のんびりだらだら
清掃のボランティアが終わった翌日。ソラの家のソファーで銀次が寝転がって本を読んでいた。
その横ではソラがブルーレイカット用の度の入っていない縁の赤い眼鏡をかけてノートパソコンに向かっている。銀次が本からソラに視線を移す。
「なぁ、ソラ。さっきも言ったけど手伝うぞ。それ、CADの調整だろ?」
そう言われたソラはパソコンを閉じると、眼鏡をかけ直して四つん這いで銀次に接近する。
「大丈夫。というかもう終わったし。繰り返し言っているけど銀次は昨日の部活で疲れてるんだからお休みしなよ。読みたかった本溜まってるんでしょ。今日はゆっくりすることがお仕事です」
「昨日の帰りにそうは言ったけどよ。人の家のソファーを占領して本を読むってのもな……」
「いいからいいから、じゃあ、ボクはお昼ご飯とおやつのチーズケーキの仕込みをしとくから。戻ってきたらマッサージしたげる。今日は久々の『尽くしたがり』だからね。ボクにとってお魂のお洗濯だよ」
「ほどほど頼むぜ」
「わかってるって。じゃあ、むぎゅ~」
ギュっと一瞬だけ銀次を抱きしめてソラはキッチンへ向かっていく。柑橘系の残り香に引かれるようにその背中をみると見るからに嬉しそうなので銀次としてはそれ以上言えず。読書を再開した。
※※※※※
昨日、部活での練習を終えた後、銀次は後輩達に質問攻めにあったのだが女子マネ達の協力もありなんとかその場を切り抜ける。見送りにきた女子マネ二人に校門で別れの挨拶をする。哲也は部活が終わる前に帰ったようだ。知り合いに、ソラのことで質問されるのを避けたらしい。
「ったく疲れたなぁ。サチ、ユキ、ありがとな」
「いえいえ。アイツ等、ソラさんが怖がってるってのにしつこく寄ってきて……後でシバきます!」
「こ、怖がってないし。ちょっと勢いに押されただけだし……」
中学生に助けられたのがちょっと悔しいソラだった。
「あはは、また是非来てくださいね。男子達も馬鹿だけど、先輩のこと待ってますから」
「おう。っと、そうだ良いこと思いついたぜ。ソラ、芸術祭のこと教えてもいいか?」
「え? もちろんいいけど」
何の話と首をかしげる二人のIINEに芸術祭のサイトのURLが送られる。
「それ、今度俺とソラで作品を出すからよ。時間があったら見に来てくれよ。つっても端っこに一つ並べるだけだけどな」
「えっ! すごい、絶対行きます」
「うん。わあ~二人で何か作るって凄いですね。流石高校生……」
「ヒロシ達にもよろしくな。じゃ、行くぞソラ」
「うん」
帰り道、繋がった影を踏むようにゆったり歩く二人。
「銀次、後輩に作品のことを伝えたのってどうしてか聞いてもいい?」
「わかってんだろ? まぁ、アイツ等にも心配かけたからな。俺もちゃんとやってるってとこ見せたくてな」
リハビリを頑張れたのは、仲間や後輩の支えがあってこそだった。だから伝えたかったのだ。相棒のように自分も立ち上がってやっているぞと。先輩として少しだけ、見栄を張りたかったのかもしれない。
そんな銀次を、ソラは優しいまなざしで見ていた。それは大人びているように見える。
「ボク、銀次を好きになって良かった」
「俺もだぞ。つーか、絶対俺の方が良かったし」
「それは違うね。絶対ボクの方が幸せだよ。だから、その分銀次を幸せにしたいな。あ~、なんか尽くしたがりがしたくなってきた。そうだ、明日はゆっくりしようよ。久しぶりにおもてなしがしたいな。疲れているでしょ?」
大人びた表情はすぐに引っ込み、いつものソラに戻る。
「別に……」
「グフフ、ボクの目は誤魔化せないよ。腰とか太ももとかすでにちょっと痛いでしょ。歩き方でわかるんだよ。明日はゆっくりしようよ。そうだ、銀次の家まで行ってあげよっか。何持っていこうかな……アロマオイルとか……」
訂正、若干エロい目をし始めたソラだった。
「待て待て待て」
あ、なんかこれヤバい。と思った銀次だったが時すでに遅し、すっかり尽くしたがりスイッチの入ったソラである。このままでは桃井宅で『尽くしたがり』が始まってしまう。普段から哲也には色々見られているが、流石にソラに身の回りのことをされるのは兄としての沽券に関わる。と今更に危機を感じた銀次はソラの家で、最近読んでなかった本を読むことを提案したのだった。
※※※※※
というわけで、ばっちり筋肉痛になってしまった体を休める銀次である。台所からはすでに良い匂いが漂ってきている。ソラが台所から戻って来る。
「ヘル〇オに鴨肉を入れてきた。運動の後はタンパク質だよね。その本が読み終わったらマッサージしてあげる」
「ダメ人間にされちまうな」
「えへへ~ いいんだよ~。全部、ボクが面倒見てあげるよ。うわっと」
半眼でニマニマするソラの頭を銀次がウリウリと撫でる。
「それじゃあ、つまんないだろ。やっぱ、二人で幸せになんねぇとな」
「それはそうだけど、やっぱり尽くしたがりは止められないよね。ボクも何か読もっと、おすすめある? それとナデナデおかわり」
撫でられながら横に置いた紙袋から銀次が持ってきた本を漁るソラ。
「ん、一巻で気持ちよく終わってるのがいいんじゃないか、それとか」
「……表紙がちょっとエッチじゃない?」
「そういうもんなんだよ」
「なるほど、こういうイラストもちょっと練習しよっかな」
そんなことを言いながら、起き上がった銀次の横にちょこんと座るソラ。そうして二人は並んで読書を始めたのだった。
次回も月曜日更新予定です。時間があったら追加で更新するかもしれませんが期待はしないでお待ちください。
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