期待してもいい?
「あいよ、刺身」
「「おぉ……」」
飾り切りされた笹の葉の上に盛りつけられた鯵の刺身を見て、二人から感動のあまり息が漏れる。
一緒に出された醤油に付けて、口に入れると。二人で顔を見合わせた。
「旨いっ!」「美味しい」
感想を聞いて、板前はニヤリと笑って次の調理の為に後ろに引っ込んだ。
銀次とソラは嬉しそうに味について語り合う。
「香いが強いし、食感がいい。鯵って言われてもわかんねぇな」
「うん、家で食べるのとは全然違う。煮切り醤油もいいよね、家でも作りたいけど余っちゃうんだよなぁ」
最近料理に凝っているソラは作る側の視点もいれて料理を楽しんでいた。
「美味しそうに食べるねぇ。魚なんか若い人は食べないでしょ」
女将がお茶を注ぎに二人の元へやって来る。
「結構食べますよ。二人で魚をさばいたりもしますし。まぁ、簡単な奴だけですけど」
「力が入る部分はやっぱり、ボクだと上手くいかないしね」
「あら、若いのに感心ねー。お似合いの夫婦になるわ」
「……っす」
「え、エヘヘ……ありがとうございます」
ちょっと嬉しそうな二人を見て、女将さんは深く頷いて後ろの常連にもお茶を汲みに回った。
ソラが銀次に身体を寄せる。
「夫婦だって?」
小声でそう囁く。口元をゆるゆるにして、頬に手を当てるソラが銀次を覗き込む。
「まっ、付き合ってるし、そう言われることもあるだろ」
なんてことないと言う風にしている銀次を見てやや不満げなソラが追い打ちをかける。
「期待とか……してもいい?」
一瞬だけ揺れる瞳、しかし銀次はニカっと快活にソラに笑いかける。
「あたり前だろ」
「……鼻血が出そう」
「なんでだよ」
耐え切れず足をパタパタ動かして悶えるソラなのだった。その後も料理は次々と運ばれ、若いからという理由で常連が注文していたザンギも出てきた。時折、板前や女将さんと話をしつつ満喫した二人は店を出て、伸びをする。
「お腹いっぱいだね」
「だな。腹ごなしに歩くか。見ろよ、海がめっちゃ見えるぞ」
「おぉ~電車から見るのとはまた違った感じっ!」
手をつなぎながら、坂道を降りる。セミの鳴き声を聞きながらバス停を通り越す。
「さて、夜の灯台まで時間があるな」
「だね。工場の灯りを見たいから、20時くらいにいければいいと思うよ」
「そんなら、ちょっと涼みに行くか」
「海に戻るの?」
「いや、いいとこ知ってんだ。飯の予約は任せたからな、次は俺の番だ」
悪人面に笑みを浮かべる銀次が案内されるがままに、町を歩く二人。海に繋がる川を挟むように商店が並んでいる。
「知ってるか? この辺ガラス屋が並んでんだ」
「聞いたことはあったけど、来たのは初めてというかこの街のことだったんだ?」
「……まぁ、ちょい前に町おこしに使おうとして中途半端になったのは否めないな。せっかくだしなんか買っていこうぜ」
夏ということもあってガラス屋には風鈴が並び、海から登る潮風で音を奏でている。
店の外に並べられているビー玉や、デフォルメされた動物のガラス人形を見て回る。
「こうして熱い中で見ると、確かにガラスの涼やかさに救われるね」
「といっても熱いもんは熱いな。見ろよ、ラムネ瓶あるぞ」
「飲みたい!」
冷蔵庫から取り出されたラムネ瓶を軒下のベンチで飲む。ビー玉が入ったラムネ瓶から少しずつ落ちてくる。
「もどかしいぜ……」
「ちょっとだけ傾けたらいい感じに飲めるよ。角度にコツがあるね」
二人でラムネと格闘したり。
「おそろいの箸置き買おうよ。陶器のもいいけど、夏はガラスもいいよね」
「色々あんなぁ、これなんかどうだ?」
「こっちも捨てがたい……全部買えばいいか」
「ちゃんと選べっての」
おそろいの箸置きを買ったりと、休憩をはさみつつデートを楽しむ二人なのだった。
次回も月曜日更新予定です!!
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