暗躍する者達
※※※※※
「……連絡を回せっ! 緊急事態だ!」
「すでに終わっている。吹奏楽部が校内の同志にも伝えるそうだ。無論、秘密裏にな」
時は浴衣デート前日に遡る。高校のグラウンドにある野球部の部室にて、それぞれの部のユニフォームに身を包んだ男達が神妙な顔で話合っている。野球部の斎藤、卓球部の村上が夕日が差し込む部室の中でスマホを握りしめている。ギィと錆びた鉄がこすれ合う音がして二人が入り口を見ると帰宅部の田中が開けた扉にもたれかかっていた。
「確かなのか? これは一大事だぞ?」
「田中……お前、どうして夏休みにこの場所へ……」
「俺のことはいい、今は一次情報の信頼度を確認したい」
田中の問いかけに斎藤と村上は顔を見合わせ頷いた。
「これだ」
斎藤が差し出したのはスマホの画面。そこには銀次とのやり取りが表示されている。
『斎藤:明日、河川敷で花火大会があるだろ? 大会前だが息抜きしたくてな、何人か男子で集まって遊ばないか?』
『銀次:悪い。その日は先約があるんだ。大会頑張れよ、合宿は顔出すぜ』
と男子同士の簡潔なメッセージが書かれている。田中は画面を見て眉を顰める。
「これが? どこにもそれらしいことは書かれていないじゃねぇか」
「馬鹿野郎田中。お前は何もわかっていない。このメッセージを読み解けば髙城ちゃんが花火大会に来ることが誰にでもわかる。もしかしたら……浴衣姿かもしれん」
その言葉を聞いて、部室が揺れる。バタバタと音がして数人が扉の前に立っていた。どうやら田中の後ろで聞き耳を立てていたらしい。
「答えろ斎藤! なぜそう思う! 事と次第によってはこのクソ忙しい夏休みの部活中に俺達は時間を作る必要がある!」
「お前は帰宅部だろ?」
村上の指摘を無視して詰め寄る田中。ちなみに夕日が差し込む窓からも人影がちらついている。灼熱の金管を操る吹奏楽部が熱気を伴い集合していた。その中には女子も交じっている。
「銀次はああ見えて付き合いの良い奴だ。もし、男と花火大会に行くならば『先約はいるから、合流してもいいか?』と答えるはずだ。しかし、こうして断って来た。つまり……男子でない誰かと一緒に行くってことだ。相手は言わずともわかるだろう……髙城ちゃんだっ!」
斎藤の表情は窓から差す夕日のせいで逆行であり見えない。しかし、その確信を孕んだ声音にいつのまにかできていた周囲の人垣は感嘆のため息を漏らす。
「それだけじゃねぇ……花火大会……夏祭り……浴衣の可能性すらある」
たまらず一人の女生徒が田中を押しのけて身を乗り出す。
「桃井君も浴衣だったりするのかしら!」
「髙城ちゃんは銀次の奴の世話するのが大好きだ。デートならば喜んで準備をしている可能性は高い……」
「ッ!! ……今すぐに祭り関係者を洗って潜入できるか確認するわっ! お爺ちゃんが市議だからコネはあるのっ!」
女子達が凄まじい速度で走り去っていく。
「なんで銀次モテてんだ? 嫌われてなかったっけ? というかさらっとすごいこと言ってなかったか?」
「まぁこの学校。家が金持ちっての多いしな……」
「銀次は四季姫の取り巻きの一年女子からは蛇蝎ごとく嫌われているが、髙城ちゃんの為に憎まれ役を買ったことはすでに広まってるからな。割と人気だぞ、真面目だし、髙城ちゃんと付き合うようになってからは笑うことも増えたから、普段の強面とのギャップにやられた層が一定数いるらしい」
「マジか、許せねぇ銀次……タダでさえ髙城ちゃんと付き合っているのに……」
男子の間でヒソヒソと銀次へのヘイトが溜まるが斎藤が一括する。
「止めろ、俺達は銀次と一緒にいて幸せそうにしている髙城ちゃんを見守ると決めたはずだ! 今は、久しぶりの髙城ちゃんを見る機会を最優先に動く! もし、ナンパ野郎が近づこうものならあらゆる手段を持って排除だ」
「今からフォーメーションの確認を含めた当日の動きを確認する! 当日は缶コーヒーを忘れるな! 浴衣姿の髙城ちゃんの攻撃力は想像もつかん」
斎藤と村上の指示に徐々に増えていた『団員』達が大きく呼応する。
「「「おぉおおおおおおおおう」」」
彼らの名はオールブラックス。人見知りのソラを離れた場所から見守る集団であり、ある意味この学校で最も強い結束を持つ一団である。
しかし、彼らは知らなかった。彼らの知るソラは夏休み前の彼女であり『今』の彼女ではない、そのことを思い知らされることになる……。
すみません。なんかこの場面だけで一話使ってしまいました。なので明日も更新します。
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