何しているかな?
週末、マンションの一室で目を閉じる愛華をソラがメイクをしていた。
下地を塗り、丁寧に仕上げを施していく。筆を振るう表情は真剣そのもので、ほどなくしてメイクは終わる。
「……こんなものね」
鏡で出来栄えを確認した愛華はソラに向き直る。自信に満ち溢れたその表情、日本人離れした長い手足、ドレスが映える細い腰。なによりその蠱惑的な表情と仕草が人を惹きつける。
「ボクはもう帰っていい? 絵の方は先に会場へ送っているから」
「ダメよ。SNS用の写真を撮ったり、スケジュールの調整が必要なの。現代絵の権威も今日は来るから、近づきたいの。『私の絵』を売り込まないとね。スーツは持ってきているでしょ? 着替えて使用人控室に待機しておきなさい」
「あ……愛華ちゃんが描けばいいじゃん」
目線を下げて呟くような反抗。愛華は笑顔でソラに近づき顎の下に指を置いて自分を見上げさせる。
「そうね、私にはそれができる。でも貴方は違うわソラ……本当に醜い子。私だから評価されるの、アナタが絵を出しても誰も見ない。そうでしょ、だからアナタの絵を見てもらえるように私が使ってあげているの。もしかして……もしかしてだけど、絵が評価されているからって自分の手柄だと思っているの?」
「違うよ。あれはボクの絵じゃない。……ボクはああいう風には描かない」
乾いた音が響き、横っ面を叩かれたソラが倒れる。
「意見はいらないわ、私は謝罪を求めたの」
「……ごめんなさい」
「いいのよ、許してあげる。先に下に送迎の手配をしておいて。あと、顔が腫れると痛々しいから冷やしておきなさい」
ニコリと微笑んで愛華は部屋を出て行く。無言で立ち上がり荷物をまとめるとソラは洗面台横のタオルを濡らして顔を冷やした。メイク用の鏡を見ると、長い前髪と眼鏡をかけた自分が立っている。
メイク道具の中から口紅を取り出し、自分の唇に触れさせようとして止める。
「醜い子……か」
口紅をしまい、タオルを顔に当てて着替える為に別室へ向かった。
スーツに着替えて外に出たソラが運転手に愛華が来ることを伝え、下で待っていると愛華がやってきた。会場へ向かう車内で愛華は上機嫌な様子だ。
「ねぇソラ。今日、お父様が貴方にも会いたいって言っていたわ」
「こんな格好だけど?」
襟をつまむソラを見て愉快そうに愛華は嗤う。
「いいじゃない、馬鹿みたいで素敵だわ」
「……」
ソラは窓から外を見る。
「今、何してるかなぁ……銀次」
決して愛華に聞こえぬように気を付けて、そう呟いたのだった。
一方、都内某所のビルの中。目つきの悪い男が一人。
「意外となんとかなるもんだな。っと、すみません」
スーツを着た銀次が受付のスタッフに声をかける。
「今日のパーティーで使う絵を運んで来ました」
ニタリと悪人顔でそう言ったのだった。
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