
浴衣の襟を正しながら手を振るソラを見て斎藤は天を見上げた。
「ガフゥ……お、おう。二人共、気を付けてな。祭りを楽しんでくれ……後は任せたぞ……」
二人は金魚すくいの屋台を後にする。去り際に後ろから何人かが斎藤を支えていたような気がするが、すぐに人込みに紛れて見えなくなった。
「あいつ、最後にまた咽てたぞ」
「大丈夫かな?」
「体の丈夫さは折り紙つきだ。心配しなくてもいい。それより、他の遊びもやるぞ。罰ゲームあるんだよな。まずは俺の一勝だな」
「そうだった。次は負けないからね」
斎藤の不可解な態度は置いて、縁日遊びを楽しむことにした二人。
射的では体を限界まで前のめりにした銀次がおかしな人形を撃ち落とし、輪投げではソラがノーミスを叩きだす。本気で勝負をして時には本気で悔しがり、時にはお互いを応援する縁日遊びに二人は熱中する。屋台から屋台への短い距離の移動でも二人は手を繋いで楽し気に勝負の内容を振り返っていた。
一進一退の攻防が続き、最後に残った縁日遊びは型抜きだった。
「伊達に溶接のバイトやってないからな。これは俺の得意分野だ」
「ボクだって、彫刻とか絵で細かい作業するから得意だよ。じゃあこの一番難易度の高い。ドラゴンで勝負しようよ」
「髭の部分とか細すぎだろ……いいぜ。これで勝負だ。親父、ドラゴン2枚」
「あいよ。湿らすのは禁止だからな」
「わかってるって」
箱にはいった型を渡される。屋台の横に設置された作業机で二人は慎重に箱から型を取り出した。
「……」
「……」
無言で爪楊枝で型を抜く二人。ソラが一瞬横を見ると銀次の方が少し先に進んでいた。
「ぎ、銀次。罰ゲームの内容決めてなかったよね。何するの?」
「あっ? そういや、考えてなかったな……ダチと遊ぶときは何か奢るとかだが……」
「全部奢っていいの!?」
嬉しそうなソラに冷や汗が流れる銀次。
「却下だ。ま、何でもいいさ。こういうのは罰ゲームがあるってことが大事だからな」
「……じゃあ、内容はボクが決めてもいい?」
「いいぜ」
「わかった。本気出す」
「悪いが、俺が大分優勢……」
ツカカカカッカカカカ。
「嘘だろ!! って、あぁ!」
急激に集中力を増したソラの様子に焦り銀次のドラゴンの角が折れる。
そして、ムフーと鼻息荒く完成したドラゴンを差し出すソラなのだった。二人は屋台が並ぶ場所から花火が良く見える場所を目指して河川敷を歩いていた。
「……んで、罰ゲームなんだ? 何でもいいぞ」
「えっとね……銀次。あの、ボク……」
ヘーゼルアイがにじむように揺らぐ。ソラが銀次の手をにぎって口を開いた瞬間。
「あー、ソラちと銀次。やっと見つけたっ! 会えるかなーって探してたんだよっ」
「これがソラちゃんの彼氏っ! えっ、普通にカッコイイ」
「ムツのタイプっぽいよね。ちゅーか、ソラちゃんの浴衣エグっ、可愛い。写真撮っていい?」
スズ、ムツ、ツッキーと女子高のギャルたちが浴衣姿で二人の元に駆け寄る。
「スズと……ソラの知り合いか?」
「……」
「えっ、もしかしてタイミング悪かった……ごめんよソラちー!!」
プクーと頬を膨らませるソラなのであった。
次回は月曜日更新予定です。
いいね、ブックマーク、評価、していただけたら励みになります!!
感想も嬉しいです。皆さんの反応がモチベーションなのでよろしくお願いします。